誠実であることは難しい

びっとのびっと

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約束について

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「20分かぁ~。んー。相手がすっごいかっこよかったら、1時間でも2時間でも待つけど?私なら。」と、まり子が言った。

「やっぱり俺、早すぎだった?」
「でも向こうが12時って言ったんでしょ。」


まり子は俺の性癖を知っている唯一の友達だ。彼女はいわゆる外人専門で、外人であれば白人でも黒人でもよかった。
体重100㎏いくかいかないかの体で、顔は派手めの美人。六本木の路上で目立っていたが、黒縁メガネの暗い俺も目立ってたらしい。
たまたまマクドナルドで隣の席になって「木曜によくいるよね?」と話しかけられたのが最初だった。

「そんなに気になるなら電話すればいいじゃん。」と、まり子が言いながら大量の揚げたての鯵をでかいタッパーの南蛮酢に漬ける。何人分食うんだ。
「なんか、恐い」
「恐くないよー!もー、明日新宿行けば?会えるかもしんないよ。」と苦笑いしてた。

さすがに翌日は勇気がなく、翌週に新宿を訪れた。彼からも電話はない。
まり子も一緒に来てほしかったが、店は一部の客を除いて女性を敬遠している様子だったから誘わなかった。しんちゃんに会えるかもしれないし、と自分を励ます。


店は珍しくガラガラだった。しんちゃんたちのグループもいない。がっかりしたような、ホッとしたような・・・。マスターも暇そうにしてたので、ノンアルコールの何かをお願いしたらモスコミュールのウォッカ抜きを作ってくれた。
「割とお酒が苦手なお客さんも多いよ。」とマスターがやさしく言う。

マスターなんだろうか、ママなんだろうか。今はマスターだった。
かっこいいなと思いながら「ありがとうございます」と俺が礼を言ったとたん、隣に彼が座った。


「なんで来なかった?いや違う。そもそも来てた?」


驚いて顔を見る。彼だ。そう、こんな顔だった。やっぱり大福餅っぽい。

「行ったよ、12時に映画館の前」あいさつをすっ飛ばし、肩をすくめて言い返す。


「どれくらい待った?」
「20分」
「はぁ~・・・」


彼がハイネケン、とマスターに注文する。


「友達に車借りて行ったんだよ。そうしたら渋滞にはまって・・・着いたの12時半だった。ごめん。」彼は申し訳なさそうに言った。

「そうだったんだ・・・」
「もうちょっと待っててくれれば会えたのに。」
「うん。ごめん」
「ひやかしかと思って電話も躊躇してて。」
「うん。それは俺も」

思わず二人で笑った。


「いつもさがしてた。電話はかけられなかったけど。」


彼がボソッと言った。
さがしてくれてた?心が跳ねあがったが、うまい返事が思いつかない。じっと彼を見つめる。
彼はそんな俺を見て愛嬌たっぷり笑うと、軽く俺の頬をつまんだ。

今度は、遅れても待っててほしい、と言われた。絶対行くから、と。
わかった、絶対待ってる、と俺たちは子供みたいに指切りをした。 
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