上 下
5 / 14
水の中のグラジオラス 一の章

憧物欲愛 壱 その2

しおりを挟む


 報告はいつものごとく、詳細不明で通るだろうとたかくくっていた。
 三人とも気を失っている。
 楽な後始末。

 二人は互いに顔を見合わすと、今度は毘袁が悪い顔になった。 
 「さてさて、どうする?」
 「何が?」
 ニヤ付く毘袁。

 「何がって、どっちがどっちの身体検査するって話しやん?」
 シートに項垂うなだれる気の強そうな女と、床に横たわるアイドル級の美少女。
 「せーのっ!」
 互いに指差した。
 同じだった。
 指差したのは、床に横たわる美少女の方。

 「カブるのぉ~」
 「そりゃそうやろ。こんな厚化粧の女と純粋華憐じゅんすいかれんな女の子。どっちがえ言うたら、、、」
 「そなや、、、ほんだら、、、」

 二人とも、腰を低くして構える。
 「最初はグッ! じゃんけんっ!」

 勝ったのは魯甫。
 左側のシートに項垂れる厚化粧で気の強そうな女には、毘袁。
 頭を右側にして床に倒れている天使のような美少女には、魯甫。と、互いにハイルーフの両サイドに分れた。
 魯甫はウキウキ。
 床に横たわる女に顔を近付けるため、その場にしゃがむ。

 「く~~~。たまらん」
 間違いなくカワイイ。
 目を凝らさないと、毛穴が見えない。
 アイドル級の、、、いやいや。最近の量産型アイドルよりも完全レベチ。
 年上かもしれない。
 いや、やっぱり年下?

 とにかくカワイイ。
 美人なのに、カワイイ。
 ――これこそ、まごう事無き美少女
 眼の前で女の顔を見ているという興奮状態のため、魯甫の思考はやらしい方向にしか向かない。
 取り敢えず、む。
 胸を揉む。
 魯甫の身体検査は、胸から始まった。
 で解る。
 何という柔らかさ。

 信じられない。
 今まで経験した事の無い柔らかさ。
 なのに、弾き返してくる。
 柔らかいのに、弾き返す時は力強い。
 ――何なんだこの感触、、、?!
 鼻息が荒くなった魯甫に、毘袁の揶揄やゆが飛ぶ。

 「おまえちゃんとやってんのか? 免許証とか探してるか?」
 建前上、素早く“ポッ検”を終えてパンツの左ポケットに入っていた三つ折りの財布を取り出してはいたが、毘袁も男。もう何も入ってないと解っていながら丹念にお尻をまさぐる。ついでにしっかり胸も揉む。厚化粧だと言っても、女性の身体に触れるチャンスなど滅多にない。これは身体検査を充分念入りにしないとイケナイのだ。

 コレは仕事だ。
 手を抜いては、イケナイ。
 身体検査をやり過ぎて下半身の居心地が悪くなった毘袁は、抜き取った三つ折りの財布を開けた。
 マイナンバーカードがあった。
 確認。

 日裏桃子ひうらももこ

 生年月日も載っていた。
 計算すると、今年二十六歳。ちょっと年上。
 顔写真は化粧っ気が無く、意外と顔が正面を向いていた。

 ――何や。化粧せえへん方がカワイイやんけ
 と、写真と実物を何度も見比べる。
 が、やっぱカワイイ方を取られたやっかみもあり、言葉に棘が入る。
 「乳ばっかり揉んでんと、ええ加減はよせぇよ」

 その時、運転席からうめき声が聞こえた。
 「う、、、うぅぅう、、、」
 男の意識が戻り始めている。

 そうこうしてる間に、この女も気が付き始めるだろう。
 「ほら、マジではよせえよ」
 わかった解ったと、けれど最後にどうしても乳首を触りたい魯甫は、アンダーウェアの中に手を入れて驚いた。
 ――ノーブラ?
 ブラトップ付きなんてモノを知らない魯甫には、驚く以外の事が出来ない。

 「、、、?!」
 驚いた事は、もう一つ。
 自分の顔を見上げる大きな瞳と、眼が合った。
 ハイルーフの後部座席の床に横たわる、これからに対し、イケナイ事をしている後ろめたさと恥ずかしさで顔を赤らめた。

 「イカ臭い手ぇで、あたしの身体、ナニ触っとんねん」

 瞳を開けると、尋常じゃない可愛さだった。
 吐かれた言葉以外は、、、。

 「、、、あれ?!」
 指先がおかしい。
 痺れ?
 痛み?
 魯甫は、自分の指の先に何が起きたのか知るために、滑り込ませていた手を引き抜いた。
 「い、、、????」

