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寸止めの、おサヨ(九十二話)

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 置屋開きはやったども、何も急いで女集めすんこつもねえ。そもそも、商売抜きの場所貸しだすねのう。来たい女が来るまで、己の刀に磨きをかけよっと。ひさびさに、吉原の牛ちゃんに、ええ女に手引きしてもらおう。

 オラ 「おーい、牛ちゃんや、元気かや」
 牛太郎「おう、てるヤン、なんやら置屋やってんだっぺ。出入りしとる女衒が話したで、そいも四ツ谷で」
 オラ 「ああ、そん女衒はオラの師匠のこつや、広めてくれたんやな。そうや、四ツ谷の岡場所の外れに、こんまいあばら屋がそいや。始めたばかりというか、まだ、女衆が集らねえ」
 牛太郎「女集めも大変やな、まして四ツ谷だと夜鷹や年増のねぐらだなや。こん吉原とは格がえろう違う、まずもって若い女は無理だんべ。オラが兄貴に世話出来んのは、年期開けの大年増ぐれえだっぺ。でも吉原の大年増は銭持ってんど、そこまで流れねえべ」
 オラ 「うん、そうやな。いや、こん吉原で探す気はねえ。まあ、面の広い牛ちゃんや、さりげなくでええからのう、四ツ谷の越後屋ゆう置屋が女集めやっとったて、そう吹聴していや」
 牛太郎「おう、お安い御用で。そいで今夜は、どげな女ええっぺ?」
 オラ 「そうやな、オラは女衒見習いでもあるし置屋の主や、凄技の女がええ」
 牛太郎「じゃ、男を喰いまくっとる、そげな女衒泣かせの女、合わせたる。こっから十五軒目の、寸止めのサヨがえっぺ。てるヤン、こん女は、男を極楽ん手前でじらし、またじらしじらしや。そんで、散々と蛇の生殺しにさせっから、玉袋が鬼になっぺ。こん女にかかると、女衒らの使い込んだ大砲が、江戸越えの玉打つでよ」
 オラ 「そいは、なによりや。オラは、じゃあのう、甲斐までぶっ放すわ。ほい、駄賃や。ええ女どうもな」
 牛太郎「まいどありー。おおきにー」

 よしよし、女衒泣かせのサヨかいな、今夜はオラも泣かせてもらおう。だども、そいだけではすまん、サヨのよがり泣き見てえ。じらし地獄の後に、えろう極楽やな、となると、どうすんべか。オラが極楽へいく間際に隙を突くしかねえな。よがり泣きさせんにそいがええ。きんちゃく技をかわさんとなんね。
 おいおい、十五軒目を通り過ぎてもうた、あそこやないけ……

 オラ「お上、寸止めのサヨをたのむ、話は聞いとる」
 お上「兄さんや、ちょん切られても知らんでよ。サヨの十八番は万力やで。男の極楽ん手前で、かまぼこが切れるくれえの締め付け喰らうで」
 オラ「つまり、きんちゃくってこつやな。こいも修行じゃ、上がるで」
 お上「急くのう。おいおい、ちょんの間かえ、泊まりかえ?」
 オラ「オラん大砲が、朝までと言いよるわな。サヨのよがり泣きを見たいんや」
 お上「銭あるんやな、ほなな、角ん部屋やで」

 男んとって、大砲の玉飛ばしは、これ一つの自慢なりけり。オラのは、けっこう飛ぶ。サヨや、江戸市中を楽に越えっからな。

 サヨ「ささ、入っとくれ、あんた好きもんやね。でも、朝まで持つんかいや。人によっては、ちょん切れたなんて言うて騒ぐでよ」
 オラ「オラは女百人斬りやっとて、サヨさんで九十二人目や、鍛えとる。何が何でも、サヨさんの、よがり泣き見んこつにはのう」
 サヨ「あんたの亀さんが、極楽にいくにいけなくて困り面になんでよ」
 オラ「寸止めの技やな、万力並みのきんちゃくかや、結構やない」
 サヨ「兄さんや、がまんがまんの後の大砲は、えろう飛ぶでよ。アテも、熱かもん奥にもろうて、女冥利に尽きるわ」
 オラ「ああ、そんや。甲斐の国目指して、熱かもん、ぶっ放すわ」
 サヨ「ふふふっ、亀さん大丈夫かえ、知らんぞえ、ほな、来ていや」
 オラ「きんちゃくに、負けんぞい……」



 オラの亀さんは、サヨのきんちゃくん技を喰らい、ほうほうの体やった。
 寸止め地獄を繰り替えされた挙句、蛇の生殺しみてえになったときや。
 サヨのひるんだ隙に、のぬふ突きで、共に極楽大往生。
 玉は甲斐まで飛ぶかの如く、はじいてもうた。よがり泣きも、えかったわ。
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