次郎と俺のハナシ

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2章 水の城にて

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 6年ぶりの我が家はどこもかしこも懐かしい匂いがした。

 服の柔軟剤や畳の匂いは勿論だけれど、部屋は時間が止まっていたように最後の記憶そのままで、視覚と嗅覚の情報が脳を刺激し、子供の頃を想起させた。

 次郎に見せた地図やお菓子の包装紙、松ぼっくり、どれも次郎のことばかり考えてたときのものだ。

 次郎に会いたくて探していたころの俺が詰まっているような部屋だった。

 今思えば、あの頃は次郎に会いたいのに会えなくて切羽詰まった状態だった気がする。

 部屋にあるものは、どれもこれも次郎に会いたい、会いたい、と今にも声が聞こえそうな感じだ。

 ベットに座ってみると、猫のミーナの毛が落ちてた。布団を持ち上げてみると毛だらけになってた。

 知らないうちにミーナの寝床として使われていたらしい。

 ドアにあけたミーナ用の小さいドアから、身体を滑り込ませるようにミーナが入ってきた。

 俺がいるのは気にならないらしく、華麗に飛び上がりベットで寝始めた。

 ミーナの呼吸に合わせて、お腹が膨らみへこむ姿を見ていると何だか眠たくなってきて気づいたら寝てた。

 起きたのは丸3日経った後だった。

 あまりにも寝続けるのが心配になった母が2日目には病院へ連れて行ったらしい。
 
 それでも起きず、医者に母が、息子は大丈夫なのか、というと、寝ているだけみたいなので大丈夫ですよ、といわれたそう。精神的な疲れからくるものではないか、とのこと。

 起きたときには側にいた母に、お寝坊な野菜ちゃんね、と少し涙声になりながら抱きしめられた。

 俺は母にまだ野菜ちゃん認定されてることに少し驚きながら抱きしめ返した後、寝始めてから3日も経っていることを伝えられ、野菜ちゃんを受け入れることにした。


***

 3日も寝続けてしまってから、俺が寝ていると、ミーナが俺の生存確認をするようになった。随分と心配をかけてしまったらしい。

 頭の付近を陣取り、偶に顔の上にのってくるので息ができなくなり起き上がる。そうすると、にゃお、と納得したように鳴いてミーナは部屋を出て行くのだ。

 その後、母に、にゃおん、と報告しに行くらしい。母はミーナの行動に安心して寝れると好評だったが、俺は物理的に息ができなくなるので、ミーナと話し合った。

 ミーナに、夜は本当に寝てるだけだよ、大丈夫だよ、と伝えたが、にゃ、と言われた。
 
 1ヶ月ぐらいは毎日その調子であった。

 水の城を歩いていると、マイちゃん!と呼ばれてお菓子を渡されることが多い。お年寄りからは特にそうで、あらあら大きくなって、と嬉しそうに声をかけられる。

 渡されたお菓子には、次郎と小さい頃によく食べてた動物型のクッキーもあった。ウサギの顔がデフォルトされているものがあって、ウサギは俺の!と喧嘩したこともあった。

 迷子の子も卒業したのね、と少し安心したような顔で言われることもあった。

 どうやら迷子みたいな顔をして歩いていることが多かったらしい。

 周囲から見た俺がどんな風に見えていたのか、初めてちゃんと知った気がした。
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