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笑顔について
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膝枕しても平気だから、少しくらいは好意を持ってくれてるかも、といつもの都合のいい解釈がまた始まり、俺の塚本さんへの甘ったれぶりは加速した。
翌日のぶどう狩りも、お土産屋も、塚本さんにまとわりつき、帰りの昼食のほうとう屋でも隣の席に座った。
「なんか昨日から塚本さんにべったりじゃない?」と伊藤さんが言う。
「専属のボディガードです」と返すと
「ボディガードなんだ・・・」とニヤニヤされた。
塚本さんはキョトン顔だ。
帰りのバスの席も近くに座り、俺は塚本さんを満喫して旅行を終えた。
その翌週は、久しぶりに純に会った。
家ではなく、渋谷の二人でよく使う喫茶店。
なにをどう言おうか迷ったが、そのまま伝えることにした。
「もう会うのはやめようと思う」
俺はそう切り出した。
純は特別おどろきもせず、まっすぐ俺を見た。そして少しの沈黙のあと言った。
「・・・なんか気持ち無いなって、わかってたよ。そろそろ話が出るのかなって・・・」
「・・・そうか」
「どうしよう、って思いながらも僕はお前が離れてくのを眺めているしかなかった。」
「・・・」
「実は先週、彼からも別れ話が出たんだ。」
純はそう言って力なく笑った。
まさか、と思った。そっちとはぜったい別れないと思ってた。
彼は仕事で苦労して、純を心の支えにしてるのだろうと。
なんと言ったらいいのかわからなくて、黙ってしまう。だけど純は落ち着いているように見えた。
「ずっと、会っても愚痴ばかりで、僕はストレスのはけ口のようになってて。それにイラついてる僕の態度も彼は気にくわないらしくて、この一年は喧嘩ばかりしてた。お前にはわからないって・・・ごめん、こんな話、されても困るよね。」
「大丈夫」
「・・・なるべくして、なったと思ってる。」
「ごめん」
「違うよ。お前のせいじゃない。謝らなくていいんだよ。」
純はスッキリとした顔をしていた。
喫茶店を出て、二人で並んで駅へと向かう。
これが最後。
「僕がこんなこと言う筋合いじゃないだろうけど・・・」
純が迷いながらも言った。
「幸せになるんだよ。義人。」
この時、はじめて気がついた。
俺は、純から名前を呼ばれたことがなかった。いつも「お前」だった。
そして幸せじゃなかった。
愛されていたんだろうけど。
お互いの私物を、お互いの部屋に置かないくらいの付き合い。
でも、やっぱり幸せだったと思う。
俺は寂しくなかった。いつも純がそばにいてくれたから。
俺たちは笑顔で、あたかも次があるかのように「じゃあね」と言って別れた。
翌日のぶどう狩りも、お土産屋も、塚本さんにまとわりつき、帰りの昼食のほうとう屋でも隣の席に座った。
「なんか昨日から塚本さんにべったりじゃない?」と伊藤さんが言う。
「専属のボディガードです」と返すと
「ボディガードなんだ・・・」とニヤニヤされた。
塚本さんはキョトン顔だ。
帰りのバスの席も近くに座り、俺は塚本さんを満喫して旅行を終えた。
その翌週は、久しぶりに純に会った。
家ではなく、渋谷の二人でよく使う喫茶店。
なにをどう言おうか迷ったが、そのまま伝えることにした。
「もう会うのはやめようと思う」
俺はそう切り出した。
純は特別おどろきもせず、まっすぐ俺を見た。そして少しの沈黙のあと言った。
「・・・なんか気持ち無いなって、わかってたよ。そろそろ話が出るのかなって・・・」
「・・・そうか」
「どうしよう、って思いながらも僕はお前が離れてくのを眺めているしかなかった。」
「・・・」
「実は先週、彼からも別れ話が出たんだ。」
純はそう言って力なく笑った。
まさか、と思った。そっちとはぜったい別れないと思ってた。
彼は仕事で苦労して、純を心の支えにしてるのだろうと。
なんと言ったらいいのかわからなくて、黙ってしまう。だけど純は落ち着いているように見えた。
「ずっと、会っても愚痴ばかりで、僕はストレスのはけ口のようになってて。それにイラついてる僕の態度も彼は気にくわないらしくて、この一年は喧嘩ばかりしてた。お前にはわからないって・・・ごめん、こんな話、されても困るよね。」
「大丈夫」
「・・・なるべくして、なったと思ってる。」
「ごめん」
「違うよ。お前のせいじゃない。謝らなくていいんだよ。」
純はスッキリとした顔をしていた。
喫茶店を出て、二人で並んで駅へと向かう。
これが最後。
「僕がこんなこと言う筋合いじゃないだろうけど・・・」
純が迷いながらも言った。
「幸せになるんだよ。義人。」
この時、はじめて気がついた。
俺は、純から名前を呼ばれたことがなかった。いつも「お前」だった。
そして幸せじゃなかった。
愛されていたんだろうけど。
お互いの私物を、お互いの部屋に置かないくらいの付き合い。
でも、やっぱり幸せだったと思う。
俺は寂しくなかった。いつも純がそばにいてくれたから。
俺たちは笑顔で、あたかも次があるかのように「じゃあね」と言って別れた。
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