誠実であることは難しい

木屋町について

塚本さんと付き合うことになったと、いの一番に木屋町に報告した。

「おおー、よかったじゃん！」
こっちが、びっくりするくらいニコニコして「おめでとう！」と言われた。


「俺さ、心配してたんだよ。デート行くって言ってたのに、不安そうな顔してたしさ。」
「そうか？」
「おうよ。緊張してたのか？」
「そうかも・・・」


なんだか、温かい目がこそばゆい。


「俺も、彼女欲しいなあ～。」


この間の合コンは奮わなかったらしい。


「なんか、千川さんと会ってるらしいじゃん」
「そうそう。偶然、美容院が一緒だったんだよ。」


最近、千川さんは金髪ドレッドにした。色白の彼女にとても似合っていたが、「9時間かかったの。1回だけで充分かな・・・」と、ぐったりしてた。早瀬君はうらやましそうに見ていたけど。


「彼女もパンクとかメタルが好きなんだよな～。」


と木屋町は言ったが、千川さんは「彼が好きなのは古いパンクミュージシャンで趣味が合わない。」と言っていたので、ふ～んとだけ返事した。


「お前は？お前の彼女、なにが好きなの？」
「ドリカムとかミスチルとかだって」
「へえー！ぜんぜん違うじゃん。」
「うん。わからんから借りて聴いてみた。ミスチルはエルビス・コステロっぽくって良かった」
「えっ、そうなのか～。」

「俺、思うんだけど、趣味って合わない方が面白いかもしんない」
「そうか？」
「うん」
「ま、確かに世界も広がるしな！いいことだ！」

木屋町とは長い付き合いだ。昔からちょっと抜けてて裏表がない良い奴だった。

ただ時々、人に侮られることがあり、真っ当な人間なのにどうしてだろうと不思議に思う。
精神的には俺よりもずっと大人なんだと、ハッとさせられることがよくあるのだ。

木屋町の祖父はしつけに厳しく、母親や孫が思い通りに動かないと、殴る人だった。特に自分のヘマで代わりに母親が祖父に責められるのがつらかったと言っていた。
最初のころは「じいさんに怒られるから・・・」と付き合いも悪かったが、ある時から「殴られても自由にやるって決めた」と覚悟したらしい。母親も背中を押してくれたと。
それはファッションで顕著に現れた。

世界的な有名ブランドの会社に勤めて、仕事も有能なのだろう。自慢はしないが、自信があるのがわかる。


「メシ！食うだろ？俺、ハンバーグがいい！」
「またかよ・・・」
木屋町はカレーは甘口しか食べられない。あとカフェオレはミルクたっぷり。


全身まっ黒のファッションに身を包んだ男。
彼が俺の友人になってくれてありがたいとしみじみ思う。