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結婚について
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「前原君、今週末の予定空けといて。20周年でお世話になった先生にご挨拶にいくから。」
「あ、はい」
「早瀬君もね。」
「はい。どなたですか?」
「メインビジュアルをお願いした朝倉先生だよ。」
しんちゃんだ。なぜかすぐ、そう思った。
当日、菓子折を持って、ドキドキしながら事務所に伺う。白を基調とした明るいオフィス。一般の社員たちとは離れた半個室のデスクに、しんちゃんはいた。
「すみません。わざわざ来ていただいて。」
「いえいえ、この度はありがとうございました。おかげさまで記念イベントは予想をはるかに上まわる人出で・・・」
しんちゃんだ。しんちゃんがいる。俺は感極まった。何年ぶりだろう?見た目も変わってしまった俺のことに気づくだろうか?
「こちらは事務所のみなさんと召し上がってください。」と上司が俺に菓子折を渡すように促す。
「まあまあ、ありがとうね!」
「あと、うちの若手をご紹介させてください。前原、早瀬。」
しんちゃんと名刺交換する日が来るとは思わなかった。
「二人とも背が高くてモデルさんみたいね。担当はイベントの方?」
「あ、はい」
「年はいくつ?」
「26です」「僕は25です。」
「そう、これからね。」
しんちゃんは笑顔で言った。
俺は泣きそうになった。18才で初めて会ったときに、しんちゃんが励まして言ってくれた言葉。
俺はしんちゃんを見つめていたが、気づかなかった。いつも俺のことを『よしくん』と呼んでいたから、苗字を知らないから。
「お忙しいのに今日はお時間いただきまして、ありがとうございます。そろそろ失礼しますね。」
そうして、しんちゃんとの再会はあっさり終わってしまった。
「朝倉先生って、オカマさんなんですか?」
帰る道すがら早瀬君が上司に聞いた。
「しゃべり方がな。朝倉先生は奥さんいるし、娘さんも二人いるよ。お前たちと同じくらいの年の。」
「へえーっ」
驚きで俺は固まってしまった。
「こういう業界って、そっちの人が多いだろう。付き合いで一緒に飲み歩いているうちに、仕草とかしゃべり方がうつっちゃったらしいよ。」
「あー、わかります。俺にもこてこての関西弁の友達がいて・・・」
・・・それは、本当だろうか。
俺も、俺だってバイなのを隠している。しんちゃんも?それとも?
でも、だからといって裏切られたような気持ちではなかった。なにか腑に落ちた。
しんちゃんは誰に対しも、色目を使わなくて・・・。
『しんちゃんは相手いるって言ってた。愛されてるから浮気はしないの~、って』
俺は、三年前の純の言葉を思い出していた。
「あ、はい」
「早瀬君もね。」
「はい。どなたですか?」
「メインビジュアルをお願いした朝倉先生だよ。」
しんちゃんだ。なぜかすぐ、そう思った。
当日、菓子折を持って、ドキドキしながら事務所に伺う。白を基調とした明るいオフィス。一般の社員たちとは離れた半個室のデスクに、しんちゃんはいた。
「すみません。わざわざ来ていただいて。」
「いえいえ、この度はありがとうございました。おかげさまで記念イベントは予想をはるかに上まわる人出で・・・」
しんちゃんだ。しんちゃんがいる。俺は感極まった。何年ぶりだろう?見た目も変わってしまった俺のことに気づくだろうか?
「こちらは事務所のみなさんと召し上がってください。」と上司が俺に菓子折を渡すように促す。
「まあまあ、ありがとうね!」
「あと、うちの若手をご紹介させてください。前原、早瀬。」
しんちゃんと名刺交換する日が来るとは思わなかった。
「二人とも背が高くてモデルさんみたいね。担当はイベントの方?」
「あ、はい」
「年はいくつ?」
「26です」「僕は25です。」
「そう、これからね。」
しんちゃんは笑顔で言った。
俺は泣きそうになった。18才で初めて会ったときに、しんちゃんが励まして言ってくれた言葉。
俺はしんちゃんを見つめていたが、気づかなかった。いつも俺のことを『よしくん』と呼んでいたから、苗字を知らないから。
「お忙しいのに今日はお時間いただきまして、ありがとうございます。そろそろ失礼しますね。」
そうして、しんちゃんとの再会はあっさり終わってしまった。
「朝倉先生って、オカマさんなんですか?」
帰る道すがら早瀬君が上司に聞いた。
「しゃべり方がな。朝倉先生は奥さんいるし、娘さんも二人いるよ。お前たちと同じくらいの年の。」
「へえーっ」
驚きで俺は固まってしまった。
「こういう業界って、そっちの人が多いだろう。付き合いで一緒に飲み歩いているうちに、仕草とかしゃべり方がうつっちゃったらしいよ。」
「あー、わかります。俺にもこてこての関西弁の友達がいて・・・」
・・・それは、本当だろうか。
俺も、俺だってバイなのを隠している。しんちゃんも?それとも?
でも、だからといって裏切られたような気持ちではなかった。なにか腑に落ちた。
しんちゃんは誰に対しも、色目を使わなくて・・・。
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