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女衒と、おタキ(六話)

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 こないだ、両国の色町をうろついていたんや、そこで会ったんや。向こうから、えろう人相の悪か男が来よった。そん男は、下を向いたまま、風のように置屋に入ってった。オラは、なんか引っ張られるみていに、後にのう。振り向いて、こっちに言って来たて……

 女衒「若けえの、おまん、そうとうの好き者やろ。面見りゃわかるぜよ、まあ色道を、たんとやれや。こん店は、よか女いろいろぜよ、何がええかや」
 オラ「あの、そうすっと店の方で?」
 女衒「いや、オレは女衒やき。こん店にも女を世話しとるがぜよ。長えこと、こん商売やっちょうき、何でも聞きいや」

 居間に上がり込み、お茶を飲みながらの長話になてもうた。聞くところ、土佐からやって来て女の売り買いをしとるんだと。女の見方、仕込み方、悦ばせ方、手練手管を語って来たんや。オラは、ありがたく聞かせてもろうた。

 女衒「まずな、女の見抜き方や。あればかり、じろじろ見たらいかんぜよ。目、口、そいと二の腕を見るんやき。とろけるような目をしちょる女は、下も同じじゃきな。だども、目にはだまされんなよ、化かす女は何にでも化けるがぜよ。すとーんとした目は、男の欲をよう知っちょる。口はな、ぷっくりした女は好き者や。たんと楽しめるぞい。そん女の抱き心地は、二の腕みりゃわかる」
 オラ「はあ、そうですかいの。わからんことだらけですて。あの土佐から出て来たゆうてましたな、あんさんのこと、土佐兄と呼ばせてくだせい。ほかにも、あれこれと教えてくだせえ」
 女衒「女のほめ方はな、乳か尻のどっちかをほめるんや。両方ほめたらいかんぜよ、そん女にとってええ方やきな。おまんにとってじゃ、ないきの。間違うなや」
 オラ「女の口説き方は、どげなして?」
 女衒「そんなん、てめえで考えろや。そいよりもな、女の仕込み方おせえたるき。己の生汁をな、両方の口にたんと呑ますんや。ええか、女は呑ませて仕込むんやき」
 オラ「男と女の欲のちがいは、どんなもんで?」
 女衒「男のは、打ち上げ花火と同じじゃき。そん繰り返しよのう。女は、深い海ん中の渦じゃ。男をどこまでも引っ張っちょる。その分、えろう極楽を知っちょるて」
 オラ「ああオラ、あやかりてえ。こん店で誰がええろか」
 女衒「そいなら、オレと土佐から出て来たタキを会わせるぜよ。土佐の女は、威勢がええがぜよ。おまん、覚悟せいや。こんタキの狂い腰喰らったら、あっという間に極楽やで。またの、鯨のように、潮吹いて果てる女もいよる。後な、女は大事にせにゃいかんぜよ。女はいくら喰っても、へらねえ喰いもんじゃきな」
 オラ「はあ……」

 やっぱ、女衒ともなんと違うもんじゃな。こん土佐兄には、のちのち深こう繋がる気がしてならんわいのう。しかし、恐いお方や。

 女衒「話が長くなった。ここは女と遊ぶ所じゃきな。タキを呼んでくっき。まあ、たんと、ええ思いして帰んな。じゃあな」
 オラ「土佐兄、今後また、よろしゅうたのんます」

 いよいよ、土佐の狂い腰の出番かいな。越後の牛突きで、共に極楽や。

 タキ「おや、おまんが、アテイと勝負したいんやて」
 オラ「いやいや、かわいがってもれえてえ、だけですがに」
 タキ「女を悦ばせるなんちぃ、十年、早いぜよ。まんずはな、一発でも多く花火ぶったれや、そいからやき」
 オラ「わかりやした」
 タキ「おまんは、おぼこい面しちょるのう、アテイの弟にも似ちょる。可愛い可愛いしたるき、楽にな。腰技たんと味わうんやで。よっしゃ、アテイが引き受けたっち。よか海の底に、いっしょにいこうな。そんうちな、アテイの鯨の潮吹き見せたるきな」
 オラ「姉御、たのんまー」



 ……だいぶ時がたってもうた。           
 ああ、極楽、極楽、オラは深い海ん底でねむってた。おタキは、次の男の元へと……
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