江戸情話 てる吉の女観音道

藤原 てるてる

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武蔵府中くらやみ祭り、仏壇返しの巻(六十八話)

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 武蔵府中のくらやみ祭り、いにしえからの祭りよのう。もっと大昔、男と女がオスとメスん頃は、そらもう四六時中、無礼講みたいんもんやろ。時代が下るほどに、夜ん無礼講は減ってたんや。悲しいこつよのう。年に一度ん無礼講、男も女も太古の血が沸き立ち、互いにむさぼるんやろて。ええこつや。そいでこそ、人というもんでよ。みんな狂ったれや。
 まてまて、思いにふけっとる場合では、まだねえわ。男と女、老いも若きも、いけいけどんどん、ずこずこどんどんや。四人たいらげたども、まだ打ち足らんわいな、あと一人やな。
 さっきん女は、丑三つ時に会ったわりには、ええ女やったわ。こいから宿に帰っても、こん日とばかりにと飯盛り女が襲って来んのやろ。何も、泡だらけん飯盛り女に喰われるこつもねえ。百姓ん女がええ。最後ん一発や、もう何でもええ、くらやみ祭りの打ち止めや。
 あれっ、藪んとこで、頬っ被りした女がしゃがんでるのう。丑三つ時には、凄か女が出て来るもんやけんど、さて今度は……

 オラ「はげんどるかえ、朝はまだ来んわな、どや、オラと。なあ、暗くてよう見えんわ、頬っ被り取ってくれて。齢ん頃も、女ん匂いも、ようわからんわ」
 年増「面見んでけろ、わだじゃは大年増じゃねえど、まだ年増じゃ」
 オラ「ああ大丈夫だて、オラは年増好きだすけ、何も気にせんでええ。いくらなんでも大年増はいけんけんど、年増はええ」
 年増「そうかえ、六十路ん年増やよ。でも、あっちんは小娘でよ」
 オラ「何よりやんけ。藪ん奥さ行こう。オラはカカさんで打ち止めや。五人目やから、空砲になっかもだども、ええわい」
 年増「あの、まだのう、男が付かんのや。丑三つ時んなてもうたわ。年に一じゃ、こん一年男日照りじゃた、我慢できねえ。わたじゃで、ええんけ? 男欲しいわな」
 オラ「カカさんも、若いころは、こん祭りん夜は羽目外したんやろて。年増んなっても、女は盛んで大いに結構やんけ、遊んだれ」
 年増「藪に入ろうて。しこたま男くれて」

 老いてますます盛りなり、これ人ん性なり。年増んなれば、男ん若汁欲しがるんも、これ道理なり。まるで、爺が小娘にしがみ付くんと同じとなり申す。

 オラ「ここらでええな、ゴザもねえすけ、仏壇返しで決めたるわな」
 年増「ああ、面見られねえから、そんでええよ」
 オラ「頬っ被りは取ってくんねんだな、仕様がねえけんど、ええか」
 年増「さあ若や、六十路ん女に、ありがた棒かねる事のお助け棒くれいや」
 オラ「長いのう。そんなに欲しいかや、じゃ、本当のこつ言ってけろ」
 年増「わたじゃ、まだ六十路言うたやろ、大年増じゃねえで」
 オラ「本当のこつ言わねと、ありがた棒かねる事のお助け棒やらんぞ」
 年増「欲しか欲しか、若、実はのう……」
 オラ「わかった、最後まで言わんといてな、言わんでええ。カカさんは、まだ六十路ん年増じゃ、そいに決まっておるわいなあ。祭りや祭りや、カカさん、出がらし空砲でもええな?」
 年増「若、何でんええ、ありがたやありがたや……」




 明け方近くに、宿に戻って来たわい。
 ぎらついた飯盛り女が、部屋に押しかけこねように鍵して寝た。
 オラは、連戦で抜け殻みてえにな。ふっー、くらやみ祭りで女ん性を教わった。
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