次郎と俺のハナシ

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1章 終わりと始まり

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 教室に行くと、あれクロくんじゃん、今日はこっちなんだね、と口々に話しかけられた。

 俺の名前はいつの間にか、クロくんになってた。

 ローくんは、とクラスメイトに聞かれ、次郎と教室で授業受けるらしい、というと、クロくんと次郎くんに、とお菓子も貰った。

 身長が低いわけじゃないけれど、何だか可愛がりたくなるタイプなんだよね、とクラスメイトに言われ、もうほとんど幼児扱いな気がした。

 自分の教室で過ごすようになってからも偶に次郎の教室で授業を受けたり、ローくんとサボって日向ぼっこをした。次郎は真面目だから誘えなかった。

 迷子のクロくんどこですか、とクラスメイトが歌いながら迎えにきてくれたり、校内放送で迷子のお知らせも偶に流れた。

 次郎が見つかったのに、俺は迷子の子から迷子のクロくんに変わっただけだった。

 なんで迷子のクロくんなんだっけ、と改めて考えたけど、よく分からなかった。性質かもしれない。

 俺に変化はないけれど、次郎には変化があった。次郎は次郎だけど、次郎じゃなくなってきてた。

 変化があることは生きてるってことなんだと思った。次郎は次郎じゃなくなってきてるけど、やっぱり次郎だから好きになるところがいっぱいだった。

 亡くなる前の次郎の記憶が少しずつ、なくなっているようだった。砂の大陸にきて、砂時計というものを初めて見たけれど、次郎の記憶も同じようだった。サラサラと砂が流れていく音が聞こえてくるようだった。

 少しずつ少しずつ欠けて、欠けたことすら忘れて、そのうちになくなっちゃった。

 次郎じゃない次郎に、次郎、と呼ぶと不思議そうな顔で、なんで次郎って呼ぶんだっけ、と聞かれたとき、数年前に次郎に謝られた記憶が過ぎった。

 もしかしたら、分かってたのかもしれない。

 次郎だから次郎なんだよ、というと、ふーん、といわれた。

 前の記憶がなくなった次郎は、何だか少し大雑把な性格になった。水の城出身の次郎から、砂の大陸出身の次郎になった気がした。水の城は生真面目で、砂の大陸の人は大雑把といわれている。

 俺はよく、砂の大陸の人?と聞かれてたので、次郎と俺はおそろい、というやつかもしれない。

 けれど、偶に水の城の次郎に会いたくなることがあった。これはなんとも不思議だった。


***

 こんな風に日々を過ごしているうちに、次郎の体調が悪くなっていき、またいなくなった。

 また、次郎との隠れんぼが始まった。俺はもしかしたら次郎と5年しか過ごせないのかもしれない、と悲しくなったけど、また探さなきゃいけなかったから旅に行くことにした。

 学校は卒業する年だったから丁度よかった。

 今回の次郎は半円の棺に花に埋もれるように眠ってた。俺が貸した冬用のコートとマフラーと手袋は大きいようでダブついてたけど、それを埋めるぐらいの花の量だった。

 砂の大陸では、砂漠だった名残で棺の中を花で埋めるのだといわれたけど、一生知らなくてもよかったのになと思った。

 砂の大陸の次郎は、ゲームが好きだったから、まずゲーム相手に会いに行こうと思った。

 いるかもしれないから。今度こそ、俺が見つけるのだ。
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