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花魁道中と、たんぽぽ娘(二十二話)
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お盆の頃になんと、お待たせの、花魁道中がある。夕暮れ時から始まり、当代の大御所を筆頭に、売れっ子がわんさと出てきよる。町衆は、手前のなじみが通ると拍手喝采じゃの。百花繚乱。こいが、お江戸の花。この世の極楽の一丁目よのう。
たいてえの江戸の男は、ここで筆おろしをやりたがる。なかには、己の刀を研ぎ、本当の人斬りになんのもおる。またの、花の海に溺れ骨になる男も、ごまんとおる。まっこと、こん吉原は、地獄の一丁目でもあるんや。オラは、花と言う花を片っ端から愛でてえ。こん花の海を、どこまでも泳いで行きてえ、溺れはせんぞ。
今、オラの見てる前を通った三人目の太夫が気になるのう。歳の頃は、三十路かいな、えろう別嬪で、大輪の牡丹みたいや。お手合わせすんには、えろう銭がいるやろな、無理じゃな。まずは、身の丈に合わせて、たんぽぽから愛でるかいな。
あっ、あすこんとこに、こん前の牛太郎がおる。吉原三宝貝の、残る一つを教えてもらおう。
オラ 「憶えておるかいや、こん前、めめずのユリを紹介してくれたの。今日は、言いかけてた、吉原一の貝を教えてくれて」
牛太郎「ああ、憶えちょるよ。いがっぺだったか、めめずのユリは?」
オラ 「そらもう、こたえられんかったわ。ありがとの。めめず嫌いのオラが、一変にめめず好きになったいや」
牛太郎「ほっか、そいは、たいそうだったんだっぺな」
オラ 「さあ、銭や。取っときな。今度は、一番は誰じゃ?」
牛太郎「この花魁道中で、前から三番目に出て来た女が、そうだっぺよ。ツヤゆうて、三十路や。あん女は特別や。あん花は狂い咲きじゃて。もっと、くわしゅ教えたるわ。オレに駄賃くんろ」
オラ 「ほい。気になって気になって、しょうがねえ、くわしゅうのう」
牛太郎「えかや、たいてえの女は、貝の良し悪しで売るて。またの、たんと床技を身につけて、そんで売るの。だがの、あんツヤは、貝は普通じゃ、床技も同じじゃ」
オラ 「じゃ、なして、当代一になるんや?」
牛太郎「面だっぺ。えろう別嬪やろ。こいが、極楽にいっちょる時ん面ったら、絶世の観音面だ。男はその面みると、あっという間に観音様に導かれて極楽や。あん女は、よがり面で売るんだっぺ」
オラ 「そうかいの、銭がねえすけ、諦めるしかねえの。ありがとの。今日は、たんぽぽ喰って帰るわ、じゃあまたの」
ああ、銭がのうては、ええ女が買えんかいな。飛脚の稼ぎでは、一生かかっても無理やろ。もしくは、なんか縁があればの、なんかの偶然でのう。ねえ、ねえ、たんぽぽでええわ。
オラ「おめさん、元気でええの、おめさんにする。名は何じゃ?」
タミ「わたじゃ、タミいいま。さあ、あがっとくれ」
オラ「さっき見た、花魁道中はすごかったのう。江戸の花や」
タミ「そやろ、一番先が五十路の大御所、二番目が四十路の太夫でよ。そんで三番目が、わたじゃの姉さんで、吉原一番のツヤ姉やで。実はの、ツヤ姉の方が、一番先を歩いてもええんやけんどな。まっ、ここは歳の順で、五十路のシズさんが仕切っ取るわ」
オラ「どうしたっても、手が届かんやけん、あきらめや。タミよ、おまんは、花で言うと、たんぽぽみてえだのう」
タミ「ああ、わたじゃ田舎もんで、踏まれて強いんが取柄や。男が立て続けにのっかってきても、屁もねえで。一晩に、何度でも、ぶっぱなしてもええど」
オラ「おまんの取柄はそいじゃか。丈夫な貝ってこつやな。よしゃ、こわれても知らんぜよ」
タミ「わたじゃの貝に、喰い千切られても、知らんけんな。どっちが、もつかいのう。まけんぞい、こいや……」
