誠実であることは難しい

びっとのびっと

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自棄について

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まり子が新しい彼氏とクラブで待ち合わせするから、来るまで一緒にいてほしいと言うので、六本木に行ったときのことだった。

結局、まり子が心配するまでもなく、爽やかな彼氏は時間通りにあらわれた。
しばらく楽しそうにしている二人を見てから、俺はもう帰ろうと出口に向かう。
そこで、突然ボックス席の大男に腕をつかまれた。


「おまえ、まり子と来たのか。」
大男は言った。
「そうだけど・・・」
戸惑いながら返事をする。
まり子に目線をやった。こちらに気づいていない。

「どこに行く。」

「今日はもう帰る。彼女のボーイフレンドも来たし」そう言うと大男もまり子をチラッと見た。
「座れ。」

そう言って俺を隣に座らせる。
なんなんだ、いったい。
友人だろうか、向かいの席で飲んでいた男二人は、やれやれと言う顔をして席を立った。

「おまえ、ガビーたちと一緒にいたな。」
と言われた。ああ、だから、と思い肯く。


「あいつらは、いい奴だった。」
・・・そうだな。



「俺のことを知ってるか。」


そりゃあ知ってる。と言うか、この大男のダニエルはこの界隈では割と有名だった。
身長190㎝くらい?のモデルのような男で、女たちにすごくモテる。芸能人の知り合いがいるとか、喧嘩で誰かを怪我させたとか、ヤクの売人とか、いろんな噂があった。

男たちはみんなダニエルのことを「いい奴」と言っていたが、エイミーは興味なさそうにしていた。「ただのアジアンフリーク」だと。


「ガビーの知り合いとだけ」
俺はそう答えた。
じっと覗うように見られる。
怪訝に思い、見つめ返す。


まさか。


ダニエルは笑った。珍しい。
「おまえ、明日、高円寺に来れるか。」


断られるとは思っていないんだろう。ずいぶん自信満々だ。
俺はまだ口説かれてもいない。


どうして、わかったんだろう。
ガビーか。勘か。
ここは、そういう店じゃない。
バーテンダーがバイだ、って話は誰かから聞いたことはあるが。


ぐるぐる考えて、どう返事しようか迷った。
だけど、この頃は、なんかもう、どうでもよかった。
なにかを期待もしたくないし、そういう風に扱われるのも、別に。


「いいよ」


俺がそう答えると、大男は満足したのか、つかまえていた腕を放した。 
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