12 / 14
水の中のグラジオラス 一の章
憧物欲愛 伍 その1
しおりを挟む京都。
、、、の端っこ。
奈良県民から言わすと、ほぼ奈良。
JR加茂駅降りて木津川を渡る。
そのまま奈良加茂線を行くと、国道163号線に当たるので左に曲がると、ただただだだっ広い田畑の景色。
視界に広がるのは空間を無駄に使った、民家と工場が点在する贅沢な景色。
そんな景色に、みんな同じ感想を口にする。
「何にも無いなぁ」
そのまま素通りする者が大多数居る中で、少し頭に偏頭痛のような違和感を覚える者がごく僅かに居る。
属に言う、感じる人。
そんな人たちは、導かれるように細い道へ入って行く。
そこは、旧相楽郡加茂町瓶原。
京都府相楽郡にあった町。
二〇〇七年、山城町、木津町と合併し木津川市となった後も、加茂の名は残っている。
その、現木津川市加茂町瓶原一帯には、昔ほどの地力が無くなったとはいえ、残り香的に土に染み付いた高貴な波動がまだ残っている。それに引っ張られて進んでいくと、恭仁京大極殿址に辿り着く。
そこで悠久の刻を感じるか、思いを馳せるか、、、。
その両方が上手く、と言って良いのかどうか、瓶原に残った地力の残留思念と波長が合ってしまうと、さらに足が動き出す。
そういう人は、顔が青くなってるころ。
抵抗せずに行くと、何の事は無い空き地のような場所に立つ事になる。
その何も無い場所が、恭仁宮跡内裏地区。
季節によっては眼を見張る景色が広がるが、お導きによって来た者は偏頭痛が酷くなるか、胃がキリキリし出すか、呼吸が浅くなる。
それ以外でも、少しでも身体に異変を感じたら早々に立ち去るのが良い。数段上の魂魄にリンクしてしまってるので、心身ともに保たない。責任も取れない。
耐えれた者、反対に何にも感じない霊的不感症のシアワセ者は、そこからさらに北へ向かう事になる。
暫くすると、大きな建物が見えてくる。
いかにも『旧家』、『由緒正しき』って感じの屋敷が現れる。そっちのほうが、見た者の口から感嘆の声を引き出す事になる。
「ほ~~、、、」
コレを見て風情を感じないと、感性の乏しい人と思われそうなので、みんな見たら取り敢えず『ほ~~』と言う。
言っとけば安心。
情緒を感じるカンジで、イイ感じになる。
で、結局そんな古めかしい屋敷って何? 誰の? 有名? って話しになる。
家の前まで行っても、立て看板も由緒書きも何もない。一般的には、ただの古くて大きな民家。
しかしこの屋敷こそ、関西道具屋最大手、加茂家の屋敷。
自称、まゆらの婚約者たる加茂珍晴の実家が、此処だ。
正門から中庭を通って玄関へ向かうと、旅館の入り口のような本館が待ち構える。
間違いなくビビる。
そんな玄関には入らず、本館を囲うように小径があるので、そこの飛び石を一つづつ踏んでは進んで行く。歩く人を飽きさせない造りは、庭師の気遣いが伺えたりもする。
気が付くと、いつの間にか本館の裏手に導かれ、さらにその奥にも何やら立派な建物が見えてくる。
典型的、日本家屋。
本館に負けず劣らずの、なかなかのイイ感じ。
ここが、加茂家の“工場”と呼ばれる建物。
工場と呼ばれているが、全くそうは見えない。
だって典型的な日本家屋なんだから。
今、その工場に珍晴が入って行った。
工場長に会うためだ。
会うためというか、呼び出しを受けた。
新しい道具が出来たらしい。
特別な事ではない。
これはお約束で、新しい道具が出来たら、まず加茂家の当主にお披露目するのが習わし。
ここ最近は当主が代替わりを意識して、徐々に次期当主にそういう役を廻し始めている。
珍晴は、『ちゃんと代替わりしてからで良えのに』と思うのだが、当主がそう言うのだから従わない訳にもいかない。
それに堅苦しいお屋敷作業よりかは、こちらのほうが数段楽しい時間を過ごせるので『まいっか』となる。
午前のうちに用事を済ませて、やっとこさ帰って来たことろだった。
気分はちょっと、ウキウキでヴギウギ。
工場長への土産も、忘れずに買って来た。
甘いモノ好きの工場長のため、駅前のカフェのケーキを無理言っておみやにしてもらった。これはきっとポイント高いハズだ。
――抜かりあらへん!
