2 / 50
すべき事について
しおりを挟む
夜の街は好きだ。
明るくて、人がいっぱいいる。
新宿の享楽的な雰囲気がいい。でも、厄介なやつもいるから、目的地に向かって歩いてる風に歩く。
渋谷は歩きがいがある。ごちゃごちゃとした小径。ジグザグに2周3周。坂道をのんびりと往復する。
六本木では歩かない。ガードレールに座ってタバコを吸う。人が通るのを眺めて1、2時間ぼんやりする。
「ちょっと、もうちょっとだけ、ずれてくれる?そこの電信柱の手前まで。」
くるくる髪の女の子に言われた。
慣れた様子で路上に敷物をしき、ネックレスやピアスのアクセサリーを並べる。目の大きな若い男も一緒になって、小さな絵を並べはじめた。
店の準備が終わると、男が「火を貸してくれ。」とタバコを片手にやってきた。
火をつけると「ありがとう。」と礼儀正しく言い、彼は友人たちの方へ戻っていった。
「なにしてるの?」
客が来なくてヒマそうな店番の女の子が、俺に聞いてきた。
「座ってるだけだよ」
愛想良く返事する。
「座ってるだけなの?」
笑った顔がかわいい。
「そうだよ」
たわいない会話。
「なんか買ってあげようか」
「いいの?」
「いいよ」
目についたピアスを手にとる。
「あのね、水曜と木曜ここで店だしてるの。」
それは、ただの客引きだったのかもしれないが、また会いたいって言葉にも思えた。
だから、次の週もガードレールに座ってみた。
「いた!」
あの女の子が遠くから俺を指さして、笑顔で駆けよってくる。
「こんばんは」
「コンバンハ!あの、あのね。今日、時間ある?一緒にごはん食べない?」
夕飯はすでに済んでいたが、軽くなら食べられるだろう。俺が頷くと「牛丼でいい?」と彼女は言った。
牛丼屋で並んで座る。紅ショウガは苦手、とか、昼間は何してるの?とか雑談をする。
食事が終わり店を出てから、手をハイっと出した。嬉しそうに手をつないでくる彼女。10分ちょっとのデート。
ガードレールに戻り一服していると、彼女が「メガネ取ってもいい?」と言うので、顔を差し出した。メガネをそっと取り、ゆっくり顔を近づけて俺をみつめる。
「メガネない方がいいね。」
「ないと見えない」
彼女は笑って、鼻のメガネの跡をなでた。
「ヒュ~ヒュ~!」
と、わざとらしい冷やかしがきた。
交替で休憩に出てた彼女の連れの目の大きな男だ。「おかえり」と笑顔で返す。
「二人は恋人同士じゃないの?」
と聞くと「違うの。ガビーは幼なじみで親友。」とのことだった。
「そろそろ帰らなきゃ」と立ち上がると、彼女が俺を引き止めた。
「帰りたいの?」と袖をつかむ。
「一緒にいたいよ。でも電車がなくなる」
明日も朝早い。
「帰りたいんでしょ?」
「そうじゃない。帰りたくはない。でも帰らなきゃ」
「しなきゃ、ってことなんか世の中にはないの。すべて自分のしたい、よ。」
そうかもしれない。
でも、すべき事はいずれ自分のしたいことにつながるんじゃないか。だれかに強制された事ではなく、必要である事。
よくわからなくなったが、とにかく俺のなかで、彼女は一番ではないことに気づいた。
自分の薄情さを知って、せっかく盛り上がってた気持ちが萎む。
「わかった。じゃあ、帰りたい」
彼女はパッと袖から手を離した。
明るくて、人がいっぱいいる。
新宿の享楽的な雰囲気がいい。でも、厄介なやつもいるから、目的地に向かって歩いてる風に歩く。
渋谷は歩きがいがある。ごちゃごちゃとした小径。ジグザグに2周3周。坂道をのんびりと往復する。
六本木では歩かない。ガードレールに座ってタバコを吸う。人が通るのを眺めて1、2時間ぼんやりする。
「ちょっと、もうちょっとだけ、ずれてくれる?そこの電信柱の手前まで。」
くるくる髪の女の子に言われた。
慣れた様子で路上に敷物をしき、ネックレスやピアスのアクセサリーを並べる。目の大きな若い男も一緒になって、小さな絵を並べはじめた。
店の準備が終わると、男が「火を貸してくれ。」とタバコを片手にやってきた。
火をつけると「ありがとう。」と礼儀正しく言い、彼は友人たちの方へ戻っていった。
「なにしてるの?」
客が来なくてヒマそうな店番の女の子が、俺に聞いてきた。
「座ってるだけだよ」
愛想良く返事する。
「座ってるだけなの?」
笑った顔がかわいい。
「そうだよ」
たわいない会話。
「なんか買ってあげようか」
「いいの?」
「いいよ」
目についたピアスを手にとる。
「あのね、水曜と木曜ここで店だしてるの。」
それは、ただの客引きだったのかもしれないが、また会いたいって言葉にも思えた。
だから、次の週もガードレールに座ってみた。
「いた!」
あの女の子が遠くから俺を指さして、笑顔で駆けよってくる。
「こんばんは」
「コンバンハ!あの、あのね。今日、時間ある?一緒にごはん食べない?」
夕飯はすでに済んでいたが、軽くなら食べられるだろう。俺が頷くと「牛丼でいい?」と彼女は言った。
牛丼屋で並んで座る。紅ショウガは苦手、とか、昼間は何してるの?とか雑談をする。
食事が終わり店を出てから、手をハイっと出した。嬉しそうに手をつないでくる彼女。10分ちょっとのデート。
ガードレールに戻り一服していると、彼女が「メガネ取ってもいい?」と言うので、顔を差し出した。メガネをそっと取り、ゆっくり顔を近づけて俺をみつめる。
「メガネない方がいいね。」
「ないと見えない」
彼女は笑って、鼻のメガネの跡をなでた。
「ヒュ~ヒュ~!」
と、わざとらしい冷やかしがきた。
交替で休憩に出てた彼女の連れの目の大きな男だ。「おかえり」と笑顔で返す。
「二人は恋人同士じゃないの?」
と聞くと「違うの。ガビーは幼なじみで親友。」とのことだった。
「そろそろ帰らなきゃ」と立ち上がると、彼女が俺を引き止めた。
「帰りたいの?」と袖をつかむ。
「一緒にいたいよ。でも電車がなくなる」
明日も朝早い。
「帰りたいんでしょ?」
「そうじゃない。帰りたくはない。でも帰らなきゃ」
「しなきゃ、ってことなんか世の中にはないの。すべて自分のしたい、よ。」
そうかもしれない。
でも、すべき事はいずれ自分のしたいことにつながるんじゃないか。だれかに強制された事ではなく、必要である事。
よくわからなくなったが、とにかく俺のなかで、彼女は一番ではないことに気づいた。
自分の薄情さを知って、せっかく盛り上がってた気持ちが萎む。
「わかった。じゃあ、帰りたい」
彼女はパッと袖から手を離した。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

令和の中学生がファミコンやってみた
矢木羽研
青春
令和5年度の新中学生男子が、ファミコン好きの同級生女子と中古屋で遭遇。レトロゲーム×(ボーイミーツガール + 友情 + 家族愛) 。懐かしくも新鮮なゲーム体験をあなたに。ファミコン世代もそうでない世代も楽しめる、みずみずしく優しい青春物語です!
第一部・完! 今後の展開にご期待ください。カクヨムにも同時掲載。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる