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終章 禿(かむろ)に諭される(完)
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お開きなり……
さてもさても、我らがてる吉っさんの、女百人斬りが成就されもした。翻ってみっと、なしてこうも、女ん体に溺れるようになったんかえ。てる吉は、三つん時に生みのカカに捨てられ、面影も知らんのやと。んで、七つん時来たトトの後釜に酷い目んあわされてのう。哀れかな、女の心を知らんまま越後ん雪んなかで育ったんや。
てる吉は、妙にませたガキになってもうた。
……五つん時から、村の女衆にちょっかい出す始末。
……六つん時は、幼馴染と見せっこし、女体に開眼。
……十やそこらで、娘っ子のやわ肉に手出しおる。
だども、江戸ん出てから、こん女百人斬りで教えられたんやろ。飛脚、置屋の主、女衒見習い、こん三本の草鞋で渡世を送っとるうちにのう。女が観音に見え、女体道から女観音道へと続く道に辿り着いたんや。
てる吉よ、こいからはどないする、新しか世が来るでよ。何っ、女千人斬りん旅ん出るってか、そかや、好きんしたれ。
最後にのう、お前が吉原で花魁見習いの禿に諭された話、知っとるで。吉原三番手だったツヤ姉と、あばら屋で乳繰った後ん話よ。お前は、もと居た置屋に話しをしに行ったんやな……
てる吉「あのう、ツヤ、ツヤ姉を見つけたんや」
禿 「アチキは、よう知らんわ。お上さんは、何も言わんし」
てる吉「花魁の連れの身やろ、そっけねえのう」
禿 「姉さんは姉さんや、好きにするわいな。ええ人やったけんど」
てる吉「戻って来てほしくねえんかえ?」
禿 「もともと、アチキらは浮草や。こん世は浮き世、風まかせや」
てる吉「だども、お前さんも花魁になるんやろ、腰すえねえと。こん吉原は江戸ん花や、花魁道中の先歩きてえだろ」
禿 「もう、歩いとるわ。夢ん中でもそうや、よう夢見んど」
てる吉「そいに、ツヤ姉は吉原三番手でねえの、そん付き人なんやろ。いずれは、お前さん、こん吉原張るかも知らんでよ。もう男のあしらい方、もしかしたら床技なんかも教えてられてんかえ?」
禿 「アチキは、まだ十五やで。そんなん、もうちょっと先んこつや。ただ今は人を見とる。姉さんとこ来る男の振る舞いをよう見とる。飯ん食い方、酒ん呑み方、寝方、厠の仕方、何もかんもやで。あっ、まだ床だけは別やけんどな、そん時は寝とる」
てる吉「水揚げん時に備えて、毎日が修行やのう。オラもそんだ」
禿 「兄さんや、膳にご馳走が並んでおるときの、さしみん食い方どげな?」
てる吉「オラは、真っ先に鮪からや。箸休めしながら、好物からだのう。なして、そげなこつ聞くんや?」
禿 「姉さんが言うてたわ。さしみんツマをみんな食うんが、本物やてな」
てる吉「そんなん、オラは貧乏育ちやで全部食うて」
禿 「そん男ん本性は食い方に出るんやて、人は素になる言うてたわ。ああ、そいなのに姉さん騙された。男を読めんかった」
てる吉「男は女がわからん、女は男がわからん。そういうもんじゃ、だからええんや」
禿 「兄さん、アチキは水揚げされる身。旦那衆に可愛がってもらう身。教えてほしいんや、男はなんで、こうも女が好きなんけ?」
てる吉「そいは深か話ぞ、まして、まだ早い、そげな話は、まあええ」
禿 「兄さん、隙があり過ぎやで、今までん話は、みんな戯言や。男ん騙し方、嘘ん付き方、愛想笑い、こいも花魁なる為。何んが本当で、何んが嘘か、そんなんごちゃ混ぜでガラガラポンや。この世は運や。きのうのお天道様は、今日も登るし明日も登るけんどな。確かなんは、これ少なし。後は出たとこ勝負やんけ、みんな運やで」
てる吉「そう、オラもそう思うのう。お前、口達者やなあ」
禿 「兄さんの前では話やすか、なんでかのう。そいにな、アチキはたまたま女に生まれた。兄さんは男に生まれた。女んなかに男を見て、逆さまも、これしかりや。兄さんや、女道楽の途中で振り返ってけろ。手前ん中の女に気付いてな。そんしたら、女に本当に優しくなれんで」
てる吉「うん、わかるような気が、しなくもない」
禿 「だからのう、好き勝手に滅茶苦茶にしたら、いけんゆうこつや」
てる吉「そいだとわかりやすか、合点がいった。あいわかった。わかった次いでに聞くんやけんど、ゆくゆくは懇ろにのう」
禿 「そいも運やで。まだまだ先んこつや、まだや」
てる吉「では、乞うご期待というこつで、オラは闇ん消える。何かあったら、女衒仲間で守るけんな、ええ女んなんな、じゃ、な」
禿 「うん……」
……てる吉は、こんな具合で吉原を後にした。それ以来、ここには姿を見せなくなったんや。と言うこつは、吉原抜きで、どっかで遊んどるんやな、そう思いてえ。
