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初吉原(三話)

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 オラが吉原へ行ったんは、十九ん歳よのう。
 そらもう、にぎやかなとこで、すけべ顔がぞろぞろいたて。どこの置屋に入ろかって、女を品定めしては、行ったり来たりしての。まあ、こん置屋の姉御がええじゃねかと、足が止まったんや。あの紫の着物の、よう肥えた三十路に決めたん。

 オラ「姉御、オラは越後の山奥から江戸へ出てのう、来るんが楽しみだったて。ここは、極楽じゃと聞いて来たんや、よろしゅうたのむて」
 姉御「そうや、こん吉原は江戸の花や、男はんの極楽の地や。たんと遊んで行きなはれ、今夜はアテ、兄さんのもんやで。女ん楽しみ方、悦ばせ方、ようおしえたるわ。ささっ、二階へ上がっとくれ、用意が出来たら呼んでな」

 よしゃ、よしゃ、遠慮のう、あばれちょるわいな。たけえ銭出しとるんじゃ、元はたっぷり取ったるわい。

 オラ「おーい、おーい、姉御、早よ早よ。オラんこつ、早くあっためんか」
 姉御「おまっとうさんでござんした、兄さん。朝まで、たんとあるよってに、あわてなさんなって。若い男はんやったら、少のうても三つは決めてもらわんとな」
 オラ「そんなん、朝飯前じゃ、わかっとるわ」
 姉御「男の三つは当たり前、あんな、そやから、三つと三つで六つんことやで、約束やで。アテも、極楽へ連れてっておくれやす」
 オラ「わ、わかったわかった、六つやな……」

 まあ、安請け負いしたけんど、大丈夫やろ。こん日のために、溜めこんで来たわいの。戦じゃ、戦じゃ……

 ……朝んなり、鐘の音が鳴った。オラは空っぽに、なっちょたわ。姉御は横で、ぐったりとして寝ちょる。

 オラ「姉御、起きれや、朝やど、いやーええ思いさせてもろうたわ。また来るすけ、オラんこつ忘れんでけろ」
 姉御「あっ、兄さん、約束よう守ってくれやしたな、たいしたもんや。また、来とくれやす、そん時は兄さんもんやで」
 オラ「おう、またなー」



 そん女のとこには、銭溜めては通い、仕込んでもろうたわ。
 やっぱ仕込んでもらうんには、姉御がええのう。ありがとのー。
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