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終わりについて
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とう子さんと付き合って、2年を過ぎたころから、幾度となく「いつか結婚したい」というようなことを伝えてきた。
だけど、その度に彼女は困った顔をしていた。
またダメなのか。
まだ俺はダメなのか。
3年目になって周りから「そろそろ結婚考えてるの?」と言われるようになった。なにも言えない俺。
そして、とう子さんは言った。
「私は結婚できないよ・・・」
なんとなく、そう言われると、わかっていた。
理由は彼女のお母さんの「あんたは父親に似てる。」のひと言だった。
父親は、暴力をふるう男で、お母さんはとても苦しめられた。幼い彼女にも手を上げていたそうだが、彼女は全く覚えていない。小学生の頃に離婚した。
父親に似た自分の容姿に、最初はお母さんは冷たかったという。やはり叩かれていた。
成長すると彼女は荒れた。怒鳴りちらし暴れる。実家の部屋の壁は穴だらけらしい。
傘で何度もぶった後の、お母さんの怯えた顔が忘れられないといった。
今のとう子さんからは想像もつかない。
「積み木くずし、ってあったじゃない。あんな感じ。」
暴走族の同級生からリンチを受けた。中学生の時だ。
「一緒に病院に行ったの。私じゃなくてお母さんが過労で倒れて。」
点滴をうけているお母さんをぼんやり見ていた。
「10日間くらい、お母さんは仕事休んで昼間は寝て、二人で夜ぶらぶら散歩して。」
近所の飲み屋についていった。そこでお母さんが「あんたが父親に似ていて恐い。」と言った。
「よし君といれば絶対に幸せになれると思う。私自身も良い人間になったように思える。でも、よし君や子どもにカッとなって暴力をふるわないって自信がないの。あの時だって、頭が真っ白で。」
泣きながら彼女は言った。
それは過去のことだ。今はとう子さんは誰も傷つけないし、お母さんとも仲が良い。
仮に起こっても、俺はとう子さんより大きくて強いし、子どもは作らなくてかまわない、と言った。
とう子さんが大丈夫と思えるまで、待つよとも。
その時は「うん。」と言ってくれた。
だけど、待たれるのも彼女には重荷だったらしい。
「私のことはもういいから。よし君は自由に生きて。」と言った。
自由・・・自由ってなんだ。
トラウマが払拭できないと言ってるけど、本当は、俺がダメなんじゃないの?
俺が結婚に憧れてるように見えた?
どうして、結婚しなくても一緒にいたい、って言ってくれない?
俺のこと、もう好きじゃない?
それでも4年、彼女の傍にいた。
「別れよう」
と俺が言ったとき、彼女のさみしそうなホッとしたような顔に、また傷ついた。
俺に遠慮していたのか。
俺が強いてしまったのか。
結局、俺は、誰からもちゃんと愛されない。
俺も疲れてしまった。
別れても、俺たちは仲が良かった。たまに食事したり出かけたりもしていて、会社のみんなは不思議そうにしていた。
「犬を預かってるんだ。」
銀縁メガネの神経質そうな男。掲示板で会った3人目。
彼とは今日は2回目だ。
ホテルのラウンジで待ち合わせる。仕事帰りだとスーツ姿だった。
「両親が海外旅行中で。小さい頃、弟が拾ってきたんだ。だいぶ、おばあちゃんなんだけど。」
笑うと目尻にしわが寄る。
「ふーん、いいなあ。俺、母親が動物嫌いだから、なにも飼ったことない。うらやましいよ。」
彼はおずおずと言った。
「・・・うちに、見にくる?」
終
だけど、その度に彼女は困った顔をしていた。
またダメなのか。
まだ俺はダメなのか。
3年目になって周りから「そろそろ結婚考えてるの?」と言われるようになった。なにも言えない俺。
そして、とう子さんは言った。
「私は結婚できないよ・・・」
なんとなく、そう言われると、わかっていた。
理由は彼女のお母さんの「あんたは父親に似てる。」のひと言だった。
父親は、暴力をふるう男で、お母さんはとても苦しめられた。幼い彼女にも手を上げていたそうだが、彼女は全く覚えていない。小学生の頃に離婚した。
父親に似た自分の容姿に、最初はお母さんは冷たかったという。やはり叩かれていた。
成長すると彼女は荒れた。怒鳴りちらし暴れる。実家の部屋の壁は穴だらけらしい。
傘で何度もぶった後の、お母さんの怯えた顔が忘れられないといった。
今のとう子さんからは想像もつかない。
「積み木くずし、ってあったじゃない。あんな感じ。」
暴走族の同級生からリンチを受けた。中学生の時だ。
「一緒に病院に行ったの。私じゃなくてお母さんが過労で倒れて。」
点滴をうけているお母さんをぼんやり見ていた。
「10日間くらい、お母さんは仕事休んで昼間は寝て、二人で夜ぶらぶら散歩して。」
近所の飲み屋についていった。そこでお母さんが「あんたが父親に似ていて恐い。」と言った。
「よし君といれば絶対に幸せになれると思う。私自身も良い人間になったように思える。でも、よし君や子どもにカッとなって暴力をふるわないって自信がないの。あの時だって、頭が真っ白で。」
泣きながら彼女は言った。
それは過去のことだ。今はとう子さんは誰も傷つけないし、お母さんとも仲が良い。
仮に起こっても、俺はとう子さんより大きくて強いし、子どもは作らなくてかまわない、と言った。
とう子さんが大丈夫と思えるまで、待つよとも。
その時は「うん。」と言ってくれた。
だけど、待たれるのも彼女には重荷だったらしい。
「私のことはもういいから。よし君は自由に生きて。」と言った。
自由・・・自由ってなんだ。
トラウマが払拭できないと言ってるけど、本当は、俺がダメなんじゃないの?
俺が結婚に憧れてるように見えた?
どうして、結婚しなくても一緒にいたい、って言ってくれない?
俺のこと、もう好きじゃない?
それでも4年、彼女の傍にいた。
「別れよう」
と俺が言ったとき、彼女のさみしそうなホッとしたような顔に、また傷ついた。
俺に遠慮していたのか。
俺が強いてしまったのか。
結局、俺は、誰からもちゃんと愛されない。
俺も疲れてしまった。
別れても、俺たちは仲が良かった。たまに食事したり出かけたりもしていて、会社のみんなは不思議そうにしていた。
「犬を預かってるんだ。」
銀縁メガネの神経質そうな男。掲示板で会った3人目。
彼とは今日は2回目だ。
ホテルのラウンジで待ち合わせる。仕事帰りだとスーツ姿だった。
「両親が海外旅行中で。小さい頃、弟が拾ってきたんだ。だいぶ、おばあちゃんなんだけど。」
笑うと目尻にしわが寄る。
「ふーん、いいなあ。俺、母親が動物嫌いだから、なにも飼ったことない。うらやましいよ。」
彼はおずおずと言った。
「・・・うちに、見にくる?」
終
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