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2章 水の城にて
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次郎の母から、野菜を作っているとき、どんなことを考えてた?と聞かれた。
次郎のことが口に出そうになったが、次郎から次郎の母には、次郎のことを口止めされていたことを思い出して口を閉じた。
けれど、次郎の母にはその間だけで察するものがあったらしい。
次郎のことを考えてくれたんでしょう、と言われた。次郎のことを想ってくれてありがとう、と。
次郎に口止めされていたとはいえ、罪悪感が過ぎった。次郎の母は砂の大陸の次郎にも会っておくべきだったのでは、と。最後は次郎に水の城の頃の記憶がなくなったとしても。
考え込んでいると、次郎の母が突然、懐かしい話題を持ち出した。
次郎がいなくなってからも次郎の声が聞こえるって言っていたことがあるでしょう、と。その時、次郎の母は次郎の父から聞いた、想いが強く現れる世界だ、という言葉が頭を過ったらしい。
次郎の母は、あなたが次郎を、次郎もあなたのことを想ってたから声が聞こえるんだと思ってたわ、と言われた。
少し妬いていた、と。
次郎の母は、あの子全く私には話しかけないんだから、と笑いながら呟いていた。
壁に掛けられている秒針の音が寂しく聞こえた。
次郎の母は、あのね、次郎がいなくなったとき本当に苦しくて辛かったの、と近くにいたリィアを持ち上げて膝の上に乗せながら言った。
続ける言葉を慎重に選んでいるようで、リィアは手で撫でくりまわされて、にゃ!と抗議するように鳴いた。
その鳴き声にハッとした次郎の母が、リィアごめんね、と言った後、また黙り込んだ。
けれどね、と次郎の母は掠れた声で、言葉を紡ぎ出した。
私と同じぐらい、もしかしたらそれ以上に次郎がいなくなったことに苦しんで辛い思いをしているあなたの姿を見て、次郎を想ってくれる人がいることにとても感謝してたの、と。
申し訳ない気持ちもあった、と伝えられた。
何といえばいいか分からなかった。
俺にとって次郎を想うことは当たり前で、辛く悲しいというよりも恋しいというのがあっているように思っていたから。
続けて次郎の母から、次郎に貸してくれた上着とマフラーと手袋が、あの子があなたに想われていることを教えてくれて嬉しかったのよ、リィアも側にいてくれたしね、といわれた。
俺が次郎の死を理解できるようになったときには、年月が経っていたから、あの時の行動をどう思ったかなんて、とてもじゃないが聞けなかったから、少し救われたような感じがした。
次郎の母は、本当にありがとう、と涙声で呟いた。
***
猫のリィアはすっかり次郎の家の子になっているようで、ソファに我が物顔で座ってた。
ソファに座ろうとすると、にゃ、と猫パンチされる。そこのソファね、リィアのお気に入りなの、と次郎の母が笑ってた。
棚の上には、次郎の写真とリィアの写真が仲良く並んで飾ってあった。
リィアのこと大切に育ててくれてありがとう、というと、こちらこそリィアを私に貸してくれてありがとう、といわれた。
次郎のことが口に出そうになったが、次郎から次郎の母には、次郎のことを口止めされていたことを思い出して口を閉じた。
けれど、次郎の母にはその間だけで察するものがあったらしい。
次郎のことを考えてくれたんでしょう、と言われた。次郎のことを想ってくれてありがとう、と。
次郎に口止めされていたとはいえ、罪悪感が過ぎった。次郎の母は砂の大陸の次郎にも会っておくべきだったのでは、と。最後は次郎に水の城の頃の記憶がなくなったとしても。
考え込んでいると、次郎の母が突然、懐かしい話題を持ち出した。
次郎がいなくなってからも次郎の声が聞こえるって言っていたことがあるでしょう、と。その時、次郎の母は次郎の父から聞いた、想いが強く現れる世界だ、という言葉が頭を過ったらしい。
次郎の母は、あなたが次郎を、次郎もあなたのことを想ってたから声が聞こえるんだと思ってたわ、と言われた。
少し妬いていた、と。
次郎の母は、あの子全く私には話しかけないんだから、と笑いながら呟いていた。
壁に掛けられている秒針の音が寂しく聞こえた。
次郎の母は、あのね、次郎がいなくなったとき本当に苦しくて辛かったの、と近くにいたリィアを持ち上げて膝の上に乗せながら言った。
続ける言葉を慎重に選んでいるようで、リィアは手で撫でくりまわされて、にゃ!と抗議するように鳴いた。
その鳴き声にハッとした次郎の母が、リィアごめんね、と言った後、また黙り込んだ。
けれどね、と次郎の母は掠れた声で、言葉を紡ぎ出した。
私と同じぐらい、もしかしたらそれ以上に次郎がいなくなったことに苦しんで辛い思いをしているあなたの姿を見て、次郎を想ってくれる人がいることにとても感謝してたの、と。
申し訳ない気持ちもあった、と伝えられた。
何といえばいいか分からなかった。
俺にとって次郎を想うことは当たり前で、辛く悲しいというよりも恋しいというのがあっているように思っていたから。
続けて次郎の母から、次郎に貸してくれた上着とマフラーと手袋が、あの子があなたに想われていることを教えてくれて嬉しかったのよ、リィアも側にいてくれたしね、といわれた。
俺が次郎の死を理解できるようになったときには、年月が経っていたから、あの時の行動をどう思ったかなんて、とてもじゃないが聞けなかったから、少し救われたような感じがした。
次郎の母は、本当にありがとう、と涙声で呟いた。
***
猫のリィアはすっかり次郎の家の子になっているようで、ソファに我が物顔で座ってた。
ソファに座ろうとすると、にゃ、と猫パンチされる。そこのソファね、リィアのお気に入りなの、と次郎の母が笑ってた。
棚の上には、次郎の写真とリィアの写真が仲良く並んで飾ってあった。
リィアのこと大切に育ててくれてありがとう、というと、こちらこそリィアを私に貸してくれてありがとう、といわれた。
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