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猫ん舌、蛇ん舌、般若ん舌(六十三話)

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 遊び女ん中には、下ん口だけでのうて、上ん口で男を極楽送りすんのも多い。そうや。口は話したり、飲み食いのほか、舌っちゅうはらわたがあるわい。中には、恐ろしか舌技持っとんもいるのう。 
 猫ん舌技なんぞは、まだ可愛いもんでよ、まだまだ修行が足らんのう。そこへいくと、蛇ん舌技は男泣かせよのう。あっと言う間に昇天させられてしもう。でもの、もっとえぐいんが、般若ん舌よ。そいを、こいから語らねばなんね。そげな女はの、花の吉原や、夜鷹の巣窟の四ツ谷や隅田川にはいねえ。
 隠密や女忍者や。それらは極道もんの近くにおるんや。悪どもに鍛えに鍛えられとるわ、女も命懸けで技身に付けおる、危なか女でよ。
 当然のこつ、オラん師匠の女衒の土佐兄なんかは、たんと知っておる。手前らでたっぷりと仕込んで、置屋なんぞに売るんが勿体のうて、闇に売るんや。そんで、闇から闇へと売られていって、闇ん中で消えるんや。前に、土佐兄からあてがわれた琉球娘がそいやったわい。流れ流れて江戸まで来て、とっくに心のうなっていたわいな。あっちん方だけは、天下一品。男の極楽送りん凄技たんとあったわい。
 そんまた前には、忍者修行の乞食ん化けた女と対戦したこつある。オラなんぞは、そん女に瞬殺されてもうて、すごすごと退散やでな。
 またのう、江戸ん出て来たばかりや、土佐兄絡みで幸か不幸か女忍者と縁があった。ありがたいこつに、四十八手指南を喰らい、寝込んだこつもある。
 それらん女は別格やでな。手前が闇にいてこそ、喰える女なんや。そう言う女こそ、女体道に欠かせんのや。まして、女観音道にはな。
 師匠の土佐兄が、まだ女買い付けから帰って来んわ。オラだけで、闇ん女と一戦するなんて出来んやろ、前ん三人は土佐兄あってのこと。だども、何かん縁で出会えねえもんかいのう、たまには凄技喰らいてえ。思うに、明るいうちは出て来んやろ、晩方現れ、夜中は男に喰らい付いとるんやろ。でもって、昼まで寝てるってこつかいな。そうすっと、黄昏時がええかもな。こんだ場所はどこかや。隠密なら武家屋敷か、豪商相手じゃ日本橋かいな。女衒なんぞの悪党相手じゃ、どこや、そや土佐兄の現れそうな所やな。宿場だわ。女ん売り買いをようやっとると聞いたこつある。
 どこん宿場や、よしゃ、甲斐や信濃からの女が流れてくる、内藤新宿や。女衒がたんとおるやろ、オラん求めてんのは、女衒が手放さん絶品女や。内藤新宿はそう古くはねえ、字の通り新しく出来た宿場だのう。さあ、行こう……

 オラ「あの、兄さんや、オラはこん内藤新宿初めて来たて、女遊びはどこでっか?」
 小娘「アイは女やでな、間違わんといてな」
 オラ「あっ、失礼申した、では……」
 小娘「いいんや、アイは髪切ってあっから、まるで男んようやでな」
 オラ「女修行しとる身なんのに、あいすまんこってす」
 小娘「聞いて来た女遊びの場はな、あそこん茶屋が入口でよ」
 オラ「なんか娘さんに聞くよなこつじゃねえのう、ありがとな」
 小娘「男は仕様がねえなや、たんと遊んで来なれ、じゃあの」

 いやあ、オラとしたこつが、男と間違えるなんてな。あん娘は男みてえな頭してたのう、何か訳あんのかい。まあええわい。
 茶屋や、あそこが入口んなってて、旅籠、置屋、町屋が並んどるわ。 
 あれっ、さっきん小娘が何かやっとる……

 オラ「娘さん、また会ったの、ここは置屋ん並びだども、何しとる?」
 小娘「本当はのう、アイここに売られて来たんや。遊び女や」
 オラ「まだ若いのに、それはそれは。髪なんで切ったんや?」
 小娘「そいわな、あんまこつ客が付かんようにや」
 オラ「いや、むしろ、ええ恰好した方が、客が付いてええやろて」
 小娘「訳があるんや。アイはのう、置屋いんのは仮ん姿やでな。夜な夜なここではのうて、どっかん屋敷や、悪党の溜まり場で体使うんや。だけん、こん置屋では稼がんでもええんや」
 オラ「だども、男に見えるけんど、買われたら客にのう」
 小娘「こんなに髪無いでな。男は買わんわい。そんでええんや。なあ、アイの秘密教えたるわ、上がらんかえ?」
 オラ「曰く付きやな、ええで」

 なんやら、こいも御縁やのう、そいに、ええ予感がすんど。オラん求めとる女じゃねえかや、お手合わせが楽しみじゃな。久々に、越後の牛突きん出番かいな。

 小娘「さあさあ、おまっとうさん、まずは話ん続きや。ええかや、アイの下ん口は闇ん男らのもんや、置屋ん客でのうてな。つまりのう、ここでは上ん口だけで男どもを極楽送りし、そんで仕舞いや。闇ん男らに言われておるわ、下は与えるなってな、もったいねえってよ。だからのう、上ん口だけで、男を空っぽんするんや、気が済むまでな」
 オラ「相当の舌技あるんやろう、仕込まれとるのう、だども両方やで」
 小娘「兄さんや、わかってくれやい、下はのう、ここでは封印なんや。そんでねえと、悪党どもにやられるぞい。恐い連中ぜよ」
 オラ「あんな、実はオラは女衒見習いや、知り合いもおる、大丈夫やで。女衒どうしは仲ええもんでよ。もめやせんて」
 小娘「だめやってからに、ほな、十八番の猫ん舌から、蛇ん舌までいくでよ。朝まであるんや、すっからかんにしたるで、ええな」
 オラ「後生や、上ん口だけでのうて、頼むわいな」
 小娘「じゃあの、アイの般若ん舌こらえたら、特別にええわ。内緒やでな、まあ、そいよか般若ん舌で成仏でよ」
 オラ「我慢に我慢を重ね、下ん口、向かうわい、女衒見習いん意地があるわい」
 小娘「ほな、猫んなんで、いただきや……」



 猫ん舌、蛇ん舌、そんで般若ん舌、それぞれで極楽送りしてもろうたわ。
 あん娘は、オラが般若ん舌かわせんかったども、思い遂げさせてくれた。
 内緒ゆうてたな。でも悪党は気付くかもやな、女にたけた連中やで。
 とことん仕込まれておったわ、痛いほど口ん中を打ったわい。
 越後の牛突きは、三擦り半であえなく昇天してもうた。あん小娘が大きな蓮で、オラが虫みてえやったわ。
 心置きなく、大往生されてもらったて。ああ、大満足。
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