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水の中のグラジオラス 一の章
憧物欲愛 壱 その2
しおりを挟む報告はいつもの如く、詳細不明で通るだろうと高を括っていた。
三人とも気を失っている。
楽な後始末。
二人は互いに顔を見合わすと、今度は毘袁が悪い顔になった。
「さてさて、どうする?」
「何が?」
ニヤ付く毘袁。
「何がって、どっちがどっちの身体検査するって話しやん?」
シートに項垂れる気の強そうな女と、床に横たわるアイドル級の美少女。
「せーのっ!」
互いに指差した。
同じだった。
指差したのは、床に横たわる美少女の方。
「カブるのぉ~」
「そりゃそうやろ。こんな厚化粧の女と純粋華憐な女の子。どっちが良え言うたら、、、」
「そなや、、、ほんだら、、、」
二人とも、腰を低くして構える。
「最初はグッ! じゃんけんっ!」
勝ったのは魯甫。
頭を右側にして、床に倒れている天使のような美少女へとニヤ付いて向かう。
左側のシートに項垂れる厚化粧で気の強そうな女には、毘袁。
と、互いにハイルーフの両サイドに分れた。
魯甫はウキウキ。
床に横たわる女に顔を近付けるため、その場にしゃがむ。
「く~~~。たまらん」
間違いなくカワイイ。
目を凝らさないと、毛穴が見えない。
アイドル級の、、、いやいや。最近の量産型アイドルよりも完全レベチ。
年上かもしれない。
いや、やっぱり年下?
とにかくカワイイ。
美人なのに、カワイイ。
――これこそ、紛う事無き美少女!
眼の前で女の顔を見ているという興奮状態のため、魯甫の思考はやらしい方向にしか向かない。
取り敢えず、揉む。
胸を揉む。
魯甫の身体検査は、胸から始まった。
ひと握りで解る。
何という柔らかさ。
信じられない。
今まで経験した事の無い柔らかさ。
なのに、弾き返してくる。
柔らかいのに、弾き返す時は力強い。
――何なんだこの感触、、、?!
鼻息が荒くなった魯甫に、毘袁の揶揄が飛ぶ。
「おまえちゃんとやってんのか? 免許証とか探してるか?」
建前上、素早く“ポッ検”を終えてパンツの左ポケットに入っていた三つ折りの財布を取り出してはいたが毘袁も男、もう何も入ってないと解っていながら丹念にお尻を弄る。
ついでにしっかり胸も揉む。
厚化粧だと言っても、女性の身体に触れるチャンスなど滅多にない。
これは身体検査、手を抜いてはイケナイ。
コレは、仕事だ。
手を抜かず、しっかりと触って確認しないとイケナイ。
身体検査をやり過ぎて下半身の居心地が悪くなった毘袁は、抜き取った三つ折りの財布を開けた。
マイナンバーカードがあった。
確認。
日裏桃子。
生年月日も載っていた。
計算すると、今年二十六歳。
ちょっと年上。
顔写真は化粧っ気が無く、意外とおぼこい顔が正面を向いていた。
――何や。化粧せえへん方がカワイイやんけ
と、写真と実物を何度も見比べる。
が、やっぱカワイイ方を取られたやっかみもあり、言葉に棘が入る。
「乳ばっかり揉んでんと、ええ加減早せぇよ」
その時、運転席から呻き声が聞こえた。
「う、、、うぅぅう、、、」
男の意識が戻り始めている。
そうこうしてる間に、この女も気が付き始めるだろう。
「ほら、マジで早せえよ」
わかった解ったと、けれど最後にどうしても乳首を触りたい魯甫は、アンダーウェアの中に手を入れて驚いた。
――ノーブラ?
ブラトップ付きなんてモノを知らない魯甫には、驚く以外の事が出来ない。
「、、、?!」
驚いた事は、もう一つ。
自分の顔を見上げる大きな瞳と、眼が合った。
ハイルーフの後部座席の床に横たわる、これから処分しようとしている美少女に対し、イケナイ事をしている後ろめたさと恥ずかしさで顔を赤らめた。
「イカ臭い手ぇで、あたしの身体、ナニ触っとんねん」
瞳を開けると、尋常じゃない可愛さだった。
吐かれた言葉以外は、、、。
「、、、あれ?!」
指先がおかしい。
痺れ?
