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新橋芸妓遊び(五話)

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 博打で小当たりしてのう、オラは銭握りしめて、こん年だけんど思い切って芸者屋に行ってみたて。たかが知れとる銭だすけ、どげな女があてがわれるんかいや。まあ、こいもためしだわいのう。

 オラ「たのもー、居てはりますか」
 お上「おや、お若い方、お一人で」
 オラ「ここは、一見さんお断りですかや?」
 お上「そんなこと、ねえですきに、さあ、上がっとくれな。めずらしい、お方やなあ」
 オラ「あんまり銭ねえから、安いとこ、たのんます」
 お上「そんじゃ、五十路でええろかや?」
 オラ「ああ、そん方がええらいて。落ちつくからのう」
 お上「そこの、二の間があいとるでな」
 オラ「はあ、まっちょります」

 どげなのが来るろか、楽しみやな。しかし、芸者屋は気が張る、あせっては男がたたんわ。おちつけ、おちつけ。

 芸妓「はいや、よろしゅうたのんま、ミヨいいますね」
 オラ「おお、五十路と聞いてきたども、えろう若いですのう。色艶もええし、そん腰、柳腰ですのう、こりゃ男泣かすわ。ミヨさんは、今まで、そうとう男悦ばしたんでねえの。今日は、しこたま、かわいがってくだせえ」
 芸妓「わたいは、若くないのやで。こん前、儀式をすませたんやで。今は、鳴かず飛ばずの身で、こうてくれはる男はんに、まかせるだけや。そいに五十路じゃのうて、ほんとは六十路やよ」
 オラ「えっ、いやあ、そうは見えねえて。だとすっと若い秘訣は何ですかいの?」
 芸妓「そいは、若い男はんの、お密をちょうだいすることえ。わたいらの花柳界では、若返りの妙薬ゆうて、ありがたがっておるんや」
 オラ「ほうかほうか。そういうもんかいのう。あのう、さっき、ミヨさんが言うてた、儀式とは何のこつで?」
 芸妓「はあ、わたいらは六十路もなかばを過ぎて、そろそろお開きとなるころな。がたいもええ若い男衆五人よんで、朝までかけて、念入りに、こわしてもらうんやよ。えがったこつ、えぐなかったこつ、みんなみんな吹っ飛ばして、真っさらになるんやよ。念入りにな。そいから先は、ほそぼそや。お前さんは、そんな、わたいにあたったんよ、そいでもええかいや」
 オラ「ああ、よくわかりましたて。芸妓の世界もいろいろですのう。せっかくや、何か芸をたのんます。何してくれるて」
 芸妓「わたいのおはこは、尺八ですわ」
 オラ「ああ、あれのこつやな。オラんのが、五臓六腑にしみわたるこつに」
 芸妓「兄さん、うれしゅうおま。若返らせてもらいやす。わたいの残り香、味わってなも。さあ、明かり、けしとくれやす」



 うむ、こいもオツなもんやった。
 オラは両方の音色に、すっかりとろけさせられましたて。
 ええ女はいつになっても、ええ女や。こんたびは、学ばせてもろうたわ。
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