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吉原、歌麿とのチャンバラ勝負(四十七話)

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 夜も更けて来た。
 そろそろ、あん尺男の歌麿はんが、こん置屋を荒らしに来るて。さっきオラが遊んだチコが目的なんやけんど、ばれねえかや。オラの汚したんに気付いて、急に女を替えたりすっかもだの。まあ、いずれせよ、時を見てご対面や。

 お上「てる吉、尺が来たでよ。奴は朝までん泊まりや、会うのは今やで」
 オラ「おお、わかった。吉原ん女をこれ以上壊されては叶わんわ」
 お上「喧嘩だけは、せんといてや」
 オラ「そいは、尺次第や」

 来た来た、こいは図体でかいわ。派手な羽織やな、写楽の柄や。面長ん面で、鼻と鼻下が長いわ。見るからに、どすけべの人相や。この尺野郎め、女衆に大穴あけおってからに。

 オラ  「初に会うども、あん有名な歌麿はんですなや?」
 歌麿はん「そうや、ワテが歌麿どえーす」
 オラ  「あの、実はちと願いがありましての……」
 歌麿はん「すでにわかってまー。あんこつ、吉原を荒らすなってこつやな」
 オラ  「そんだす。ほかん並みの男衆も困ってますがに」
 歌麿はん「兄さんや、そいはワテが悪いんでのうて、ワテん中足がいけんのや。生まれ持った尺ですわ、小さくなんか出来まっか?」
 オラ  「そいやども、並みん男の中足は、四、五寸ですけんの。あんま荒らされると、貝遊びがのう……」
 歌麿はん「良くわかってまー。まわりに、とんだ迷惑かけてますわ。こいは、大目に見てやってつかわんさい」
 オラ  「あの、お気に入ん女に絞るんは、どげなですかえ。こん置屋の、チコが歌麿はんに仕込まれてますの。あと、ほかん娘は泣いて嫌がっとるそうで、チコだけにしては」
 歌麿はん「兄さんや、はてはお上に聞いたんやな? あれれ、もしやワテが来る前に、チコと一戦やってんやな。そんな、兄さんの後ではいやだすわ。ほかん娘にしたるわ」
 オラ  「せやから、お上も女衆が壊されて困っておりますけん」
 歌麿はん「ワテはこん置屋の娘子全部、頂戴しまっせ、わかってなー」
 オラ  「いやいや、ですけん、大穴開けられては、みんなが困るんやて。男だけん、すけべ魂持ってんは、オラも並みはずれとる。けんど、オラん中足は人並みの大きさなんや、困るんや」
 歌麿はん「では、こうせんかー。ワテと兄さんとの、中足同士でチャンバラしようやんけ。もしワテが負けたら、こん置屋には、二度と来んわ。そんで勝ったらな、娘子全部と、ついでにお上まで大穴開けたるわ。どや、ワテの尺仁王と、兄さんの四寸法師で、チャンバラ勝負しまっか?」
 オラ  「ここに至っては止むなし。あのう、四寸でのうて、四寸半やで」
 歌麿はん「こいは、大変失礼申しました。男の股関と沽券に係りますの。よしゃ、明かり消すで、三本勝負や、続けて勝った方が勝ちや」
 オラ  「受けて立つわい、固さでは石並みやで、尺取り虫に負けんわ。いくで、こん野郎、喰らえ……」

 一本目、ああ、寸では尺に届かず、尺の強打を受け負傷する。
 後んない二本目、ここは作戦を替え接近し、尺仁王の頭を狙い石並みが向かった。 んだが、そこまで届かず、不覚にも奴の大金玉を石打ちしてもうた。歌麿はんは、宿中に悲鳴をあげた……

 オラ  「あああっ、申し訳ない申し訳ない、とんだことしてもうた。歌麿はん、堪忍してくらんしょ。こん寸が悪いんだて、こんとおりや」
 歌麿はん「うっ、ぎょ、ずっ、わかっ、わかったなも、四寸半じゃ無理やな。こ、こいじゃ、チャンバラんならんわ。ワテが悪う申したわ。はぁ、はぁ、兄さんの反則勝ちでええわ。ワテは、こん置屋には二度を来んわい。馴染みんチコは諦める、兄さんの石法師で、たんと可愛がってやってんな。はー、ほな、帰るわ。お上さんに、そんこつ言っといてや。ほー、んだば……」

 歌麿はんは、猫背になって、おとなしゅう宿を出て行ったて。意図せぬオラん反則勝ちでの、勝ちは勝ちやだどもの。金打ちん辛さわは良くわかるわい。

 オラ「お上、あん尺は帰ってたど。もう来んわな、男ん勝負やけんな」
 お上「えーそうかえ、ほんにありがとな。お礼に娘と遊んどけや、銭はいらんで」
 オラ「さっきのこつで、力使ったすけ、おとなしい娘がええ。早めに寝て、朝んなったら帰るわい」
 お上「はいな、おとなしゅうのな」

 尺男にくらった傷が痛むわ。おとなしい娘に癒してもらおう。一発打ったら、すぐ寝よう。

 フジ「お上さんから聞きましたがね、ありがとうね。みんな、そうゆってますわ」
 オラ「いやいや、偶然に勝ったんや。間違えて金打ちしたんやからの。こん金打ちん辛さ、女にはわからんて」
 フジ「そいは、わからんわ。だども子種が出る時、たまらんのやね。大変やったね。アテが受け止めたる、すっきりしてってな」
 オラ「今日は力出ないすけ、極楽送りは無理やな、すぐ寝るでの」
 フジ「ええでよ、また今度、尺退治に使ったあれで、アテを強う打ってな。今はアテに任せとき、さあ、のっかるで……」



 歌麿はんよ、ほんに、あい申し訳ありませんどした。
 持って生まれた尺仁王が悪いんであって、歌麿はんは悪くはない。まったくもって、こいも良し悪しですの。
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