87 / 101
銭湯で刺青女に(八十七話)
しおりを挟む
江戸ん花は、何も吉原だけでねえ、銭湯もそうや、安か江戸ん花や。
オラん深川の銭湯は、ほんにええ。目が悦んでおりますて。ほんの小娘も、おぼこ娘も、ええ尻して騒いでおるわ。年増も負けてねえど、アネサが驚くほどの張り持ったんもおる。
また男衆には、背中の彫り物を見せびらかすんもいてのう。女衆だって、尻や太もも、二の腕に彫ったりしとるて。
オラはそんな気、さらさらねえけんど、仲間の飛脚では多いのう。彫り物は、鳶、駕籠かき、魚屋、大工、そんで雲助もしよる。なかでん、侠客や女衒なんぞは、背中一面にでかでかや。女で言うと、花柳界ん女、男勝りん女なんかがしよる。
まあ男の彫りってんは、歌舞伎役者、水滸伝、大蛇退治、龍、虎、金太郎なんかや。でもって女は、弁財天、花吹雪、般若、鯉、女郎蜘蛛、蛇、蠍ってもんだ。そうそう、二の腕に、好いた男ん名命なんかもある。
みんなこいらは、男気、女気の現れよのう、江戸ん粋や。オラ、女の彫り物が色っぽくて叶わなねえ、やる気が出るだよ。
ああ、湯けむりん向こうに、背中ん右に般若、尻に毒蜘蛛ん女がおる。オラは、しらばっくれて女んそばに……
オラ 「ああ、ええ湯だのう、アネサん彫り物もたいしたもんじゃなあ。般若に凄みがある、毒蜘蛛ん絡められたら逃げられんのう。白か肌によう映えてるわな、堅気じゃねえのう、何してなさる?」
アネサ「男を頂く生業や。わかるな。アテん肌が水弾くんは、男んお蔭や」
オラ 「じゃ、ますます彫り物に油がのり、映えますのう。お近づきになったよしみで、どこん置屋か教えてなも?」
アネサ「こん深川の岡場所や、今夜来るかえ?」
オラ 「行きますとも、アネサん般若に御用が大ありや、毒蜘蛛にも巻かれてえ」
アネサ「ああ、わかったで、ほな、三河屋ってとこや、後でのう……」
吉原なんぞの花柳界ん女は、背中一面に彫ったりするけんど、置屋娘はそんでねえ。そんげんこつしたら、銭湯に来れえねえ。肩ん端や尻、太もも、二の腕ぐれえや。さっきは、太ももの内側は、さすがに見れんかったども、あるかもやな。もう直、わかるわいな、そいも楽しみや、三河屋だな。
……ん、あった、あった。
オラ 「アネサ、悦んで来ましたて、泊まってくて」
アネサ「上がりや、じゃ今夜はアンタが獲物やな。アテん毒蜘蛛に喰われて、男汁たんとのう、ええな」
オラ 「願ったり叶ったりでやす、そん般若にもよろしゅうのう。あのう、もしや、お股にも彫り物ありやすか?」
アネサ「ああ、あんでよ。右に蛇、左に蠍や、アテん壺に近付くとやられるでよ」
オラ 「やられてもええ、きつか極楽いきてえ」
アネサ「アンタは彫り物やらんのう。そいに背中に女ん搔き傷も、あんまねえ。そんなんじゃ、女を悦ばしとるこつになんねぞ。女はな、男ん背中に思いっきり爪立てて成仏したいんや。アテを悦ばしてみい、般若ん爪で血でんまで掻いたるわ」
オラ 「いや、そこまでは、まだ女修行の途中でやすけん」
アネサ「女ん掻き傷は、男ん誉れぞ。アンタ次第やで」
オラ 「よしゃ、オラん三つの得意技で、なんとかやってみやす」
アネサ「そんや、アテが般若ん爪出すまで、ガン突きしてえや」
オラ 「うん、うん、アネサ、オラん背中に頼むて、爪立ててんか」
アネサ「おいおい、だけん、アンタ次第や、気張れー」
オラ 「お股の、蛇と蠍が睨んどる、怖いよー」
アネサ「いいから、やれーーー」
アネサの般若、毒蜘蛛、蛇、蠍は紅に染まった。
オラの必死の技喰らって、色は変わり毒気も取れた。
背中には、女をよがらせた証、爪痕が生々しく残っとるわい。彫り物ではのうて、女ん爪がええ。
オラん深川の銭湯は、ほんにええ。目が悦んでおりますて。ほんの小娘も、おぼこ娘も、ええ尻して騒いでおるわ。年増も負けてねえど、アネサが驚くほどの張り持ったんもおる。
また男衆には、背中の彫り物を見せびらかすんもいてのう。女衆だって、尻や太もも、二の腕に彫ったりしとるて。
