江戸情話 てる吉の女観音道

藤原 てるてる

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相模の国へ、初女仕入れの旅 漁村の巻(七十七話)

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 土佐兄からは、こう言われとるんや……

 「てる吉、おまん、女衒入門女三人目にして、壺ん仕分けわかり出したな。何度でも言っておくが、女の面は見ての通りや、そんで器量はすぐわかるき。で、抱き心地は、だいたいわかる。すけべ心も、面に書いちょるき。女の売り買いはな、そんわかっちゅうことでなく、あん壺の良し悪しじゃきな。まずは、味見をしては難癖を付けて買い叩くがぜよ、たとえ極上もんでもやき。でもって売るときは、最高のほめ言葉を付け高くやで、そいが並物でもな。女衒は利ざやを稼いてなんぼの商売やき、情けは禁物やきのう。まあ、まだ買い付けは出来んやろから、銭でのうて口説き落としやれや。ええか、てる吉、オレの代わりに相模の国行って、女の仕入れやって来るがぜよ。女三人連れて来い。漁村で一人、宿場で一人、あと山奥で一人やで。もし、迷ったら五人やき。そんで、おまんの行く末がわかるがぜよ、ええな。相模の小田原まで東海道で二十里ほどやき、三泊で行って来い。女三人仕入れたんやったら上出来や、褒美はたんとやきな。ええか、観音仕分けしてから、江戸に連れて来るんや。女はな、男ん悦ばせ方を仕込んでから売る、そん方が高く売れるき。さっそく、小田原に立て。おまんの初女仕入れや、気張ってな。どげな玉、連れてくっか楽しみにしてるぜよ、行って来い」と。

 そんな訳でのう、オラ一人女仕入れで、小田原ん浜に来ましたて。目の前には、波の静かな相模湾が遠くまで広がっとるわ。江戸ん出てから南の海見んのは初めてだて、やっぱ太平洋はええのう。
 さて、どこん漁村の娘に声掛けようか、どげんすんのかい、わかんねえ。
 ああ、向こうに、娘っ子が一人寂しそうにたたずんどるわ……

 オラ 「おい、ずっーと海見とるのう、ええ海やのう、相模ん宝やな」
 娘っ子「アイも海が好きだ。なんもかも包んでくれる、母ちゃんみてえだ」
 オラ 「そうかえ、オラは母ちゃん知らねえだども、気持ちわかるで。ああそんだ、育ててくれた婆ちゃんみてえだんな、そんだなあ」
 娘っ子「父ちゃんも母ちゃんも、もう、いねえんだ。親類ん家、居たくねえ。人さらいに会ってもええから、アイどっか遠くへ行きてえ」
 オラ 「そうけ、なあ、お前さへ良かったら、オラと江戸へ行かんか? 人さらいじゃねえ、置屋に女世話してらんだいのう。世間じゃ女衒ゆうたら、聞こえが悪いけんどな、働き口ん中継ぎやで。今のオラはのう、阿漕でねえ女衒を目指しとるんや」
 娘っ子「アイまだ男知らね、怖くて仕方ねえ、どうすんかもわかんねえ。江戸ん行ってもええども、身よりがいねえ、あんたに……」
 オラ 「ああ、オラが傍にいるよって、心配ねえぞな。置屋はな、飯と布団には困んねえ、冬は男が温めてくれる」
 娘っ子「うん、兄さんや、アイを江戸へ連れてってくれ、たのむて……」

 あん娘は、親類んとこから、出たがっていたんや。江戸に働き口が出来たゆうて、さっそく手荷物まとめて、オラん旅籠にやって来た。決心がついたんやのう、さっぱりした面んなっとったわ。
 よし、こん娘を、ええ置屋に世話しよう、楽に稼いだらええ。さて、お待たせの、いやいや、大真面目な壺ん仕分けやのう。まして、おぼこやないか、だども、売るには仕分けせねばなんね。役得なんか言っとる場合でねえ、例の六等分やろ、苦渋の決断やのう。

 オラ 「さあさあ、まだ相模にいるすけ、荷物はそこ置いて、楽にしてのう。あと二人は江戸に連れて行こう思うん、こいは仕事なんや」
 娘っ子「アイん仲間が、後二人来るんやな、こいで江戸行きも心強いわ。じゃあ今夜は、兄さんとだけや、アイの糸通しやってんか」
 オラ 「ん? 糸通し? ああ、平たく言うと観音開きやな、もちろんや。初めてなんやから、針に糸通すように、そっーとな」
 娘っ子「アイは初めてん男が、兄さんで良かったわいな。目閉じてま……」
 オラ 「さあ、もそっとな、力抜いてな、もそもそしたる、心配ねえ。オラん任せてな、そうそうそう、そう、そうそう、そう、そ……」




 生娘を六等分に仕分けすんのは、よう出来んわい。
 じゃあ、土佐兄には、中の上とでも言っておこうかいのう。
 あん娘は痛がっておったわい、初めは無理ねえてな。おぼこい面した、タマゆうこまい娘や。気張れえ。
 オラん後には、土佐兄の仕分け兼ねることの、鬼の仕込みがあるわい。
 そんうちに、よだれ観音、暴れ観音にもなるんや、極楽が待っとるで。
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