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ハリボテの王子様
しおりを挟む父である国王は俺が幼い頃に亡くなった。
亡くなった原因は病死と言われているが、本当のところは分からない。
その瞬間から、俺はハリボテの王子様となった。
***
あまりにも俺が幼すぎるという理由で、父の弟が王に着いた。
父の弟は政務に興味がなく、国王になる前から続けている研究ばかりしている。この人は妻も子供も居らず必要性を感じていないから、俺と母がそのまま王子であり、王妃となっているだけ。
母は父が亡くなったことで嘆き悲しみ部屋に閉じこもるようになり、滅多に公に姿を現さなくなった。
この国で王族の権力は圧倒的であったが、そんな状態が5年も続けば、この国の王族は敬われる存在から、貴族にとっても都合が良いからとそのまま捨て置かれるだけの存在に成り下がった。
つまり、王族の衰退を表していた。
けれど対外的には王族はこの国のトップであった。
この国の舵をとっているのは、もはや王族ではないのに何かあった時の保険として生かされた。
貴族が好き勝手し国が衰退していくと、民は蜂起し始めて王族の死を望むようになった。
流れる川が行き先を知っているかのように、皆、王族の死をゴールに決めていた。
俺はその話が耳に入るようになったとき、もしかしたら逃げることが出来たかもしれない。
けれど、俺はその時初めて王族として民に救いというには不確かだが、確かな形として希望を自分の死をもって与えられることに歓喜した。
ハリボテの王子であった俺の命の使い道がやっと見つかったような心持ちであった。
俺の執事である男は、「隣国へと逃亡しましょう」「貴方様が責任を取る必要は全くない」「どうしてそう変に真面目なんだ!!」と俺に対して懇願し嘆き怒りととても忙しかった。
民の反乱が大きな波となり、もやはこの国を飲み込むのではないかと思われるようになった頃、俺はこの執事になんらかの薬を盛られて、気づけば国境を越え隣国を猛烈な勢いで走る馬車の中であった。
「執事が王族に対して薬を盛るなんて‼︎」
と俺が憤慨したら、執事は真面目腐った顔で言った。
「貴方様はもう王族ではありません」
「何たる無礼な‼︎」
「実は民が蜂起する兆しを見せた時に貴方様は病に罹り瀕死の重症だと噂を流しました。そして、少し前に貴方様は亡くなったことになっております」
自分が知らないうちに死んだことにされていることには多大なショックを受けたが、執事の裏切り行為が何より許せなかった。
「王子、貴方はもう王子じゃないのです。だからどうか...」
執事が続けたかった言葉の続きはこうだろう。
"生きてください"
ハリボテであったとしても、俺は王子である矜持があった。俺はこの国に一生を捧げるべきであったのに。
心にぽっかりと穴が空いてしまったような心持ちであった。このような状態でどうやって生きていけばいいのだろう。
現実がぼんやりとしてきて、なんだか現実味がなかった。
「どうかお願い致します...どうか...」
泣き始めた執事に何も言えず眺めていたが、ふとこの執事は私の臣下であり民でもあることに気がついた。あまりにも側で支えてくれていたので、民であるという意識が薄かった。
俺の脳裏に焼き付いている民の姿は、幼い頃に見た城下で忙しなく動いて騒いで全力で生きている人々であった。
最近の熱に浮かされたような民達の姿ではなく。
執事も民であるならば、俺ができることはもうこの場においてただ一つであった。
「分かった」
泣いている執事の手を握りながらそう告げた。
俺が王族としてではなく、1人の人として生きると決めた日であった。
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