江戸情話 てる吉の女観音道

藤原 てるてる

文字の大きさ
上 下
48 / 101

吉原、歌麿退治のお礼は続く(四十八話)

しおりを挟む
 吉川屋で朝を迎えた。
 なんだかんだの歌麿絡みで、昨夜はチコとリエの世話んなったの。まだリエが横で寝てんだども、そっと布団を抜け出して帰ろっと。お上に挨拶せねばだの、まだ、寝てるかや。

 オラ「お上、じゃあ、オラ帰るど。また来るすけ、ええ娘たのむわな」
 お上「てる吉、朝飯くってけ。お前ん頑張りで、歌麿から宿を守れたわ。奴んせいで、商売上がったりんなるとこやったわい。ワテにも、こんお礼させとくれな」
 オラ「そいは、奴ん帰った後、リエをご馳走になりましたがな」
 お上「飯のお替りと同じじゃ。また、お茶の二番煎じもええでよ。そん前に、まんずは、腹いっぺえ朝飯だ」 
 オラ「はっ、そん前?」

 こん宿で、朝からご馳走してもらいやした。話をしてったら、お上は四十路だそんで、元は新橋の置屋だとのこと。二十歳前から身を売り、男に見初められて身請けしてもらいかけたんやと。そりゃ男は、置屋でええ女に会えば通い詰めて、こんだ手前だけんもんにしたいわな。気にいった女が、ほかの男連中に抱かれるなんて、やなもんじゃて。そん女の頭ん先から、足ん先まで全部ものにしたいんや。オラもそんだ。銭がねえすけ、そんな旦那みてえのこつは出来んけんどな。
 そうそう、お上はヨネさん言うて。でもって、話がまとまりかけての、そん男の所へ囲われるとこやったんや。そいが男の心変わりで、おじゃんやての。
 こんまま新橋界隈に残るんも、ばつが悪くて、こん吉原に居着いたんやと。
 四十路んなるまでは、客がたんとつき稼いだんだども、年々、減ってったてよ。そんで、そん時のお上と仲良かったというんで、後を任されたんやって。
 四十路で商売仕舞いは早いども、そんでええんやと。女は五十路、六十路頃が技がついての、ますます旨くなるってえのによ。もったいねえ話よの。オラは熟したんが一番ええ。

 オラ「ああ、ご馳走様やったわ。飯までもらって、どうもな。お上さんや、いろいろあったの、まだ若いんやから男遊びやれや。よそん置屋では、六十路もごろごろいるでねえかて、もったいねえ」
 お上「お前な、あてら遊女はな、金持ちに身請けされるんが夢なんよ。そいが、後少しんとこで御破算やで。心折れるわ。でな、もう男に抱かれるのでのうて、お上としてやる決めたんや。娘衆の体具合みたり、男どもの好み聞いたり、喧嘩を止めたり、なんやかやや」
 オラ「あの、そうすっと、男はかなりと御無沙汰なんでっけ?」
 お上「そんだ。昔が懐かしいの。若い頃は、一晩でまとめ喰いもしたもんや。教えたるわ。えかや、朝まで泊り客だけに買われるんは銭になる。朝まで、ちょんの間を繰り返すんは、そん日で当たり外れがある。そんでな、一番儲かるんは、朝まで泊まり客だけでのうて、ちょんの間をいれるんや。泊り客ん男が、果てて休んどるとき、ほかん男に抱かれるんや。でまた戻って男んもんや。また果てると、抜け出して、違う男やで。こん繰り返しが、体はへとへとなんども、一番に儲かるんやで」
 オラ「大変やの。男も朝まで独り占め出来んし、ほかの男汁だらけやんけ」
 お上「そや、朝まで体ん空く暇のねえときもある。売れっ子なんて、泡だらけよ。てる吉や、ワテでええかったら、昔を思い出されてくんねえかや。あん頃んように、若い男ん上になって狂ってみてえ」
 オラ「オラは、女の身も心も大好きだし、置屋の仕事にも興味あるて。いろいろ話聞かせてもろうて、ありがとごわした。そんお礼に、お上さんや、まかせたるで」
 お上「こっちこそ、歌麿退治んお礼やで。若い娘より手管しっとるでのう。お前、昨夜から続けざまに三人目やな、贅沢やで。若いから底なしやろて、こん体、めちゃんこにしてんか……」



 お上は、御無沙汰だけあって、泣いて悦んでいたわいな。
 オラが、すけべ魂を呼び覚ましてしもうたんや。女は深くて強い。どこまでん深いか、オラん女体道は続く。
 長屋に戻ったら、今度はキクにやられるわ。恐っ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大東亜戦争を有利に

ゆみすけ
歴史・時代
 日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

織田信長IF… 天下統一再び!!

華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。 この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。 主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。 ※この物語はフィクションです。

処理中です...