 親指、人差し指、中指の第二関節までが、

 「どうした?」
 毘袁が聞いた時、その美少女は車内で勢いよくをする。
 その動作の途中で足を延ばし、凍った指先を見ていた魯甫を蹴り飛ばした。
 「あっ?!」
 「魯甫!」
 二メートルほど後ろに飛んで、地面に手を付く。尻もちを付いた。
 違和感。
 地面に付いた手を顔の前に持って来て、見た。

 「あああ、、、???!」

 悲惨な悲鳴が、魯甫の口から勝手に上がった。
 その魯甫が今までが居た位置に、後ろ廻りを終え体操選手みたいに両手を拡げて着地する美少女。

 「体操選手のぉ!」
 オラキオ張りの着地。

 振り向いた。
 尻餅を付いた、魯甫を見下ろす。
 自分の指先を見て、意味の解らない声を上げている魯甫を見下ろす。
 それを見て、くすくすと笑っていた。

 「指無くなって、痛い?」

 凍った魯甫の指先が、今の衝撃で
 ああ、ああ、と頷く魯甫に、天使のように笑い掛ける。

 「噓つけ。凍って痛さなんからへんわ。指が無くなったから、や」
 何だ? この女は何を言っている? と魯甫は今の今まで胸を揉んでいた美少女を見上げた。

 見上げた視界の先に立つのは、EG使い、ユキオンナ。

 「痛み無くしたるわ」
 「へ、、、?」

 魯甫に、あの感覚が来た。
 痺れか?
 痛みか?
 ――何なんだ?
 その感覚は、今度は指先を通り越して肘まで来た。
 視線を動かす。
 あぁ、、、やっぱり。
 肘まで、、、魯甫の右腕は肘まで、凍っていた。

 「な? 指先ぜんぜんいた無いやろ? 凍って感覚麻痺してんねん」

 天使の笑顔でそう言うと一旦車内に戻り、三列目のシートに置いていた金属バットを探す。自分と同じく、シートの下、床に落ちていた。
 あまりにも堂々としてゆっくりとした動きに、毘袁もユキオンナを見つめるだけで声も出せずに成り行きを見つめていた。
 金属バットを肩に、再び魯甫の前に立った。

 「せ~のっ!」

 フルスイング。
 金属バットの、金属音。
 勢いで、魯甫の身体が地面に倒れた。
 倒されながら、氷が砕けるのを見ていた。

 訂正。
 凍った腕が砕けるのを、、、自分の腕が砕けるのを見ていた。
 肘から先が無くなった腕を見つめながら、魯甫が叫んだ。

 「ああああああああああ、、、」
 わらう美少女。
 「な? 痛ぅ無いやろ?」

 「魯甫!!」
 毘袁が動こうとした瞬間、女が力任せにハイルーフの車体を金属バットで殴る。
 金属バットの金属音、その2。
 揺れる車体。

 「ええ加減、起きぃ!」
 カッ、、、と、モコの眼が開いた。
 それに気付く毘袁。
 モコは、起き様に蹴りを放つ。
 躱すために、後ろへ跳ぶ毘袁。
 間が、空く。

 モコが、ハイルーフから降り立った。
 「?!」
 自然霊とは別の、禍々まがまがしい波動がうねり出した。
 「オマエも、、、EG使い?!」
 ゆらゆらと、オーラが観えそうなほど濃い波動をモコがまとう。
 ――来る!
 構え、足運びから空手に近い格闘術と判断した毘袁は、自らもそれ相応の防御態勢に入る。
 入るのだが、相手はEG使い。単純に判断に迷う。
 迷う暇も無く、モコの摺足すりあしは毘袁を射程距離に捕まえた。

 ローキック。
 かわされても、そのままステップに変えて踏み込む!
 左のジャブが来る。
 と解っても、これは躱せないと毘袁は判断。
 右のガードを上げた。

 「?!」

 背筋に冷たいモノがはしった。
 EG波をまとっている!!

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

【R18】スライムにマッサージされて絶頂しまくる女の話

白木 白亜
ファンタジー
突如として異世界転移した日本の大学生、タツシ。 世界にとって致命的な抜け穴を見つけ、召喚士としてあっけなく魔王を倒してしまう。 その後、一緒に旅をしたスライムと共に、マッサージ店を開くことにした。卑猥な目的で。 裏があるとも知れず、王都一番の人気になるマッサージ店「スライム・リフレ」。スライムを巧みに操って体のツボを押し、角質を取り、リフレッシュもできる。 だがそこは三度の飯よりも少女が絶頂している瞬間を見るのが大好きなタツシが経営する店。 そんな店では、膣に媚薬100%の粘液を注入され、美少女たちが「気持ちよくなって」いる!!! 感想大歓迎です! ※1グロは一切ありません。登場人物が圧倒的な不幸になることも(たぶん)ありません。今日も王都は平和です。異種姦というよりは、スライムは主人公の補助ツールとして扱われます。そっち方面を期待していた方はすみません。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

処理中です...