たんぽぽのように、道で踏まれても咲く花あり。こいも吉原、百花繚乱のうちなり。
太夫のような牡丹だらけでねえのが、こん吉原の良さよ。
オラはこいから、いろんな花を愛で、さまざまん貝に舌鼓を打とうて。
たいてえの江戸の男は、ここで筆おろしをやりたがる。なかには、己の刀を研ぎ、本当の人斬りになんのもおる。またの、花の海に溺れ骨になる男も、ごまんとおる。まっこと、こん吉原は、地獄の一丁目でもあるんや。オラは、花と言う花を片っ端から愛でてえ。こん花の海を、どこまでも泳いで行きてえ、溺れはせんぞ。
今、オラの見てる前を通った三人目の太夫が気になるのう。歳の頃は、三十路かいな、えろう別嬪で、大輪の牡丹みたいや。お手合わせすんには、えろう銭がいるやろな、無理じゃな。まずは、身の丈に合わせて、たんぽぽから愛でるかいな。
あっ、あすこんとこに、こん前の牛太郎がおる。吉原三宝貝の、残る一つを教えてもらおう。
オラ 「憶えておるかいや、こん前、めめずのユリを紹介してくれたの。今日は、言いかけてた、吉原一の貝を教えてくれて」
牛太郎「ああ、憶えちょるよ。いがっぺだったか、めめずのユリは?」
オラ 「そらもう、こたえられんかったわ。ありがとの。めめず嫌いのオラが、一変にめめず好きになったいや」
牛太郎「ほっか、そいは、たいそうだったんだっぺな」
オラ 「さあ、銭や。取っときな。今度は、一番は誰じゃ?」
牛太郎「この花魁道中で、前から三番目に出て来た女が、そうだっぺよ。ツヤゆうて、三十路や。あん女は特別や。あん花は狂い咲きじゃて。もっと、くわしゅ教えたるわ。オレに駄賃くんろ」
オラ 「ほい。気になって気になって、しょうがねえ、くわしゅうのう」
牛太郎「えかや、たいてえの女は、貝の良し悪しで売るて。またの、たんと床技を身につけて、そんで売るの。だがの、あんツヤは、貝は普通じゃ、床技も同じじゃ」
オラ 「じゃ、なして、当代一になるんや?」
牛太郎「面だっぺ。えろう別嬪やろ。こいが、極楽にいっちょる時ん面ったら、絶世の観音面だ。男はその面みると、あっという間に観音様に導かれて極楽や。あん女は、よがり面で売るんだっぺ」
オラ 「そうかいの、銭がねえすけ、諦めるしかねえの。ありがとの。今日は、たんぽぽ喰って帰るわ、じゃあまたの」
ああ、銭がのうては、ええ女が買えんかいな。飛脚の稼ぎでは、一生かかっても無理やろ。もしくは、なんか縁があればの、なんかの偶然でのう。ねえ、ねえ、たんぽぽでええわ。
オラ「おめさん、元気でええの、おめさんにする。名は何じゃ?」
タミ「わたじゃ、タミいいま。さあ、あがっとくれ」
オラ「さっき見た、花魁道中はすごかったのう。江戸の花や」
タミ「そやろ、一番先が五十路の大御所、二番目が四十路の太夫でよ。そんで三番目が、わたじゃの姉さんで、吉原一番のツヤ姉やで。実はの、ツヤ姉の方が、一番先を歩いてもええんやけんどな。まっ、ここは歳の順で、五十路のシズさんが仕切っ取るわ」
オラ「どうしたっても、手が届かんやけん、あきらめや。タミよ、おまんは、花で言うと、たんぽぽみてえだのう」
タミ「ああ、わたじゃ田舎もんで、踏まれて強いんが取柄や。男が立て続けにのっかってきても、屁もねえで。一晩に、何度でも、ぶっぱなしてもええど」
オラ「おまんの取柄はそいじゃか。丈夫な貝ってこつやな。よしゃ、こわれても知らんぜよ」
タミ「わたじゃの貝に、喰い千切られても、知らんけんな。どっちが、もつかいのう。まけんぞい、こいや……」
たんぽぽのように、道で踏まれても咲く花あり。こいも吉原、百花繚乱のうちなり。
太夫のような牡丹だらけでねえのが、こん吉原の良さよ。
オラはこいから、いろんな花を愛で、さまざまん貝に舌鼓を打とうて。
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