おーい、てる吉っさん、どこいんだ……
さてもさても、我らがてる吉っさんの、女百人斬りが成就されもした。翻ってみっと、なしてこうも、女ん体に溺れるようになったんかえ。てる吉は、三つん時に生みのカカに捨てられ、面影も知らんのやと。んで、七つん時来たトトの後釜に酷い目んあわされてのう。哀れかな、女の心を知らんまま越後ん雪んなかで育ったんや。
てる吉は、妙にませたガキになってもうた。
……五つん時から、村の女衆にちょっかい出す始末。
……六つん時は、幼馴染と見せっこし、女体に開眼。
……十やそこらで、娘っ子のやわ肉に手出しおる。
だども、江戸ん出てから、こん女百人斬りで教えられたんやろ。飛脚、置屋の主、女衒見習い、こん三本の草鞋で渡世を送っとるうちにのう。女が観音に見え、女体道から女観音道へと続く道に辿り着いたんや。
てる吉よ、こいからはどないする、新しか世が来るでよ。何っ、女千人斬りん旅ん出るってか、そかや、好きんしたれ。
最後にのう、お前が吉原で花魁見習いの禿に諭された話、知っとるで。吉原三番手だったツヤ姉と、あばら屋で乳繰った後ん話よ。お前は、もと居た置屋に話しをしに行ったんやな……
てる吉「あのう、ツヤ、ツヤ姉を見つけたんや」
禿 「アチキは、よう知らんわ。お上さんは、何も言わんし」
てる吉「花魁の連れの身やろ、そっけねえのう」
禿 「姉さんは姉さんや、好きにするわいな。ええ人やったけんど」
てる吉「戻って来てほしくねえんかえ?」
禿 「もともと、アチキらは浮草や。こん世は浮き世、風まかせや」
てる吉「だども、お前さんも花魁になるんやろ、腰すえねえと。こん吉原は江戸ん花や、花魁道中の先歩きてえだろ」
禿 「もう、歩いとるわ。夢ん中でもそうや、よう夢見んど」
てる吉「そいに、ツヤ姉は吉原三番手でねえの、そん付き人なんやろ。いずれは、お前さん、こん吉原張るかも知らんでよ。もう男のあしらい方、もしかしたら床技なんかも教えてられてんかえ?」
禿 「アチキは、まだ十五やで。そんなん、もうちょっと先んこつや。ただ今は人を見とる。姉さんとこ来る男の振る舞いをよう見とる。飯ん食い方、酒ん呑み方、寝方、厠の仕方、何もかんもやで。あっ、まだ床だけは別やけんどな、そん時は寝とる」
てる吉「水揚げん時に備えて、毎日が修行やのう。オラもそんだ」
禿 「兄さんや、膳にご馳走が並んでおるときの、さしみん食い方どげな?」
てる吉「オラは、真っ先に鮪からや。箸休めしながら、好物からだのう。なして、そげなこつ聞くんや?」
禿 「姉さんが言うてたわ。さしみんツマをみんな食うんが、本物やてな」
てる吉「そんなん、オラは貧乏育ちやで全部食うて」
禿 「そん男ん本性は食い方に出るんやて、人は素になる言うてたわ。ああ、そいなのに姉さん騙された。男を読めんかった」
てる吉「男は女がわからん、女は男がわからん。そういうもんじゃ、だからええんや」
禿 「兄さん、アチキは水揚げされる身。旦那衆に可愛がってもらう身。教えてほしいんや、男はなんで、こうも女が好きなんけ?」
てる吉「そいは深か話ぞ、まして、まだ早い、そげな話は、まあええ」
禿 「兄さん、隙があり過ぎやで、今までん話は、みんな戯言や。男ん騙し方、嘘ん付き方、愛想笑い、こいも花魁なる為。何んが本当で、何んが嘘か、そんなんごちゃ混ぜでガラガラポンや。この世は運や。きのうのお天道様は、今日も登るし明日も登るけんどな。確かなんは、これ少なし。後は出たとこ勝負やんけ、みんな運やで」
てる吉「そう、オラもそう思うのう。お前、口達者やなあ」
禿 「兄さんの前では話やすか、なんでかのう。そいにな、アチキはたまたま女に生まれた。兄さんは男に生まれた。女んなかに男を見て、逆さまも、これしかりや。兄さんや、女道楽の途中で振り返ってけろ。手前ん中の女に気付いてな。そんしたら、女に本当に優しくなれんで」
てる吉「うん、わかるような気が、しなくもない」
禿 「だからのう、好き勝手に滅茶苦茶にしたら、いけんゆうこつや」
てる吉「そいだとわかりやすか、合点がいった。あいわかった。わかった次いでに聞くんやけんど、ゆくゆくは懇ろにのう」
禿 「そいも運やで。まだまだ先んこつや、まだや」
てる吉「では、乞うご期待というこつで、オラは闇ん消える。何かあったら、女衒仲間で守るけんな、ええ女んなんな、じゃ、な」
禿 「うん……」
……てる吉は、こんな具合で吉原を後にした。それ以来、ここには姿を見せなくなったんや。と言うこつは、吉原抜きで、どっかで遊んどるんやな、そう思いてえ。
おーい、てる吉っさん、どこいんだ……
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