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五十路女と、助平娘(九十三話)
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四ツ谷の岡場所ん外れにある、こんまいあばら屋が、オラの開いた越後屋だて。今年そうそうに看板出したはええが、女衆が、まだいねえんや。こいじゃ、開店休業どころか、ただの小屋だわいのう。狭いども四部屋あるすけ、四人は集めんとだ。どうしたもんかいのう。前に四ツ谷で約束した、五十路の痩せっぽち夜鷹は、もういねかった。
そう言えば、オラが江戸に出て来たあくる年、初めて夜鷹と遊んだこつがあってのう。隅田川沿いを夜、ふらふら歩いとったら、ええ女が近づいて来よった。アネサ被りをしたゴザ持った女が、月明かりん中でゆらゆらしとった。オラに声掛けて来たの、面がやけどの跡でただれていたども、そいが別嬪でな。やけどさえ、せんかったら、また別な生きようがあるんに、不憫やったわ。五十路になっても、浮き世の花。一切れ一切れを男に売って凌いでおる。
あん時、オラは言った「オラが置屋を開いたら来てくれるかえ?」と。そしたら「悦んで行くよ、いつまでも置いとくれ」と言ってたわ。そうや、あん女を呼ぼう。まだ、隅田川にいるかや、行ってみっか……
立春来ても、夜風は冷たいのう。夜鷹衆が何人かいるども、暗いは被りもんしとるで、ようわからん。あん時は、えろう色気が漂ってたんで、そんで決めたんや。向こうから来る女が、そいかいや。色気が違うわい。
オラ「姉さんや、もしかして二年前に世話んなったこつあるのう?」
キヨ「えっ、お前さん、あん時のこつ、憶えているんかえ」
オラ「ああ、別嬪だすけ忘れん。あん話の続きしてええけ?」
キヨ「わかっとる、あんた夢叶ったんやろて、えかったなあ」
オラ「そうやそうや、置屋、開いたわい。姉さん、迎えに来たでよ。姉さん、気持ち変わってなければ、四ツ谷の小屋に来るかい?」
キヨ「ワテは六十路に近付いておるわ。そんでもええかえ?」
オラ「もちろんでねえか。オラは夜鷹衆の味方や。居場所を作りたいんや。稼がんでええど、飯たんとある、いつまでもいてくれて」
キヨ「あんた、何で夜鷹に優しいんや?」
オラ「オラ、女に生まれてたら、夜鷹してたかもしんね、だすけ……」
キヨ「わかったわ、ワテ行く。なあ、仲間の娘も置いとくれな。あん子は、口が不自由で、よう喋れん。男客に騙されるん」
オラ「ええど、オラと、兄貴分とで守るわい。こいで二人やな。姉さん、名を聞いてなかったな、そいと仲間の娘は?」
キヨ「ワテはキヨいいま。あん子はナミですがね」
オラ「じゃあのう、明日の朝に四ツ谷の岡場所ん外れ、越後屋に来てくれて。みんな用意して待っとるすけの、仲良しと二人でのう」
キヨ「なあ、今夜はワテと遊ばんのかえ?」
オラ「明日から、同じ飯やないけ。ええんや。今度は、肩もんでやるわい」
キヨ「そんじゃ、世話んなる。あん子を今夜は可愛がっておくれな」
オラ「そうやな、置屋の主たるもの、一度は抱かねばなんね、一度でええ。そん子も不憫だて、飯たんとやるで、好きにさせるわい」
キヨ「ナミのねぐらは、川辺の掘っ立て小屋や。話付けてくるよってな。向こうにあるやろ、後で行きいや、では明日にな……」
こいで良しや。二人決まりもうした。
さて、ナミいう娘はどげなやろ。明日から同じ飯や、抱くんは今夜こっきりや。置屋の主は、壺の良し悪しを知らねばなんねて。
オラ「入るぞい、あんたナミやな。キヨさんと話しまとまったかい?」