オラはそんな気、さらさらねえけんど、仲間の飛脚では多いのう。彫り物は、鳶、駕籠かき、魚屋、大工、そんで雲助もしよる。なかでん、侠客や女衒なんぞは、背中一面にでかでかや。女で言うと、花柳界ん女、男勝りん女なんかがしよる。
まあ男の彫りってんは、歌舞伎役者、水滸伝、大蛇退治、龍、虎、金太郎なんかや。でもって女は、弁財天、花吹雪、般若、鯉、女郎蜘蛛、蛇、蠍ってもんだ。そうそう、二の腕に、好いた男ん名命なんかもある。
みんなこいらは、男気、女気の現れよのう、江戸ん粋や。オラ、女の彫り物が色っぽくて叶わなねえ、やる気が出るだよ。
ああ、湯けむりん向こうに、背中ん右に般若、尻に毒蜘蛛ん女がおる。オラは、しらばっくれて女んそばに……
オラ 「ああ、ええ湯だのう、アネサん彫り物もたいしたもんじゃなあ。般若に凄みがある、毒蜘蛛ん絡められたら逃げられんのう。白か肌によう映えてるわな、堅気じゃねえのう、何してなさる?」
アネサ「男を頂く生業や。わかるな。アテん肌が水弾くんは、男んお蔭や」
オラ 「じゃ、ますます彫り物に油がのり、映えますのう。お近づきになったよしみで、どこん置屋か教えてなも?」
アネサ「こん深川の岡場所や、今夜来るかえ?」
オラ 「行きますとも、アネサん般若に御用が大ありや、毒蜘蛛にも巻かれてえ」
アネサ「ああ、わかったで、ほな、三河屋ってとこや、後でのう……」
吉原なんぞの花柳界ん女は、背中一面に彫ったりするけんど、置屋娘はそんでねえ。そんげんこつしたら、銭湯に来れえねえ。肩ん端や尻、太もも、二の腕ぐれえや。さっきは、太ももの内側は、さすがに見れんかったども、あるかもやな。もう直、わかるわいな、そいも楽しみや、三河屋だな。
……ん、あった、あった。
オラ 「アネサ、悦んで来ましたて、泊まってくて」
アネサ「上がりや、じゃ今夜はアンタが獲物やな。アテん毒蜘蛛に喰われて、男汁たんとのう、ええな」
オラ 「願ったり叶ったりでやす、そん般若にもよろしゅうのう。あのう、もしや、お股にも彫り物ありやすか?」
アネサ「ああ、あんでよ。右に蛇、左に蠍や、アテん壺に近付くとやられるでよ」
オラ 「やられてもええ、きつか極楽いきてえ」
アネサ「アンタは彫り物やらんのう。そいに背中に女ん搔き傷も、あんまねえ。そんなんじゃ、女を悦ばしとるこつになんねぞ。女はな、男ん背中に思いっきり爪立てて成仏したいんや。アテを悦ばしてみい、般若ん爪で血でんまで掻いたるわ」
オラ 「いや、そこまでは、まだ女修行の途中でやすけん」
アネサ「女ん掻き傷は、男ん誉れぞ。アンタ次第やで」
オラ 「よしゃ、オラん三つの得意技で、なんとかやってみやす」
アネサ「そんや、アテが般若ん爪出すまで、ガン突きしてえや」
オラ 「うん、うん、アネサ、オラん背中に頼むて、爪立ててんか」
アネサ「おいおい、だけん、アンタ次第や、気張れー」
オラ 「お股の、蛇と蠍が睨んどる、怖いよー」
アネサ「いいから、やれーーー」
アネサの般若、毒蜘蛛、蛇、蠍は紅に染まった。
オラの必死の技喰らって、色は変わり毒気も取れた。
背中には、女をよがらせた証、爪痕が生々しく残っとるわい。彫り物ではのうて、女ん爪がええ。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説


セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
旧式戦艦はつせ
古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。


本能のままに
揚羽
歴史・時代
1582年本能寺にて織田信長は明智光秀の謀反により亡くなる…はずだった
もし信長が生きていたらどうなっていたのだろうか…というifストーリーです!もしよかったら見ていってください!
※更新は不定期になると思います。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる