誠実であることは難しい

びっとのびっと

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すべき事について

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夜の街は好きだ。
明るくて、人がいっぱいいる。

新宿の享楽的な雰囲気がいい。でも、厄介なやつもいるから、目的地に向かって歩いてる風に歩く。

渋谷は歩きがいがある。ごちゃごちゃとした小径。ジグザグに2周3周。坂道をのんびりと往復する。

六本木では歩かない。ガードレールに座ってタバコを吸う。人が通るのを眺めて1、2時間ぼんやりする。


「ちょっと、もうちょっとだけ、ずれてくれる?そこの電信柱の手前まで。」
くるくる髪の女の子に言われた。


慣れた様子で路上に敷物をしき、ネックレスやピアスのアクセサリーを並べる。目の大きな若い男も一緒になって、小さな絵を並べはじめた。

店の準備が終わると、男が「火を貸してくれ。」とタバコを片手にやってきた。
火をつけると「ありがとう。」と礼儀正しく言い、彼は友人たちの方へ戻っていった。


「なにしてるの?」
客が来なくてヒマそうな店番の女の子が、俺に聞いてきた。


「座ってるだけだよ」
愛想良く返事する。


「座ってるだけなの?」
笑った顔がかわいい。
「そうだよ」
たわいない会話。
「なんか買ってあげようか」
「いいの?」
「いいよ」
目についたピアスを手にとる。


「あのね、水曜と木曜ここで店だしてるの。」

それは、ただの客引きだったのかもしれないが、また会いたいって言葉にも思えた。
だから、次の週もガードレールに座ってみた。


「いた!」
あの女の子が遠くから俺を指さして、笑顔で駆けよってくる。

「こんばんは」
「コンバンハ!あの、あのね。今日、時間ある?一緒にごはん食べない?」

夕飯はすでに済んでいたが、軽くなら食べられるだろう。俺が頷くと「牛丼でいい?」と彼女は言った。

牛丼屋で並んで座る。紅ショウガは苦手、とか、昼間は何してるの?とか雑談をする。
食事が終わり店を出てから、手をハイっと出した。嬉しそうに手をつないでくる彼女。10分ちょっとのデート。

ガードレールに戻り一服していると、彼女が「メガネ取ってもいい?」と言うので、顔を差し出した。メガネをそっと取り、ゆっくり顔を近づけて俺をみつめる。

「メガネない方がいいね。」
「ないと見えない」

彼女は笑って、鼻のメガネの跡をなでた。


「ヒュ~ヒュ~!」
と、わざとらしい冷やかしがきた。
交替で休憩に出てた彼女の連れの目の大きな男だ。「おかえり」と笑顔で返す。

「二人は恋人同士じゃないの?」
と聞くと「違うの。ガビーは幼なじみで親友。」とのことだった。


「そろそろ帰らなきゃ」と立ち上がると、彼女が俺を引き止めた。
「帰りたいの?」と袖をつかむ。
「一緒にいたいよ。でも電車がなくなる」
明日も朝早い。

「帰りたいんでしょ?」
「そうじゃない。帰りたくはない。でも帰らなきゃ」

「しなきゃ、ってことなんか世の中にはないの。すべて自分のしたい、よ。」

そうかもしれない。
でも、すべき事はいずれ自分のしたいことにつながるんじゃないか。だれかに強制された事ではなく、必要である事。

よくわからなくなったが、とにかく俺のなかで、彼女は一番ではないことに気づいた。
自分の薄情さを知って、せっかく盛り上がってた気持ちが萎む。



「わかった。じゃあ、帰りたい」



彼女はパッと袖から手を離した。 
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