誠実であることは難しい

びっとのびっと

文字の大きさ
上 下
29 / 50

休日について 2

しおりを挟む
買い物に付き合ってくれたお礼にと、塚本さんがお茶をごちそうしてくれた。


「なんか、ご満悦だね?」
塚本さんが言う。

そりゃそうだ。俺がコーディネートした服を着て、塚本さんはいつもより可愛く仕上がった。


「女の子と洋服買いに行くのって楽しいですよね」
俺がニコニコしながら言うと
「そんなこと言うの前原君ぐらいだよ・・・」
と塚本さんは苦笑いした。


「なんか前原君のイメージ変わったなあ。」
塚本さんがしみじみと言った。
「そうですか?」
「うん。もっと取っつきにくいと思ってた。」
いや、そりゃあなたでしょ、と心の中でツッコミを入れる。

「洋服も、こういうの選ぶとは思わなかった・・・」

この頃の俺は派手な柄シャツやロックTシャツばかり着ていた。髪はチリチリ、左耳たぶに二つ、右耳軟骨に二つのボディピアス、見せてはいないがヘソも。
塚本さんに選んだ服は、無地の優しい色合いばかりだ。

「俺、昔、黒縁メガネの優等生スタイルでしたよ」
「ええっ!」
「髪もちゃんと黒くて」


今日一日で、塚本さんにだいぶ気を許してもらえたような気がする。いつも人と距離をおいている感じがするが、話すと普通に返してくれる。
彼女の愛想がないことを上司は気にしていた。


笑顔をもっと引きだせないかと、好きな音楽や、趣味の話をしたが、ここで俺たちはまったく好みが合わないことが判明した。

俺は洋楽、塚本さんは邦楽。俺は読書や映画が好きだが、塚本さんはカラオケとお菓子作り。


「わからないなあ。」
「わかんないっすね」


お互い何度この言葉を言い合っただろう。だけど楽しかった。
彼女は聞き上手で、結局この日は、俺が好きなフランス映画のヴァンパイアが出てくる話を熱く語って終わってしまった。


それでも、この日からのような気がする。
塚本さんが社内の人と笑顔で話しているのを、よく見かけるようになった。


俺のおかげじゃね?
密かに思った。塚本さんは最近、他部署の人からもよく食事に誘われている。


「俺、はじめて塚本さんとしゃべりました。笑ってバカじゃないの、って言われて。塚本さんの笑顔見ると、すごい達成感ありますね!」
早瀬君が興奮気味に報告してきた。


「わかる」
俺は同意した。いつも、ちょっと不機嫌そうに見える。でも彼女はただ緊張してただけなのかもしれない。

「えー、私たちにはいつも笑顔でしゃべってくれるよ?」
千川さんが言った。
「えっ、そうなんだ。なんか、悔しいっす。」
早瀬君が口を尖らせて言う。

「塚本さんね、歌がすっごい上手いんだよ。ドリカムとか、本物そっくり。この間、女子だけでカラオケ行って・・・」
「へー、意外っすね!」

塚本さんの話を、俺はまるで保護者になったような気分で、うんうん頷いて聞いていた。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

マッサージ物語

浅野浩二
現代文学
マッサージ物語

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

中の人

阿蘇武能
現代文学
ヒーローショーのアルバイトをする青年の話。

由紀と真一

廣瀬純一
大衆娯楽
夫婦の体が入れ替わる話

令和の中学生がファミコンやってみた

矢木羽研
青春
令和5年度の新中学生男子が、ファミコン好きの同級生女子と中古屋で遭遇。レトロゲーム×(ボーイミーツガール + 友情 + 家族愛) 。懐かしくも新鮮なゲーム体験をあなたに。ファミコン世代もそうでない世代も楽しめる、みずみずしく優しい青春物語です!  第一部・完! 今後の展開にご期待ください。カクヨムにも同時掲載。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

処理中です...