誠実であることは難しい

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ケイトについて 1

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「いつか自分の話を小説にしてほしい。」

そう彼女が言ったから、書き残そうと思う。だが、たいした話ではない。

ケイトはオーストラリア出身の23歳。ワーキングホリデーで日本に来ていて英会話の教師をしていた。
アジア系で見た目はほとんど日本人だから、よく日本人と間違われていた。

まり子が遊びに連れてきたのが最初の出会いだ。「すっごい美人でしょ。」と、まり子が自慢げに言う。「そうだな」と返事したが、俺は興味が無かった。
ケイトも俺にビジネススマイルで接していた。

外専の貞操観念がゆるそうな日本人の女の子たちは、俺から見たらみんな優しくていい子たちだった。健気だけど、性格はカラッとしてて、朗らかで楽しい。
そんな子たちをケイトは見下していた。

俺は距離をとっていたが、面倒見の良いまり子は見かけるとよく話しかけていたようだ。


「ケイトが女の子紹介してくれるって言ってるんだけど。」
突然、まり子が言った。
「俺に?なんで?」
「なんかフリーの子がいて、すっごくいい子らしいんだけど、どうかな?って相談されて・・・。」

ケイトが言う「いい子」ってのが、うさんくさい。だけど、ちゃんとした恋人がほしいと思っていたのも事実だった。
「まあ、会うだけなら」と返事した。

待ち合わせは渋谷に2時。身長170センチくらい、金髪の青い目だからすぐわかるとのことだった。向こうには背が高くて黒縁メガネとしか言ってないから、声かけてあげてと言われた。

名前は、シンディとかそんな名前。
痩せた青白い女の子だった。
とりあえずお茶でもしようと、ファッションビルの2階にあるガラス張りの喫茶店に連れていく。

「日本に来たばかりだから、あまりまだ日本語がしゃべれなくて・・・」と彼女は言った。
俺もあんまり英語はしゃべれない。お互い拙いやりとりで、なんとか会話した。

出身はケイトと同じオーストラリア、21歳、求職中。最近、ベジタリアンになったと言う。
「サラダ作るだけだからラク。」とのことだった。

・・・なんだか、まり子の飯が食いたくなってきた。

なんで日本に来たの?と聞いたら「友達が日本にいたから。」と答えた。ケイト?と聞いたら違うけど・・・とそれだけ。

話はあまり弾まなかった。気に入らないのか、気取ってるのか、視線も時々しか合わない。店を出ると彼女をそのまま駅まで送り、義務は果たしたと家へ帰った。


翌日「どうだった?」と、まり子から電話があった。
「あんまり、しゃべれなかった」と言った。
「かわいかった?」
「うーん、まあ、かわいい方なんじゃん?」
「付き合うの?」
「いや、申し訳ないけど・・・」
まり子はとても残念そうに「そっかー」と言った。
「向こうはまた会いたいって、言ってるんだけど・・・」
「うそだろ?」
「どうする?」
「ごめん、断ってくれ・・・」
「おけ。ケイトに言っとく。」

まり子に、今度渋谷で牛タンを食べようと約束して電話を切った。 
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