ナミ「アテ、も……行って……ええんかえ?」
オラ「悦んで迎えるで。楽にしてえな。好きに稼げばええ、任せるよってな」
ナミ「あ、あんた、女ん気持ち……わ、わかる……見てえや」
オラ「オラはのう、三つん時にカカに捨てられ、七つん時から後釜に酷い目にあってのう。女がわからんようになってたんや。そんなオラを、夜鷹衆とかが救ってくれたんや。だすけ、置屋開きは、恩返しでもあるんや。稼ぎやすか場を作るんや。安心して寝れる場や。守ったるわい」
ナミ「男……に、とって、女ん体は、極楽……や。せやから……の、生き、られるわいの、よしなに……していな」
オラ「ああ、キヨさんと明日ん朝、四ツ谷のオラん所に来てのう」
ナミ「うん、そう……すん、ど。なあ、今夜は……抱い、とくれな」
オラ「思いっ切り抱くで。ナミの骨がきしむほどしがみ付く。明日からは身内みてえんもんや。朝までかけて、女ん悦び味わってのう。抱くんは今夜だけや。オラん技、越後の牛突き、のぬふ突きで極楽いってな」
ナミ「牛突き……のぬふ突き……アテ、それほしか……」
オラ「骨に堪えるでよ。そん分、えろう極楽だて、ほな、ええな」
ナミ「アテん身……あ、あんたに任せる……極楽、あんたと……。女って、な、女ってな……あの……」
オラ「わかってるがな、目つむんな、わかるよって」
ナミ「ま、守ってな……ずっと、な……」
オラ「まずは、この世ん極楽からやで、さあさあ、楽にのう」
ナミ「女って、な、あの……」
オラ「だすけ、わかったわかった、任せなって」
ナミ「女ってな、ど、ど助平よ……来て……」
オラ「あっ、そいでええんじゃ。女はど助平に限るわ。じゃ、いきなりいくで。こいが越後の牛突きや……」
ナミ「ご……極楽……極楽っ……」
ナミは、ど助平やった。
小娘ん頃から、夜鷹として渡世を送って来たんや。
数多の男らを悦ばし、それらの男らにしこまれ、ええ女になってたわ。
さて、五十路女と、助平娘とで、置屋稼業が今度こそ始まるわい。
越後屋、どうぞ御贔屓に……
そう言えば、オラが江戸に出て来たあくる年、初めて夜鷹と遊んだこつがあってのう。隅田川沿いを夜、ふらふら歩いとったら、ええ女が近づいて来よった。アネサ被りをしたゴザ持った女が、月明かりん中でゆらゆらしとった。オラに声掛けて来たの、面がやけどの跡でただれていたども、そいが別嬪でな。やけどさえ、せんかったら、また別な生きようがあるんに、不憫やったわ。五十路になっても、浮き世の花。一切れ一切れを男に売って凌いでおる。
あん時、オラは言った「オラが置屋を開いたら来てくれるかえ?」と。そしたら「悦んで行くよ、いつまでも置いとくれ」と言ってたわ。そうや、あん女を呼ぼう。まだ、隅田川にいるかや、行ってみっか……
立春来ても、夜風は冷たいのう。夜鷹衆が何人かいるども、暗いは被りもんしとるで、ようわからん。あん時は、えろう色気が漂ってたんで、そんで決めたんや。向こうから来る女が、そいかいや。色気が違うわい。
オラ「姉さんや、もしかして二年前に世話んなったこつあるのう?」
キヨ「えっ、お前さん、あん時のこつ、憶えているんかえ」
オラ「ああ、別嬪だすけ忘れん。あん話の続きしてええけ?」
キヨ「わかっとる、あんた夢叶ったんやろて、えかったなあ」
オラ「そうやそうや、置屋、開いたわい。姉さん、迎えに来たでよ。姉さん、気持ち変わってなければ、四ツ谷の小屋に来るかい?」
キヨ「ワテは六十路に近付いておるわ。そんでもええかえ?」
オラ「もちろんでねえか。オラは夜鷹衆の味方や。居場所を作りたいんや。稼がんでええど、飯たんとある、いつまでもいてくれて」
