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恋しさについて
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ガビーはとても怒っていた。
どうやら彼女と彼には、部屋に恋人を連れ込んでも、ソファ(共同の)でセックスをしてはいけないというルールがあったらしい。どうしてバレたんだろう。
ガビーが怒りをにじませながら理屈で彼女をくどくど責めている。
彼女は「だから謝ってるじゃない!」と声を荒げた。
ガビーの友人と俺は、おろおろと二人の喧嘩を見ていた。
さっきは、あんなに楽しく三人で映画を観たのに。
俺は「ガビー、ごめん」と謝った。
ガビーはびっくりした様子で俺をみた。たぶん、はじめて彼の名前を、愛称を呼んだ。
「お前の責任じゃない。お前は知らなかったことだから。」
結局、その場は俺の謝罪で落ち着いた。
翌週の夜、路上の店に彼女に会いに行くと、彼女は浮かない様子だった。
「どうした?」と聞くと「もうすぐ国に帰る。」と言った。
俺は、言葉が出なかった。いつか、とは思ってた。まさかこんな早くとは。まだ一ヶ月しかたってない。
たくさんの人通りだったが、俺はくるくる髪をつまみながら、慰めるようにくちびるにキスをした。
キスには応えてくれたが、目を見てくれない。
「わかった」とひと言だけ告げた。
彼女の顔がこわばる。
今夜は帰らないでほしい、と言う彼女にもう一度了承のキスをした。
その日彼女は一人で店番をしていた。夜中の2時半になって、やっとガビーがやって来る。珍しくロングヘアーの女連れだった。
「あれ恋人?」と彼女に聞くと
「知らない。」と不満そうに答えた。
「あんな得体の知れない女。」と、さらに悪態をついた。
「俺も同じようなもんだと思うけど?」と苦笑いして言うと
「ぜんぜん違う!あなたはマトモな人だよ。」と反論した。
ガビーはロングヘアーの女と名残惜しく別れると、「火をくれ」とやってきた。
ちょうどライターはガス欠で、俺は、俺が吸ってるタバコの火を彼に分けた。
タバコとタバコをくっつけて、彼の大きな目がこちらを覗く。
俺は、つとめて無表情にしていたが、ガビーをじっと見つめかえした。
見つめ合いは、わずかな時間だった。しかし、それを目撃していたエイミーはあわてて俺に抱きつくと、ガビーを睨んだ。
彼も、彼も無表情で、そして何事もなかったように、友人たちの方へ行ってしまった。
「エイミー?」動揺を隠し、そ知らぬふりをして名前を呼び、彼女の手をにぎる。
彼女は一瞬考えこんでから、そうしてから、すべてを無かったかのように俺に微笑んだ。
エイミーは天使の名前の男とともにいなくなった。
我ながら驚くほど、別れをアッサリ受け入れた。もう二度と会うことはないだろう。美しいエイミー。
彼女が俺のはじめてで良かった。どうして好きになってもらえたのだろう。
ガビーはたぶん途中から、俺の正体に気づいていた。浅ましいモノ。彼は黙っていた。
好奇心だった。連絡先も聞かなかった。心優しい彼女に、真摯な愛情を示せない、クソな自分。
だけれども、そののち、バカみたいにみっともなく追いすがる恋愛をしても、心穏やかに満ち足りた恋愛をしても、なぜかそれらは、時がたつとかげろうのようにうっすらとした記憶になって。
不思議なことに何年たった今でも、エイミーのかわいらしい笑顔をあざやかに懐かしく思い出す。辛くもなく、苦くもなく、ただ恋しさがキラキラと。自分を幸せな気持ちにさせてくれている。
どうやら彼女と彼には、部屋に恋人を連れ込んでも、ソファ(共同の)でセックスをしてはいけないというルールがあったらしい。どうしてバレたんだろう。
ガビーが怒りをにじませながら理屈で彼女をくどくど責めている。
彼女は「だから謝ってるじゃない!」と声を荒げた。
ガビーの友人と俺は、おろおろと二人の喧嘩を見ていた。
さっきは、あんなに楽しく三人で映画を観たのに。
俺は「ガビー、ごめん」と謝った。
ガビーはびっくりした様子で俺をみた。たぶん、はじめて彼の名前を、愛称を呼んだ。
「お前の責任じゃない。お前は知らなかったことだから。」
結局、その場は俺の謝罪で落ち着いた。
翌週の夜、路上の店に彼女に会いに行くと、彼女は浮かない様子だった。
「どうした?」と聞くと「もうすぐ国に帰る。」と言った。
俺は、言葉が出なかった。いつか、とは思ってた。まさかこんな早くとは。まだ一ヶ月しかたってない。
たくさんの人通りだったが、俺はくるくる髪をつまみながら、慰めるようにくちびるにキスをした。
キスには応えてくれたが、目を見てくれない。
「わかった」とひと言だけ告げた。
彼女の顔がこわばる。
今夜は帰らないでほしい、と言う彼女にもう一度了承のキスをした。
その日彼女は一人で店番をしていた。夜中の2時半になって、やっとガビーがやって来る。珍しくロングヘアーの女連れだった。
「あれ恋人?」と彼女に聞くと
「知らない。」と不満そうに答えた。
「あんな得体の知れない女。」と、さらに悪態をついた。
「俺も同じようなもんだと思うけど?」と苦笑いして言うと
「ぜんぜん違う!あなたはマトモな人だよ。」と反論した。
ガビーはロングヘアーの女と名残惜しく別れると、「火をくれ」とやってきた。
ちょうどライターはガス欠で、俺は、俺が吸ってるタバコの火を彼に分けた。
タバコとタバコをくっつけて、彼の大きな目がこちらを覗く。
俺は、つとめて無表情にしていたが、ガビーをじっと見つめかえした。
見つめ合いは、わずかな時間だった。しかし、それを目撃していたエイミーはあわてて俺に抱きつくと、ガビーを睨んだ。
彼も、彼も無表情で、そして何事もなかったように、友人たちの方へ行ってしまった。
「エイミー?」動揺を隠し、そ知らぬふりをして名前を呼び、彼女の手をにぎる。
彼女は一瞬考えこんでから、そうしてから、すべてを無かったかのように俺に微笑んだ。
エイミーは天使の名前の男とともにいなくなった。
我ながら驚くほど、別れをアッサリ受け入れた。もう二度と会うことはないだろう。美しいエイミー。
彼女が俺のはじめてで良かった。どうして好きになってもらえたのだろう。
ガビーはたぶん途中から、俺の正体に気づいていた。浅ましいモノ。彼は黙っていた。
好奇心だった。連絡先も聞かなかった。心優しい彼女に、真摯な愛情を示せない、クソな自分。
だけれども、そののち、バカみたいにみっともなく追いすがる恋愛をしても、心穏やかに満ち足りた恋愛をしても、なぜかそれらは、時がたつとかげろうのようにうっすらとした記憶になって。
不思議なことに何年たった今でも、エイミーのかわいらしい笑顔をあざやかに懐かしく思い出す。辛くもなく、苦くもなく、ただ恋しさがキラキラと。自分を幸せな気持ちにさせてくれている。
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