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武蔵府中くらやみ祭り、松葉崩しの巻(六十七話)

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 今、何時だえ、亥の刻から日が変わって、またたつのう。草木も眠る丑三つ時、化け者が出る時分でねかや。オラん江戸市中では、四ツ谷、隅田川ぞいには売れ残った夜鷹がよろよろしとる。そいも、五十路、六十路の凄か女が網を張っとる時ぞ。もちろんのこつ、網に巻き巻かれて泥田で極楽、そいもよしや。
 今は武蔵府中のくらやみ祭りの最中、どげな女が出るかいのう。そこらん林は、男と女の祭りでガサガサゴソゴソやで。ええ声も響いて来よる。きのこ祭り、貝祭りは朝までや。夜風は、生臭かにおいを運んで来るわい。まだまだ、ええ夜は続く……

 オラ「おお、カカさんや目光ってるぞい、男狙ってるのう。次から次へと、男が来るやろて、まだまだやる気まんまんやな」
 カカ「んだども、ワラまだ、極楽連れてってもらってねえんだ。荒くれどもがのっかってくんけど、手前だけで終わりなんや。せっかくの年に一度の貝祭りゆうのにな、物足りんわ」
 オラ「おいおい、いかんでよ、女はきのこ喰い放題ってのによう。オラに任せてんか、必ずや極楽送りしたるで、林さ行こう」
 カカ「ううっ、ええこつ言う。お前さん頼むわな。そんじゃねえと、ワラん祭りんなんねえ」
 オラ「引き受け申した、オラん得意技で二人して極楽やで。ああ、そいはのう、林ん中でのうて、原っぱん方がええて。ちと先やども、多摩川ん土手まで行かんかえ?」
 カカ「んだな、行こう。闇ん中だと、夫婦気取り出来るのう、あんた……」

 多摩川に夜月が映える。カカさんの面も綺麗なんがわかった。旦那が、いるかいねえかなんて聞くんが野暮や。夜祭りん最中やで。
 男も女も、ええ夢見たらええ、カカさんや、任せてくらんしょ……

 オラ「月明かりだのう。川ん向こうは日野、そんで八王子やな。オラは江戸市中からだども、こいから八王子宿まで行って来るんや。ちょうどよく、武蔵府中のくらやみ祭りがあるっけんな」
 カカ「そうかえな、好きに動けてええのう。女は村ん縛られておるわいの。ワラも男に生まれればええかったかもや、気ままに出来るしな」
 オラ「んー、オラはのう、今度は女に生まれてえ、女ん底なし極楽知りてえ。話が艶っぽくなんけどええな。あんな、女ん方が得やで、男ん極楽どころじゃねえ。男ん背中に思いっきり爪立てて、絶叫すんのもおる。また、鯨んように潮吹き果てるんも、知っちょる。男に真似出来んでよ。極楽ん凄さが違うんやで、のう」
 カカ「んだな、得は得かもな。ワラも話してええかえ。ワラに旦那や子、親、居場所なんか、今はどうでもや。あんたと、一夜限りん出会いや。あんたの事も聞かねえ、知らんままがええ」
 オラ「ああ。おい、寒くなって来たわい、横んなんな。睦合いやで」
 カカ「あの、でもの、言いたいこつがあんのやけんどな、実はのう……」
 オラ「ええて、ええてな、今夜は夢ん中や。そうや笑かしたろう。オラん得意技は越後の牛突きでのう、もうがむしゃらに突きまくるんや。情け容赦なしやで、女は続けて極楽さ迷うわな、一番ええ面見せるぞい。そいを、こん土手でやてもうと、壊れてまうから、あれやるで。松葉崩しや。観音様が泣いて悦んで、蛙見てえな声出すぜよ、ググワッてな」
 カカ「ハハハッ、じゃあワラも蛙見てえにしてもらおうかえ」
 オラ「さあ、オラん如意棒はどこまでん伸びるで。ええ夜にしょうな……」




 川沿いは、本当の蛙も、仲良うしてよう鳴いとる。
 カカさんは、松葉崩しを喰らい、こいまた蛙鳴きを繰り返したのう。
 そんで、川向こうの日野宿まで届くかの、黄色い声張り上げ果てた。
 カカさんも、こいで、ええ祭りんなったわい。
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