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とんでもない目にあった *
しおりを挟む⚠︎魔物×人間の描写あり
大丈夫な方はスクロールしてお読み下さい。
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朝起きて吐いた息が白く見えた。この村にまた冬がやってきた。
3年前に魔王という未知の生物が誕生した。
魔王という名は圧倒的な強さに対しての名であって、この生物の生態系は何処を探しても出てこないらしい。
らしい、というのは、こんな辺鄙な村には魔王の細部の情報まで伝わらないからであった。
この村は周囲をきりだった山に囲まれ、ほぼ孤島の地である。
そんな訳で殆ど他人事のように聞いていた魔王が他人事じゃなくなったのは、冬の到来とともに王都からの使いがやってきたからだった。
魔王が現れたことにより、等々こんな辺鄙な村にも召集令状がきた。曰く、健康な15歳以上の男は召集されるべし、と。
マジかと思ったし、今から山に行ってほとぼりが覚めた頃に帰ってこようかなと考えたけど、すぐに見つかって連れてかれた。
名前もない俺の村によく辿り着きましたね、というと、この村に来ている商人から聞いた、といわれた。全くお喋りな商人だった。
王都に連れて行かれ、人の多さに吐き気がした。人慣れしてない人間にこの多さは辛すぎる。途中で吐いてから、寮のようなところへ連れて行かれた。
物事のスピードが俺が過ごしていた村とは圧倒的に違いすぎて、しんどさが増すばかりであった。
王都では高らかに朝を告げる鶏の代わりに、大きな鐘の音がなった。うるさいし何度も鳴るので頭に響いてしょうがなかった。
うるせえなあ、と独り言を呟いてると声をかけられた。同室のやつだった。
「なあ、お前何処からきたの?」
「辺鄙なとこにある名前もない村。お前は?」
「俺もそんなとこ」
同室のやつは、名前がリヴィアと不思議な響きの名だったが気のいいやつのようで安心した。
俺はリヴィアにここに連れてこられたときから感じていた疑問をぶつけた。
「俺ら何の為に連れてこられたんだろうな」
「何の為って?」
「俺さ今まで農作業とか以外したことないしさ。ここで何すんだろって」
「さあな。身を任せるしかないんじゃないか」
リヴィアはため息をついてそう言った。その通りだと思った。
否応なく連れてこられたのだから嫌な予感しかしなくても、ここから逃げるのも難しいのだから。
***
翌日から剣の指導された。
剣なんか握ったこともなかったし、縁のないものだと思っていたのに人生とは上手く行かないらしい。
剣を振り回しているのか剣に振り回されているのか分からない時間が過ぎて、あっという間に最前線に放り込まれた。
偉い騎士様曰く、国の一大事に一致団結し挑むべし、諸君らの健闘を祈る、だと。
お堅い言葉でよく分からなかったが、リヴィア曰く、使い捨ての駒あるいは人間の盾として精一杯やれよ、という意味だったらしい。王都の人間の言葉はどうもまどろっこしい。
折を見て抜け出したくても、騎士様らが後ろで見張ってて囚人にでもなった気分だった。訳も分からず連れて来られて放り込まれた先のここが墓場になるのかと思うと、なんだかなあと溜め息が出た。
最前線なので、すぐに鋭い牙が生えた茶色い熊のような魔物と遭遇した。自分の背の2倍はあった。剣を振り回すような勇気などすぐになくなって、敵前逃亡すると後ろにいる騎士様らがこちらを怒鳴る声が聞こえた。怒鳴られようとどうしようもない。今の問題は、生きるか死ぬかだった。
先程の魔物からは逃げられたが、逃げた先で他の魔物と遭遇した。全身真っ黒な姿の魔物で、こちらは俺の背の3倍を超えていた。
とうとう殺されるのだと思ったら、身体が死への恐怖で動けなくなり、腰が抜けてその場で地面に座り込んでしまった。
けれど、いつまで経っても殺される気配がなかった。よく見ると、魔物が俺をジッと見ていることに気づいた。
