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旅行について
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仕事で他施設の物産展の調査に、みんなで外出したときのことだった。
「俺、沖縄ではじめてヘチマ食べました。小学校でタワシ作りはしたけど、食べるもんだって知らなくて・・・」
「チャンプルーだった?私も食べたよ~。」
と他県の食文化について、みんなで盛り上がった。
そうなんだ、と興味深そうに塚本さんが話を聞いている。旅行に行ったことがないと、塚本さんが言った。
「高校の修学旅行だけ。京都。あとは東京を出たことがないの。」
「えっ、そうなんですか?」
「うん。話を聞くと楽しそうだし美味しそうだよね。」
「楽しいですよ~。」
「あ、じゃあ今度みんなで遠出しませんか?鎌倉とか、江ノ島とか日帰り小旅行で!」
すっかり塚本さんに懐いた早瀬君が言い出した。
いいねいいねと、すぐに話が決まり、早瀬君と千川さんが幹事で、部署の慰安旅行をすることになった。
ところが千川さんは、またやってくれた。
気がつくと日帰りではなく、一泊二日の温泉旅行になっていた。
子持ち組の「こども連れてっていい?」から、こうなったと言う。鎌倉はないな、江ノ島までゾロゾロ電車?うーん。となって、貸切バスの温泉旅となった。
「ぶどう狩り、私はじめてだよ。」
と塚本さんはとても嬉しそうだ。
もちろん土日休みを勝ち取るべく、俺たちは夜中まで仕事して、へろへろになりながらバスに乗った。行きのバスから寝息が聞こえてたのは言うまでもない。
バーベキュー会場で昼メシを食べ、観光は寺や自然の名所をめぐり、そして温泉へ。夜は宴会。上司を含めた子持ち組が家族を連れてきているため子供たちもいるし、穏やかな飲み会だった。
「明日は、ぶどう狩りですね」と、俺は塚本さんに話しかけた。「楽しみだね。」とほろ酔いでニコニコしている。
「塚本さん好きそうだなって思って!よかったです~」と千川さんが言う。
塚本さんの目がうるうるしてきた。
「ありがとうね。私、この会社に入ってよかった・・・」と言った。
「つかもとさぁ~ん!」と伊藤さんが抱きつく。
「私、私さ、高卒で入った会社がすぐ倒産しちゃって、ずっとアルバイトと派遣やってたんだけど、社員の人と仲良くなることがなくて・・・。」
「そうだったんですね。」
「本当はうちの会社に経理として就職したんだけど、なんか手違いで広報にまわされて。」
「うちの部署、前職が畑違いの人ばかりらしいですよ。方針?かなにかわかりませんけど」
「そうなんだ・・・。うち、すごく忙しいじゃない?休みないし寝れないし、ショップは言うこと聞かないし、下請けは納期守らないし、いつも誰かの尻ぬぐいで謝ってるし。」
「「「確かに」」」
「辛いけど・・・でも、みんなが家族みたいで。私、今が人生で一番楽しいかも・・・。」
そう言って、塚本さんはポロッと涙をこぼした。
「俺、沖縄ではじめてヘチマ食べました。小学校でタワシ作りはしたけど、食べるもんだって知らなくて・・・」
「チャンプルーだった?私も食べたよ~。」
と他県の食文化について、みんなで盛り上がった。
そうなんだ、と興味深そうに塚本さんが話を聞いている。旅行に行ったことがないと、塚本さんが言った。
「高校の修学旅行だけ。京都。あとは東京を出たことがないの。」
「えっ、そうなんですか?」
「うん。話を聞くと楽しそうだし美味しそうだよね。」
「楽しいですよ~。」
「あ、じゃあ今度みんなで遠出しませんか?鎌倉とか、江ノ島とか日帰り小旅行で!」
すっかり塚本さんに懐いた早瀬君が言い出した。
いいねいいねと、すぐに話が決まり、早瀬君と千川さんが幹事で、部署の慰安旅行をすることになった。
ところが千川さんは、またやってくれた。
気がつくと日帰りではなく、一泊二日の温泉旅行になっていた。
子持ち組の「こども連れてっていい?」から、こうなったと言う。鎌倉はないな、江ノ島までゾロゾロ電車?うーん。となって、貸切バスの温泉旅となった。
「ぶどう狩り、私はじめてだよ。」
と塚本さんはとても嬉しそうだ。
もちろん土日休みを勝ち取るべく、俺たちは夜中まで仕事して、へろへろになりながらバスに乗った。行きのバスから寝息が聞こえてたのは言うまでもない。
バーベキュー会場で昼メシを食べ、観光は寺や自然の名所をめぐり、そして温泉へ。夜は宴会。上司を含めた子持ち組が家族を連れてきているため子供たちもいるし、穏やかな飲み会だった。
「明日は、ぶどう狩りですね」と、俺は塚本さんに話しかけた。「楽しみだね。」とほろ酔いでニコニコしている。
「塚本さん好きそうだなって思って!よかったです~」と千川さんが言う。
塚本さんの目がうるうるしてきた。
「ありがとうね。私、この会社に入ってよかった・・・」と言った。
「つかもとさぁ~ん!」と伊藤さんが抱きつく。
「私、私さ、高卒で入った会社がすぐ倒産しちゃって、ずっとアルバイトと派遣やってたんだけど、社員の人と仲良くなることがなくて・・・。」
「そうだったんですね。」
「本当はうちの会社に経理として就職したんだけど、なんか手違いで広報にまわされて。」
「うちの部署、前職が畑違いの人ばかりらしいですよ。方針?かなにかわかりませんけど」
「そうなんだ・・・。うち、すごく忙しいじゃない?休みないし寝れないし、ショップは言うこと聞かないし、下請けは納期守らないし、いつも誰かの尻ぬぐいで謝ってるし。」
「「「確かに」」」
「辛いけど・・・でも、みんなが家族みたいで。私、今が人生で一番楽しいかも・・・。」
そう言って、塚本さんはポロッと涙をこぼした。
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