江戸情話 てる吉の女観音道

藤原 てるてる

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おんな男をかわし、おとこ女と(九十六話)

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 菊を売る男もおる。なかには、女ん振りして客引きしてますのう。そいも、めんこい面して、胸元には綿詰めて、どう見ても女や。声も、香もぷんぷん、男寄せの密ん匂いまで漂ってくるわい。そんなんに騙されれ宿に上がり、いざ、本能寺の手前で仰天すんもおる。客も菊と知ってて菊遊びすんは、そん男の好き好きやけんど。
 オラは菊は御免である。男の口技もしかり。女の菊も、これしかりなり。刀が錆びよる。青龍刀は女ん壺に研いでもらうんが、王道や。
 新橋の夕暮れ時んなんと、置屋ん前に、たんと客引き女が待ち構えてるわい。よし、冷やかしがてらに……

 オラ  「おお、ええのう。オラ好みやで、体付もすげえ、遊ぼうかな」
 おんな男「若さんや、アテん胸見てえな、心地ええで、好きんしてええで」
 オラ  「でも、尻が小振りやのう、手がごつごつや、お前さんもあれかえ?」
 おんな男「なに言うんや。客ん中には虜んなって、よう通うでよ」
 オラ  「お前さん、本当は男やろ。オラみてえな、ど助平を騙せんぞ」
 おんな男「あいゃー、わかったかい。そんや、男は男やけんどな、気持ちようさせたるで」
 オラ  「いや、菊も口技も御免被る。女一本で、もう直に百人斬りや。ゆくゆくは、女観音道を目指すんが、オラだ」
 おんな男「あんな、男やから男んこと、ようわかるやんけ、試さんか? そいにな、色を売る男は、女よかも、もっとええ艶出せるで。じゃ、菊なしで、アテん口ん中で、ぶっぱなしたらええ。一滴残らず、五臓六腑に収めるぞえ。どうや、連発してんか」
 オラ  「そかや、お前、男汁たんと入っとるんやな、そんで色っぽいんやな」
 おんな男「ああ、呑むほどに艶が出、より女に近付けるんや」
 オラ  「肌に艶が出るわけだ。口元がぷっくりんも、そいかいや。オラは止す。よそあたってんか、んだば……」

 やはり、菊も、男ん口も、嫌や。女ん口は、そらもう好きじゃて、ザクロはもっともっと大好きじゃ。酒も生一本。すけべ道も女一本や。
 今度は、あの痩せ形んに声掛けっか……

 オラ  「いやのう、さっきは胸元に綿詰めやがった男に当たったわい。お前さんも、菊かえ?」
 おとこ女「アタイは、ええ壺持っとるわい。使い込んどる割には、おぼこ並みやで」
 オラ  「ああ、そいは失礼いたしやした。お詫びに、オラん大砲で御勘弁を」
 おとこ女「ぷっ。えかや、痩せとる女は締まりがええで。だども、何でん呑みこむ。兄さん、大砲が悦ぶで。ほな、こっちや、上がれや……」

 オラは、もともと、肉付きのええ女が好みやけんど。色んな女と、お手合わせ願えてえ。一つとして、同じ壺はねえ。カズノコん数、めめずん数、深浅と、みんなみんな違う。さて、今宵の女は、いかに……

 おとこ女「さあ、アタイの部屋はここや、ちょんの間にすんかえ?」
 オラ  「朝まで大砲ぶつかどうかは、こん大砲が決めるわい。しかしのう、菊を売る男は、根は女かも知んねな。生まれ違ったんかもな」
 おとこ女「そやな、中には女よか女っぽいんもおるわい。男が好きで、アレが欲しくて、菊や口を売るんやなあ。そいも人の道やで。女かて女が好きで、合い舐めすんで。男に両刀使いがおるように、女にも、壺好きがおるんや」
 オラ  「オラは女体道一本や。ゆくゆくは女観音道や。あのう、お前さんは男っぽいけんど、女にも、あれけ?」
 おとこ女「とんでもねえ、アタイは男ん大砲一本やで、骨に響くんが堪んねえ。さあ、兄さん、狭か壺で極楽へな、アタイも連れてってな」
 オラ  「うん、オラは女を極楽送りしてから、果てるんが信条やで。男も女も、これほどええ極楽はねえ。一緒にも果てような」
 おとこ女「壊してもええで、来てえな……」



 痩せ女も良し。あん女の骨がきしむほどに、大砲喰らわしたわい。
 オラん大砲は、朝んなんまで、おかわり砲をぶった。
 男ん大砲は正直や、女によっては連発。泊まる羽目になってもうた。
 おとこ女、お潮まで吹いたわい。
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