神子のピコタン

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ヴェロニカの物語 出発

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「やっぱり一緒に行かないか。」
旅立ちの日、ジェイデンは言った。

彼は音楽家の夢を叶えるために、都会へ行く。弟もひとり立ちした、お金も貯まった、前から決めていたこと。
稼げるようになったら迎えにいく・・・そう言ってくれた。
「都会に行った男は、結局は恋人を捨てるの。物語の定石よ。」
そう言ったら、彼はものすごく怒って。アタシはそれを見て大笑いしてしまった。キョトンとする彼。

「ジェイデン、アタシは待たないわ。もたもたしてる間に、ほかに素敵な人があらわれたら、そっちを選ぶ。でも、あなたが有名になったら、必ず会いに行くわ。アタシが有名になったら会いに来て。」

「ロニー、何かみつけたの?」

「違う。もともとあったのよ。アタシたち、いつかきっとまた会えるわ。楽しみよ。」

ジェイデンがアタシを抱きしめてキスをする。

「心配だよ。」

「ふふふ。アタシは大丈夫。幸せよ。手紙をちょうだいね。アタシも書くわ。」


笑顔で手を振る。またね、大好きな人。


ジェイデンを見送った帰り道。教会の前に、台車に乗った男の子がいた。家族がたくさんの荷物を馬車に載せていて、これから出発かしら。
アタシに気づいてニコニコ笑う。そして、うんうん頷いた。



「よお、ヴェロニカ。俺がなぐさめてやろうか?」
通りの向こうから、ジェイデンの酒場の仕事仲間たちが、ウヒャウヒャ笑いながらひやかしてくる。
すると、いったいどこにいたのかしら?パパがスタスタとやってきて、そいつの胸ぐらをつかんで睨んだ。

「パパ?!」

びっくりしているアタシの言葉と、同じ赤毛と似ている目元に、男も父親だと気づいたのだろう。

「・・・悪かったよ、おやっさん。ヴェロニカ、すまない・・・」
そう言って謝った。


「どうしてここにいるの?」
今ごろはお店にいるはずなのに。

「・・・偶然、みつけた。」
パパが言う。

ふうん?

「アタシが、ついてっちゃうと思ったの?」

パパが驚いた顔をした。
息してる?


「まだ行かないわ。」

アタシは、ふふっと笑って。

そして、きっと子供のころ以来だと思う。
久しぶりにパパと腕を組んで、家に帰った。




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第二章、終わり!
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