神子のピコタン

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トムの物語 事情

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「ネハちゃん、今度はお洋服でも買いにいきましょ?」


ディランは名残惜しそうにハーちゃんをハグして、帰っていった。


「なんか、ふわふわした人だね?」

「現実味がないでしょ。」

「いい人じゃん。なんで逃げたの?」

「朝から晩までベッタリなんだよ…」

『私のこと好き?』も一日何十回も聞いてくる。もちろん、職場にもくる。

「暇なの?」

「暇なんだよ。お嬢様だから…」


最初は天にも昇る心地で、嬉しかった。女神が俺に惚れてくれるなんて!って。
嫉妬深いのもかわいいな~、ってデレデレして。
でも、だんだん嫉妬じゃないな?って気づいて。
かまってちゃんか~、それもかわいいな。
って思って。
あんまりしつこいから、だんだん面倒になって。本当は俺が好きじゃなくて、自己肯定してくれる人が欲しいんじゃね?ってなって。


替え玉のテオはディランひと筋だから、ふたりは相性バッチリらしい。ターユ様が言っていた。
あの子は一生ディランから離れないだろうと。


「好き、って言っても信じてくれないんだよ・・・」


どうでもいいじゃん、って顔をハーちゃんはしてるけど、小さなストレスも積もれば恐怖だからね?


双子が産まれた時、ターユ様は「娘の守護者はお前だ。」と言った。
子どもたちは世の中のことを知らなければいけない。
俺はもちろん、ディランも連れていくつもりだった。
だけどターユ様は言った。
「あれにはムリだ。ワシが苦労させたくないという気持ちもあるが・・・」と濁した。

ディランは繊細だ。
つまり、根性がない。
かしずかれて生きてきたお嬢様が、いきなり貧乏とかムリでしょ・・・。
そう諭されて、俺は2割さみしい、8割解放感を感じながら、ハーちゃんを連れて旅立った。
っつーても、となり街に引っ越しただけだけど。

赤ちゃん連れてシガレット職人はできないから、郵便配達の仕事にした。同僚は60歳のおじいちゃんと13歳の少年。
いろんな人に出会えて、いろんな話が聞けて、割と楽しく暮らしてる。
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