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吉原、やり手婆(二十三話)

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 こん前、牛太郎から聞いた、吉原三宝貝のシズんこつが頭から離れんわ。何かええ手はねえろかや。こいは、オラの女体道に欠かせんぞえ。銭がのうても、あん噂に聞く、観音面をおがまんとの。今は、こん吉原で、こまいのから喰いまくりや。
 あすこん所の置屋のやり手婆に、おなご衆のこつ、あれこれ聞いてみっか。

 やり手婆「さあさあ、よってけや、ええ娘いっぞ、遊んでけや」
 オラ  「こん店もはやってるの、おなご衆もみんな、すけべ面しとるの」
 やり手婆「ああ、男にしがみついたら離れんぞえ。身も心も、空っぽんなるぞえ。さあ、上がっとくれ」
 オラ  「駄賃だすすけ、こん吉原んこつ、教えてくらんしょ。きのう見た花魁道中の、シズんこつや、どげな女や?」
 やり手婆「そりゃもう、吉原一や、男は骨抜きにされるど。女から見ても、うっとりとすん色気じゃの、男はたまらんこて。床での、あん女の観音面みたら、二人そろって極楽めぐりじゃで。でも、気付けや、いろんな男が、手前だけんもんにしようとねらっとるんや」
 オラ  「身請けして、囲うちゅうこつかえ?」
 やり手婆「そや、そげなこつは、こん吉原が許さん。あん女は吉原の宝や。男衆みんなのもんや。独り占めにゃさせんわ」
 オラ  「吉原の意地やの。そうや、ええ女は男みんなのもんや。男は女を喰って育つ、飯みてえなもんじゃからのう。あのう、牛太郎から聞いた話では、えろう銭がいるんやろ?」
やり手婆 「そうや、まず無理やな。あきらめなはれ。ええこつ、教えたるは。守ったらええ」
 オラ  「守るって? 何のこつや?」
 やり手婆「あん女は、ほうぼうから狙われちょる。男の影がつきまとっておる。何かの拍子でもええ、そん場に出くわしたら、救ったらええ。あとは運や。仏さまに、たのんどけ」
 オラ  「いろいろと、どうもな。じゃあ、こん店では誰がええんや」
 やり手婆「ワッチじゃ。まだ、干上がっておらんでよ」
 オラ  「えっ、婆様、まだ、商売やってっけ? そらたまげたのう」
 やり手婆「たまげるじゃのうて、玉つかんだら離さんでよ。若いころはの、こん体めあてに野郎どもが鈴なりじゃた。吉原の女は、灰んなるまで現役やで。まだまだ、使えるぞえ。兄さんや、ワッチの黒貝の出汁、味わんか?」
 オラ  「そやの、貝は喰ってみねば、味はわからんて。こん吉原の大御所、五十路のシズさんのこつも、教えてくれるかや?」
 やり手婆「ああ、シズはワッチの妹分やったわ。昔は、こいまた別嬪やったで。そんシズとは、仲ええからよって、引き合わせてもええで」
 オラ  「何っ? 大御所と肉合戦できっけ?」
 やり手婆「だからよ、ワッチを抱けや。そいが条件や」
 オラ  「わかった、そうすんど。必ず、結びつけてくりょ」
 やり手婆「ワッチは十五んときから、吉原一本や。今夜は、六十路の黒貝で極楽いったれや、かかってこいや」
 オラ  「よしゃ、黒焦げ覚悟でのう……」



 女の目から見た吉原を、いろいろと教えてもろうたわ。
 牛太郎からは、男の目からだったども、そいだけだといけん。女のこつは、女に聞けじゃ。
 あん婆様は生き字引よ。たんと年期の入った黒貝で、極楽へ導いてくれたわ。
 なんか、オラん刀が、ちと黒うなったような気が……
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