次郎と俺のハナシ

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3章 焔の山にて

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 1ヶ月がたち、祭り本番初日がきた。

 祭りは1週間も続けるらしい。長すぎないだろうか。

 俺の知ってる祭りは長くて2日間の開催だったので、祭りの規模に驚くばかりであった。

 宿の中で受付をしていても、ドンドコドンドコ身体全体に響くほど聞こえてくる太鼓の音、騒ぎ声。

 姿を見なくても、焔の山の人達が全力で祭りを楽しんでいる姿が想像できて、密かに笑ってしまった。

 この1ヶ月で、焔の山の人達に少し慣れた気がする。気性が荒いし、豪快で、炎への愛情が強いが、根が優しいのだ。

 水の城からくる観光客もこういった焔の山の人達に惹かれてやって来る人も多いのかもしれない。宿に来る人達はリピーターが多いのだ。

 俺もその気持ちが分かる気がした。

 心配性で根が真面目な水の城の人々は自分達とは正反対の人達が輝いて見えて好きになる。そんなところだろう。

 水の城でテレビで見てた頃は、気性の荒いやばい国だと思っていたけれど、実際に来てみるとまた違った側面が見えてきて、世界はなんだか面白い。

 母は焔の山に行くことに最後まで不安そうだったが、行ってみると素敵なところだったよと伝えなければならない。

 そういえば今も心配してるかもと、手紙を書くことにした。携帯も持ってきていたが、通信状態が悪く、連絡できそうになかったので。

 母に連絡するよう言われてたのに、すっかり忘れていたことが申し訳なかった。1ヶ月の間、慣れない宿の仕事でてんやわんやだったのだ。

 レターセットは持ってきていたので、元気にしてるよ、運気も上げた、と松明を振り回してる写真を添えて送った。

 1ヶ月前に松明を振り回していたときにカメラで撮ってくれた住人がいて、後で街であった時にくれたのだ。
 あの時はどうなるかと思っていたが、今では良い思い出だった。

 ドンドコドンドコ、太鼓の音が聞こえる。音が止んでもすぐ再開される様子に、もしかしてこの状態が夜まで続くんじゃないかと少し心配になった。初日から全力すぎる。

***

 夜中の12時まで太鼓の音が続いていた。まだまだ騒ぐ声が聞こえる。明日も祭りは続くのに、大丈夫だろうか。

 朝起きて、宿の外の掃除をしようとしたら、宿の受付の人が行き倒れてた。宿まで後一歩だったのに、たどり着かなかったらしい。

 筋肉痛が...と蚊の鳴く声で言われ、なんとか抱え込んで休ませた。

 今日もお昼からお祭りが始まるが、大丈夫だろうか。

 昼頃になると、なんと宿の受付の人は元気に起き上がって、また太鼓を叩きに行った。さっきまでの惨状を見ていたので、信じ難い光景だった。

 朝はありがとよ、とお礼を言われ、これお土産、と耳栓をもらった。

 宿の受付の人は、なんでかこの時期は耳栓が人気なんだよな、と首を捻っていたが、みんな太鼓の音で眠れないことは伝えづらく、苦笑いしてしまった。

 今日も太鼓頑張ってね、と伝えると、おうよ!と元気に走り出して行った。

 少し経つと、ドンドコドンドコと太鼓の音が聞こえるようになった。
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