キヨ「あんた、何で夜鷹に優しいんや?」
オラ「オラ、女に生まれてたら、夜鷹してたかもしんね、だすけ……」
キヨ「わかったわ、ワテ行く。なあ、仲間の娘も置いとくれな。あん子は、口が不自由で、よう喋れん。男客に騙されるん」
オラ「ええど、オラと、兄貴分とで守るわい。こいで二人やな。姉さん、名を聞いてなかったな、そいと仲間の娘は?」
キヨ「ワテはキヨいいま。あん子はナミですがね」
オラ「じゃあのう、明日の朝に四ツ谷の岡場所ん外れ、越後屋に来てくれて。みんな用意して待っとるすけの、仲良しと二人でのう」
キヨ「なあ、今夜はワテと遊ばんのかえ?」
オラ「明日から、同じ飯やないけ。ええんや。今度は、肩もんでやるわい」
キヨ「そんじゃ、世話んなる。あん子を今夜は可愛がっておくれな」
オラ「そうやな、置屋の主たるもの、一度は抱かねばなんね、一度でええ。そん子も不憫だて、飯たんとやるで、好きにさせるわい」
キヨ「ナミのねぐらは、川辺の掘っ立て小屋や。話付けてくるよってな。向こうにあるやろ、後で行きいや、では明日にな……」
こいで良しや。二人決まりもうした。
さて、ナミいう娘はどげなやろ。明日から同じ飯や、抱くんは今夜こっきりや。置屋の主は、壺の良し悪しを知らねばなんねて。
オラ「入るぞい、あんたナミやな。キヨさんと話しまとまったかい?」
ナミ「アテ、も……行って……ええんかえ?」
オラ「悦んで迎えるで。楽にしてえな。好きに稼げばええ、任せるよってな」
ナミ「あ、あんた、女ん気持ち……わ、わかる……見てえや」
オラ「オラはのう、三つん時にカカに捨てられ、七つん時から後釜に酷い目にあってのう。女がわからんようになってたんや。そんなオラを、夜鷹衆とかが救ってくれたんや。だすけ、置屋開きは、恩返しでもあるんや。稼ぎやすか場を作るんや。安心して寝れる場や。守ったるわい」
ナミ「男……に、とって、女ん体は、極楽……や。せやから……の、生き、られるわいの、よしなに……していな」
オラ「ああ、キヨさんと明日ん朝、四ツ谷のオラん所に来てのう」
ナミ「うん、そう……すん、ど。なあ、今夜は……抱い、とくれな」
オラ「思いっ切り抱くで。ナミの骨がきしむほどしがみ付く。明日からは身内みてえんもんや。朝までかけて、女ん悦び味わってのう。抱くんは今夜だけや。オラん技、越後の牛突き、のぬふ突きで極楽いってな」
ナミ「牛突き……のぬふ突き……アテ、それほしか……」
オラ「骨に堪えるでよ。そん分、えろう極楽だて、ほな、ええな」
ナミ「アテん身……あ、あんたに任せる……極楽、あんたと……。女って、な、女ってな……あの……」
オラ「わかってるがな、目つむんな、わかるよって」
ナミ「ま、守ってな……ずっと、な……」
オラ「まずは、この世ん極楽からやで、さあさあ、楽にのう」
ナミ「女って、な、あの……」
オラ「だすけ、わかったわかった、任せなって」
ナミ「女ってな、ど、ど助平よ……来て……」
オラ「あっ、そいでええんじゃ。女はど助平に限るわ。じゃ、いきなりいくで。こいが越後の牛突きや……」
ナミ「ご……極楽……極楽っ……」
ナミは、ど助平やった。
小娘ん頃から、夜鷹として渡世を送って来たんや。
数多の男らを悦ばし、それらの男らにしこまれ、ええ女になってたわ。
さて、五十路女と、助平娘とで、置屋稼業が今度こそ始まるわい。
越後屋、どうぞ御贔屓に……
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