中国夜話 毛沢東異界漫遊記

藤原 てるてる

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エリツィンに、八つ当たりの巻(二十話)

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歴史は、摩訶不思議な奇妙奇天烈の世界である。
必然の糸と偶然の糸とが、めちゃんこにこんがらがって紡がれていくのか。
光と闇は交差する。魑魅魍魎も跋扈すか。神の手もありやなしや。
人は誰かに導かれて存在するのか、となると、誰がいつ、どうしたかになる。
昨今のプーチン問題、これは歴史の織りなす彩かもしれない。
何れは過去の事柄にはなるにせよ、一刻も早く破壊の嵐を止めねばならない。
あの男を導いたのは、誰か。そう、エリツィンである。

ここはエリツィンに、矢面に立ってもらおう。
良く言えば胆力の塊か、果たした役割は大きい、ソ連邦を解体へと持って行った。
改革派の旗手として、初めはペレストロイカの元、大いに活躍する。
やがて、その遅れを強く非難し政敵に追われ、共産党離党。
彼は巧妙に下野した。ソ連邦内のロシア共和国へ、ここで中央政界に挑んだ。
打倒ゴルバチョフである。改革に次ぐ改革なくしては、ならんのに、遅すぎる。
こう思ったのではないか、ソ連邦の枠を無くせばゴルバチョフは不要だ。
独立国家共同体で、我がロシア共和国が中心となる、その新たな枠を作ろう、と。
ゴルバチョフは盲点を突かれた、下野したと思った男が既存の価値をひっくり返したのだ。
元々、ソ連邦とは10の共和国の集まりである。それを強固にまとめ国とした。
エリツィンからすれば、そんな枠はいらない、新たにロシア中心にまとめてみせる。
でも私には、本当の本当は、ソ連大統領になりたかったのではと、邪推する。
窮余の策にも思えるが、まあ、いい。

歴史のからまった糸をほぐすには、誰が誰を導いたかである。
プーチンはエリツィンに、エリツィンはブレジネフとゴルバチョフであろう。
遡ると、スターリンはレーニンに、レーニンはマルクスとエンゲルスか。
ここでレーニンを少し。晩年に、ほとほと後悔して、スターリンを避けよと言い残す。

私は、エリツィンの改革の精神は好きなれど、レーニン同様に後悔してほしい。
危険極まる種を見つけ、養分をたっぷり注ぎ、育て上げたと思いきや……
毒ある果実。プーチンはスロリートの悪上がりである。戦禍の申し子。
どうもスターリンにだぶる、後は物語で辿る……


毛沢東  「前置き抜き、おい、エリツィン、お前が悪い」
     「お前は政敵のゴルバチョフを追い出し、まんまと国を乗っ取ったな」
     「ソ連解体たって、ロシア共和国が取って変わっただけやろう」
     「本当は、ソ連大統領になりたかったんだろ、正直に言え」
エリツィン「これはまた、藪から棒ですな。いくら共産中国の毛沢東さんでも」
     「それに私はソ連共産党を離党しとりますぞ、目覚めた男です」
毛沢東  「情けない事を言うのう、マルクス主義の本家本元がな」
     「いいか共産主義は、民主主義なんかの遥か先を行っておるんや」
     「やがて世界は、大衆融合の思想ではまとまり切れんようになるん」
     「人というのはな、自由が重石になるんや、自由過ぎると逃げたくなるんや」
     「何が民主国家や、抑えがなくては人はてんでばらばらや、烏合や」
     「下界のお前の弟子、悪たれプーチンは、お前が連れて来たんだ」
     「なんて事をしてくれたんだ、お前の国も二の舞になるぞ」
エリツィン「こちらも言いますぞ、あなたは自由、民主主義を知らんでしょう」
     「私は前とは違う、人類普遍の自由と言う価値に目覚めたのです」
     「共産主義の対極ですぞ、得体のしれない枠が人を駄目にするのです」
     「人の歴史は、この自由を勝ち取って来たのですぞ、自由が第一です」
毛沢東  「あのな、エリツィンよ、では自由の世界の先には何が待っておる」
     「歴史の上では自由は通過点なのじゃよ、いずれは統制の社会にな」
     「お前は人の獣性を知らん。自由と言う名において、戦が起きる」
     「人間はまだ、進歩しておらんのや、たかが数千年の歴史しか歩んでないわ」
エリツィン「いや、私には自由が究極の境地だと思われますな、最終目的だと」
     「ロシアは農奴制で苦しみました、一握りの貴族だけが自由でした」
     「農民はまさに縛られた奴隷です。手足どころか生死を握られてました」
     「それに私はウラルの農家の出です。元は農奴で、自立農家でした」
     「毛沢東さんの中国でも、有史から長きに渡る奴隷の歴史がありますな」
     「失礼ながら、自由を怖れていると言うか、先祖返りというか、その……」
     「封建時代に郷愁めいた憧れを、その、持ってはいやしませぬか」
毛沢東  「エリツィンよ、わしが作った新中国はな、貧富の格差是正、人民の平等を掲げた」
     「あの時代を教訓に歩き出しておる、歴史の浅いロシアにはわかるまい」
エリツィン「毛沢東さん、あなたは原始共産社会の夢を見てはいませぬか」
     「封建社会の前の、みんなが共に助け合ってた、ほのぼのとした社会を」
毛沢東  「ああ、お前と話しても、互いに交わらんわい」
     「おいおい、こんな運びではなかったわい、奴、プーチンの事だ」
     「お前は何で、あんな悪を後継にしたんだ。KGB長官なんぞを」
エリツィン「箍と言うか枠が必要なのです。大衆を抑えねばなりません」
     「あいつは必要悪みたいなものでした、私も新ロシアを作ったのですぞ」
     「その点は似てますな、自由と言うのは気を付けねばなりません」
     「大衆はどこに暴走するやも知れません。抑えが必要です」
     「毛沢東さん、何か、お互いの意見が似て来ましたな、だんだんと」
毛沢東  「うむ、わしも思う。だが、ともかくもじゃ、プーチンを何とかしてくれ」
     「また言うぞ、エリツィン、お前が悪い、プーチンを見抜けなかった」
     「お前の眼鏡違いが、今の惨状に繋がっておる、どうしてくれるんだ」
エリツィン「確かに私にも、任命責任がありまする、一端はありまする」
     「して、どうしたものか、こうなれば私の巨体で押し潰すしか」
     「あの男は柔道をやりますんで、なんとか寝技に持ち込み一本取りまする」
毛沢東  「よし、エリツィン、奴を潰せ。ウクライナはお前の巨体に掛かっておる」
     「下界に出没し、大いに暴れて来い、早よ、行けー」
エリツィン「ほい……」


さて、エリツィンの巨体に期待出来るであろうか。
この政治家に引退後に待っていたのは、プーチンによる「金のかご」である。
後継者によって、盗聴と言う楽でもない仕打ちをくらった。
緩い軟禁のような監視下に置かれ、空を見上げて何を思ったのだろうか。
彼は、ロシア・ナショナリズムを体現していた。そんなロシアの大地の男。
民の心のわかる、ウラルの星であった。
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