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尼僧との、睦問答(三十二話)
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オラは神社や寺巡りが好きでの、そんうち札所巡りやってみっかと思っとる。上野の寛永寺あたりは、寺町になってて、ぶらぶらすんのにええ所やの。ある寺んとこで読経がひびいてきた。尼僧さんの、甘いええ声やの。オラは本堂に入り、手合わせて、ありがたくお参りさせてもらってたんや。
尼僧「お若いの。お参りですかいの?」
オラ「はあ、ええ声が聞こえて来たんで、お参りさせてもらいやした」
尼僧「兄さん、心根が座っとるの。たんと苦労したんやな。神仏拝もうとすんは、人としての当たり前んこつやで。そん当たり前が、なかなか出来んのが多いんやけどの」
オラ「オラは、仏像見んのも好きだて。心が洗われて、ええ気持ちんなる」
尼僧「ええ気持ちんなるかや。そやの、人は気持ちええこつが好きやからの。
仏ん教えもそうやで、あの世ん極楽、この世ん極楽言うやろ。人は、極楽へ行くんが、なによりなんや」
オラ「男と女の睦ごとも、極楽じゃ。オラ、この世ん極楽のこつで頭いっぱいなん」
尼僧「ええんや、この世ん極楽が、あの世ん極楽へ繋ごうとるんやけな。兄さん、歓喜仏しってかや? 女が男にしがみ付いとる仏様や」
オラ「ええ、知っちょります。女が一心不乱に、しがみ付いてやす」
尼僧「そや、そんで二人して、一緒に極楽の真っただ中やで。話ん続きは、また今度や、声掛けてな」
オラ「手間を取ってしまいやした。ありがとうございやした」
あん尼僧さんは、歳のころはわからんども、色気あったの。女は頭丸めると、ほんと、わからんて。オラの好みでもある。いやいや、そいは罰当たりじゃ。また、ええ話聞かせてもらおっと……
オラ「ごめんなされや、また来やした。こん前の続き願いますて」
尼僧「さっそく来ると思っとったわ。ワタイに浮いた気が、あるんやろ?」
オラ「さすがお見通しで。仏に仕えとる人は、心眼がありますけんの。もっとくわしゅう、男と女の極楽んこつ、教えてくんなしょ」
尼僧「仏ん仕える身には、不犯の掟がある。こいは絶対や。こん掟を破るんときは、尼を辞めるときや。実はの、訳あって、江戸を去り国元に帰ることんなっとるんや。尼でのうなるんやで。よって、世俗にもまれる暮らしに戻るんやで」
オラ「そうでっか。オラ欲が深くて深くて、教えてほしいこつがある。女は綺麗に出来ちょるの、なんでじゃ?」
尼僧「観音様やからや。身も心も綺麗なんや」
オラ「女ん体は、なして、ああも男を悦ばすんですかいの?」
尼僧「気持ちええからやで。つまりの、女そのもんがすでに極楽やで。人はみな極楽から生まれ、極楽を味おうて、また極楽へ帰っていくんや。女も男に喰らってえろう気持ちええ。この世は極楽ん一丁目やで。さんざんと極楽を味おうて、あの世ん極楽へと繋ごうておるんや。ワタイは、尼しとったから、この世ん極楽をよう知らん。尼を辞めるんやから、こいからは、女ん悦びをたんと知るわ。兄さん、ワタイが尼でのうなったら、真っ先に願いまっか?」
オラ「そいはもう、悦んで、渾身の力込めまんがな」
尼僧「では、九月んなったら、寺ん近くの町屋で会おうな。そん時はもう、尼でねえから、固い話抜きや。髪がまだのうても、町娘や、たんと可愛がっての、ええな」
オラ「まかせてくらんしょ。二人して歓喜仏になんましょ……」
九月そうそう、尼さんやったお人とお会いした。
髪がのうても綺麗な方や、恥じらいがあったわ。
悦びん声を、読経みてえにくり返していたのう、ええお人やった。
尼僧「お若いの。お参りですかいの?」
オラ「はあ、ええ声が聞こえて来たんで、お参りさせてもらいやした」
尼僧「兄さん、心根が座っとるの。たんと苦労したんやな。神仏拝もうとすんは、人としての当たり前んこつやで。そん当たり前が、なかなか出来んのが多いんやけどの」
オラ「オラは、仏像見んのも好きだて。心が洗われて、ええ気持ちんなる」
尼僧「ええ気持ちんなるかや。そやの、人は気持ちええこつが好きやからの。
仏ん教えもそうやで、あの世ん極楽、この世ん極楽言うやろ。人は、極楽へ行くんが、なによりなんや」
オラ「男と女の睦ごとも、極楽じゃ。オラ、この世ん極楽のこつで頭いっぱいなん」
尼僧「ええんや、この世ん極楽が、あの世ん極楽へ繋ごうとるんやけな。兄さん、歓喜仏しってかや? 女が男にしがみ付いとる仏様や」
オラ「ええ、知っちょります。女が一心不乱に、しがみ付いてやす」
尼僧「そや、そんで二人して、一緒に極楽の真っただ中やで。話ん続きは、また今度や、声掛けてな」
オラ「手間を取ってしまいやした。ありがとうございやした」
あん尼僧さんは、歳のころはわからんども、色気あったの。女は頭丸めると、ほんと、わからんて。オラの好みでもある。いやいや、そいは罰当たりじゃ。また、ええ話聞かせてもらおっと……
オラ「ごめんなされや、また来やした。こん前の続き願いますて」
尼僧「さっそく来ると思っとったわ。ワタイに浮いた気が、あるんやろ?」
オラ「さすがお見通しで。仏に仕えとる人は、心眼がありますけんの。もっとくわしゅう、男と女の極楽んこつ、教えてくんなしょ」
尼僧「仏ん仕える身には、不犯の掟がある。こいは絶対や。こん掟を破るんときは、尼を辞めるときや。実はの、訳あって、江戸を去り国元に帰ることんなっとるんや。尼でのうなるんやで。よって、世俗にもまれる暮らしに戻るんやで」
オラ「そうでっか。オラ欲が深くて深くて、教えてほしいこつがある。女は綺麗に出来ちょるの、なんでじゃ?」
尼僧「観音様やからや。身も心も綺麗なんや」
オラ「女ん体は、なして、ああも男を悦ばすんですかいの?」
尼僧「気持ちええからやで。つまりの、女そのもんがすでに極楽やで。人はみな極楽から生まれ、極楽を味おうて、また極楽へ帰っていくんや。女も男に喰らってえろう気持ちええ。この世は極楽ん一丁目やで。さんざんと極楽を味おうて、あの世ん極楽へと繋ごうておるんや。ワタイは、尼しとったから、この世ん極楽をよう知らん。尼を辞めるんやから、こいからは、女ん悦びをたんと知るわ。兄さん、ワタイが尼でのうなったら、真っ先に願いまっか?」
オラ「そいはもう、悦んで、渾身の力込めまんがな」
尼僧「では、九月んなったら、寺ん近くの町屋で会おうな。そん時はもう、尼でねえから、固い話抜きや。髪がまだのうても、町娘や、たんと可愛がっての、ええな」
オラ「まかせてくらんしょ。二人して歓喜仏になんましょ……」
九月そうそう、尼さんやったお人とお会いした。
髪がのうても綺麗な方や、恥じらいがあったわ。
悦びん声を、読経みてえにくり返していたのう、ええお人やった。
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