俺も魔物を観察した。真っ黒の毛のなかによく見るとまん丸な黒い目がある。
何だか、酷く感動している様子でこちらを見ていて、次の瞬間には魔物に俺は抱き抱えられ、ものすごいスピードで何処かへ向かっていった。
リヴィアがこちらを見ながら目を見開いて、俺の名を叫んでいるのが聞こえた。
***
魔物は自分の寝床と見られる洞窟ところへ俺を連れて行き、何故か俺を酷く大切そうに扱った。
愛玩動物とかペットとかそれに近い感じだけど。
ご飯も最初は様子見されたのか、虫や蛇、木の実、人間から奪っただろうお弁当、ともかく色々試された。
食べた物はまた出てくるようになったから、この魔物は知能が高いように感じた。
魔物に対して、1番困っているのは身体中を舐められる時だ。隅々まで毎日飽きずに舐められた。毛繕いのつもりかもしれないが、人間に毛繕いは必要ないことをどうやったら分かってもらえるのだろうか。
服は最初の毛繕いの時にボロボロになって着れなくなったので、裸の状態がデフォルトになってしまった。
俺がこの日々に慣れてきた頃、リヴィアが連れてこられた。
魔物が俺を攫った時にリヴィアが叫んでいたのを覚えていたようで、こちらが喜んでいるか反応を見られた。
ご飯を出された時に反応を見られたのと同じような雰囲気であった。何でこちらが喜ぶかを知ろうとしているようであった。
俺は叫ぶ元気もなかったけれど、リヴィアは俺が魔物に舐められてあられもない姿になっている姿を見て叫んでいた。
魔物に舐められただけなんだが、相手は確実に誤解していた。身体を隠すように体制を変えると、魔物は俺が嫌がってることがなんとなく分かったらしく、リヴィアから俺が見えないようにした。
魔物は基本的に俺を可愛がろうという意識があるので、リヴィアを宥めるように舐め始めた。
リヴィアはリヴィアで魔物に舐められて叫んでいるけれど、俺は俺でこんな姿を人に見られてショックだった。
***
俺がショックを受けていると、それが気になったらしい魔物は、ご飯のバリエーションを増やしたり、宥めるように舐めてきたり、と忙しなかった。
リヴィアは早々に何処かへと連れて行ったらしく、リヴィアにまた会うことはなかった。
安心した雰囲気が魔物に伝わったのか、また宥めるように舐められた。
それでも元気が出ない俺を、次は散歩に連れて行くことにしたらしく、外へと連れて行かれた。
魔物に抱っこされていて魔物の毛で見えにくいが裸だし、たまに休憩の為か、止まると外なのに舐められるし、誰にも見られないことを願った。
魔物は人間観察もしたようで何処から手に入れたのか服も手に入れてきた。破けているものと破けていないものと半々ぐらいで持ってきた。破けているものは人が着ている服を手に入れようとして破けたのだろう。俺の服と同じような惨状であった。
俺に喜んでもらおうという気持ちが魔物にはあるようだった。
***
そんな日々が続いた頃、突然、魔物が帰ってこなくなった。
必然的に食事も手に入らなくなったので、俺は這う這うの程で人里を探し出し、なんとか故郷に戻ることができた。
故郷に帰る道中で新聞記事にあの魔物の絵が載っており、討伐されたと大々的に載っていた。あの魔物は魔王だったらしい。殆ど俺の側に居たし、ずっと俺を舐めていただけのやつが魔王だったなんて信じられなかった。
見た目はぱっと見怖いが、こちらを意図して害そうとしてきたことが一度もなかったからか、俺は魔物を恨む気持ちがなかった。どちらかというと、騎士様達を恨む気持ちがあったぐらいだ。
魔物が討伐されたことには、複雑な気持ちであった。
ともかくとんでもない目にあったと溜め息が出たが、村で魔王の墓を作ってやった。墓標も中身もない墓。
あいつが何をしたのか分からないが、あいつは人間に興味があって、俺みたいに色んなヤツを舐めたんだろうなと想像できて、また溜め息が出た。
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