痛み?
魯甫は、自分の指の先に何が起きたのか知るために、滑り込ませていた手を引き抜いた。
「い、、、????」
親指、人差し指、中指の第二関節までが、凍っていた。
「どうした?」
毘袁が聞いた時、その美少女は車内で勢いよく後ろ廻りをする。
その動作の途中で足を延ばし、凍った指先を見ていた魯甫を蹴り飛ばした。
「あっ?!」
「魯甫!」
胸を弄っていた所から2メートルほど後ろに転び、地面に手を付く。
尻もちを付いていた。
違和感。
地面に付いた手を顔の前に持って来て、見た。
「あああ、、、???!」
悲惨な悲鳴が、魯甫の口から勝手に上がった。
その魯甫が今まで居た位置に、後ろ廻りを終え体操選手みたいに両手を拡げて着地する美少女。
「体操選手のぉ~!」
オラキオ張りの着地。
振り向いた。
尻餅を付いた、魯甫を見下ろす。
自分の指先を見て、意味の解らない声を上げている魯甫を見下ろす。
それを見て、くすくすと笑っていた。
「指無くなって、痛い?」
凍った魯甫の指先が、今の衝撃で砕けていた。
ああ、ああ、と頷く魯甫に、天使のように笑い掛ける。
「噓つけ。凍って痛さなんか有らへんわ。指が無くなったから、脳が勝手に痛いって思ってるだけや」
何だ? この女は何を言っている? と魯甫は今の今まで胸を揉んでいた美少女を見上げた。
見上げた視界の先に立つのは、EG使い、ユキオンナ。
「痛み無くしたるわ」
「へ、、、?」
魯甫に、あの感覚が来た。
痺れか?
痛みか?
――何なんだ?
その感覚は、今度は指先を通り越して肘まで来た。
視線を動かす。
あぁ、、、やっぱり。
肘まで、、、魯甫の右腕は肘まで、凍っていた。
「な? 指先ぜんぜん痛無いやろ? 凍って感覚麻痺してんねん」
天使の笑顔でそう言うと一旦車内に戻り、三列目のシートに置いていた金属バットを探す。
自分と同じく、シートの下、床に落ちていた。
あまりにも堂々としてゆっくりとした動きに、毘袁もユキオンナを見つめるだけで声も出せずに成り行きを見つめていた。
金属バットを肩に、再び魯甫の前に立った。
「せ~のっ!」
フルスイング。
金属バットの、金属音。
勢いで、魯甫の身体が地面に倒れた。
倒されながら、氷が砕けるのを見ていた。
訂正。
凍った腕が砕けるのを、、、自分の腕が砕けるのを見ていた。
肘から先が無くなった腕を見つめながら、魯甫が叫んだ。
「ああああああああああ、、、」
嗤う美少女。
「な? 痛ぅ無いやろ?」
「魯甫!!」
金属バットの金属音、その2。
毘袁が動こうとした瞬間、女が力任せにハイルーフの車体を金属バットで殴っていた。
揺れる車体。
「ええ加減、起きぃ!」
カッ、、、と、モコの眼が開いた。
それに気付く毘袁。
モコは、起き様に蹴りを放つ。
躱すために、後ろへ跳ぶ毘袁。
間が、空く。
モコが、ハイルーフから降り立った。
「?!」
自然霊とは別の、禍々しい波動が畝り出した。
「オマエも、、、EG使い?!」
ゆらゆらと、オーラが観えそうなほど濃い波動をモコが纏う。
――来る!
構え、足運びから空手に近い格闘術と判断した毘袁は、自らもそれ相応の防御態勢に入る。
入るのだが、相手はEG使い。単純に受けて良いものか判断に迷う。
迷う暇も無く、モコの摺足は毘袁を射程距離に捕まえた。
ローキック。
躱されても、そのままステップに変えて踏み込む!
左のジャブが来る。
と解っても、これは躱せないと毘袁は判断。
右のガードを上げた。
「?!」
背筋に冷たいモノが奔った。
EG波を纏っている!!
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