珍晴は本館である母屋に寄ることなく、意気揚々と工場内の長い廊下をケーキ片手に進む。
下手に母屋で、当主に『ただいま』の挨拶と言うか報告をしたら、絶対に話しが長くなるからだ。
年寄の得意技。
そんな事してたら、ケーキの鮮度が落ちる。
工場内と言ったが、初めに言った通り、木造の日本家屋。
普通にデカい屋敷の廊下を歩いていると想像してもらった方が、良いかもしれない。
左手に中庭を眺めながら、縁側に従って行くと裏手にある小さな渡り廊下が出てくる。それが、工場長の居る作業場に続いている。
渡り廊下の手前には、襖の無い十六畳ほどの部屋があり、そこにはいつも誰かしら工場の関係者が必ず居る。工場長の作業場に、部外者を入れないための見張りも兼ねた休憩所になっている。
珍晴が視線を送ると、今もその部屋には三人の作業員が休憩していた。
作業員の一人が珍晴に気付くと、慌てて立ち上がって渡り廊下の前に立ち塞がった。
「次期当主、御用で?」
「お呼ばれしました」
笑顔で答える。
慌てて後ろから年配の作業員が来る。
「失礼しました」
と言いつつ、小さな声で立ち塞がった作業員に聞いた。
「おまえ朝礼居てへんかったんか? 次期当主が新作の“お披露目”しに来るん言うてたやろ」
言われると、焦った顔で言い訳。
「今日、遅出で、、、連絡板見るの忘れてました」
いくら小声でも、眼の前でやり取りされれば珍晴の耳にもしっかり聞こえる。
「良えよ良えよ。ちゃんとお仕事してるんやな~って解って、ボクも安心」
道具屋の加茂家では、道具を造る作業員を大切にする。
雇い主だからと、作業員を下に見たりはしない。
質の良い呪具を造る者が居なければ、道具屋の質も落ちる。
加茂家が伸し上がったのは、代々腕の良い工場長が二人三脚で就いてくれたからだ。
と言う話しを、珍晴は小さい頃から先代、先々代と耳に胼胝ができるまで言われ続けてきた。仕事を手伝うようになると、言われた事が本当だと身に染みてふやけるほど感じてる。感謝してる。
実際、工場長の呪具を使って『これ、マジでヤバい』と、何度思わされた事か、、、。
だからこそ、手土産のモンブランはプレーンと渋皮付きの二種類を買った。
渡り廊下を越えると、そこから先は工場長しか居ない。
珍晴は、中へ入る為の引き戸を開ける前に、少し笑った。
――加茂家も、過渡期か、、、な?
珍晴ももうすぐ代替わりを行うが、少し前に工場長も十六代目に変わったばかりだ。
「失礼します~」
引き戸を開けた。
「あ~、兄さまやっと来たぁ!」
この、あどけない顔で珍晴を迎え入れたのが、工場長、貫地谷十六夜。
まゆらの、二つ下。
「何で今までかかったん? 十六夜、あさイチに連絡入れてんで!」
現在、午後三時〇六分。
確かに、あさイチに呼んだ割には、、、今はおやつタイムの時間。
珍晴がモンブランを持って来るのには適した時間なのだが、、、。
「ごめんごめん。相変わらずごちゃごちゃしとんねん」
「結界?」
「それは勿論やけど、外もなんなと騒がしいねんわ」
「それでかな、、、」
十六夜が杖を突いて立ち上がり、義足と自前の足で向かった棚から持ち出して来たのが、今朝、出来たばかりの新しい呪具。
手に持って来たのは、小さな巾着。
「え~何~? 小銭入れ?」
「ちゃうわ!」
「ははは。解ってるって、冗談ジョーダン。怒りなや」
「兄さまのギャグは、おもんないねん」
「ヤバい。年下に怒られたwww」
優秀な呪具創者は、必要な時に最適な道具を創る。
十六夜もまた、その一人。
彼女が新作の道具を創る時は、ゾーンに入るどころではない。無我の境地に至る。創ってる当の本人も、その時の記憶が存在しない。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】
墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。
主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。
異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……?
召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。
明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。
漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?
みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。
なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。
身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。
一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。
……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ?
※他サイトでも掲載しています。
※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
【R18】スライムにマッサージされて絶頂しまくる女の話
白木 白亜
ファンタジー
突如として異世界転移した日本の大学生、タツシ。
世界にとって致命的な抜け穴を見つけ、召喚士としてあっけなく魔王を倒してしまう。
その後、一緒に旅をしたスライムと共に、マッサージ店を開くことにした。卑猥な目的で。
裏があるとも知れず、王都一番の人気になるマッサージ店「スライム・リフレ」。スライムを巧みに操って体のツボを押し、角質を取り、リフレッシュもできる。
だがそこは三度の飯よりも少女が絶頂している瞬間を見るのが大好きなタツシが経営する店。
そんな店では、膣に媚薬100%の粘液を注入され、美少女たちが「気持ちよくなって」いる!!!
感想大歓迎です!
※1グロは一切ありません。登場人物が圧倒的な不幸になることも(たぶん)ありません。今日も王都は平和です。異種姦というよりは、スライムは主人公の補助ツールとして扱われます。そっち方面を期待していた方はすみません。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる