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ホラーだよ
しおりを挟む「ねぇ、どこに行くの?」
振り返る。
想像が具現化してしまって、ドクン!と嘘みたいに心臓が跳ねた。
「ひっ…!」
やだやだやだやだ怖い怖い怖い怖い!
足を川原の変なところにつく。
川岸って斜面みたいになりがちじゃん?
バシャン!って。
結構勢いよく落ちた。
川岸にあがればいいんだけど。
川岸にはあの青い髪の少年が立っていて。こっちをじっとり見下ろしてる。
本能的な恐怖で足を数歩引いてしまう。つまり川の方へと体を移動させてしまった。そこでハッとする。
もうこのまま川渡っちゃえばよくない??
元水泳部!舐めるな!
もうほとんどヤケクソで反対側の岸へと泳ぎだす。
川は幅は長いもののギリギリ足はつく。
流されたとしてもその方向には今住んでいる家があるし、向こう岸の橋からも反対方向だし距離が稼げる。
あとから思えば、あんなポンポン色んな場所に現れるんだから全部無駄って考えられたはずだったんだけど。
とにかく離れたかったんだ。怖くて。川の中にまで入ってくるとは思えなかったし。
思ったよりも流される。
あれ?少年と相対するのと、川で溺れ死ぬのって天秤釣り合ってなくない?
なんて馬鹿みたいに考える。
恐怖はなくて焦りが強い。
足を伸ばせば足はつくけど、着物は大量に水を吸うし川の流れをモロに受け止めてる。
うわっ全然プールと違うじゃん!怖っ!川怖っ!着衣水泳(着物)怖っ!
命からがら岸へとたどり着く。
命の危機を乗り越えた私は多分さっきまでの自分とは違う。(死線を乗り越えた者の目)
なんて意味のわからないことを考えながら、普段ならありえないんだけどたどり着いたまま川原に突っ伏してた。
こんなとこ、人に見られるとまずいんだけど。噂になる。家の人に迷惑かける。でも、無理。
気づくと誰かの着物の裾と下駄を履いた足が見えた。座り込んでこっちを見てる。
うん、…少年、みたいな……。
どっくん、どどっくん、どっこん、どどどと変なリズムで心臓が全身を揺さぶる。
え、もう無理無理無理無理!
キャパオーバーでしょ!いいかげんにして!?神様?運命!?馬鹿なの!?馬鹿だよね!???
「やっと見つけた」
さっきからとっくに見つかってましたみたいですけども!?(混乱)
冷たい頬に小さな手を当てられて顔を上向かさせられる。
(あ…)
少年は笑っていた。とても可愛らしく。よく見れば顔も整っていてとても可愛らしい顔だちだ。
なんだ可愛いじゃん。怖いとか思って、悪っ…………。
いや、溺れかけて突っ伏してる女、こんな笑顔で見つめてる少年やっぱ怖っ………!?
でももう動く気力ないよー。限界だよー。
何?もうやだ?殺されるのかな???
困り果ててつうっと涙が頬を流れる。
異世界人めーっ!見つけたぞーっ!グサーっ!みたいな。
いやーーーっ!!無様!無様な人生っ!!
とか考えてたら少年の顔が近づいてきた。
怖すぎるけど顔は綺麗……。
とか思ってたらキスされた。
「甘い。やっと見つけたぞ、つがい」
少年がにっこりと笑う。
「………は?」
目が点になるとはこういう状況のことか。
ちょっと!なにすんのよ!
「最低ーっ!やだもう!帰って!」
このために追ってきた訳??
怖すぎ。
「やっと見つけたのに帰れだと?何年もどこに隠れておった?お前が今日神社に来なかったら気づかないままだったぞ」
「…………は?」
「我が名は瑠璃龍。お前のつがいで夫となるものだ」
「……………ふっ」
「…なぜ笑う?」
訝しげに瑠璃龍とへんてこな名前を名乗った少年は首を傾げる。
「あのね、恋愛って大人は大人同士ですんだよ?君にはもっとお似合いの子がいるから、ちゃんと同い年くらいの女の子を探しなさい?いいね?」
異世界ルールなんて知らない。ありえないと思うだけだ。
10歳、せいぜい13歳くらいにし見えない少年を恋愛対象になんて全く思えない。
顔は綺麗だし、じっとこちらを見る表情もどちらかと言えばかっこいいとしか言えないだろう。
ーでも。
それは自分が同世代以下だったら、の話である。
何歳だと思ってるの?私22歳よ?10個下とか普通に犯罪だから元の世界的には。この世界ではどうか知らないけどさ!
少し元気になってきたのでぐいっと少年を押しのけて体を起こした。
…あーまだしんどいや。ていうか寒い。
体を両手で抱きしめる。
「小さなことを気にするやつだな。こちらは神であり、龍だ、お主らとは寿命が違う。確かにいささかお前は年下過ぎるかもしれないが私は気にしない。つがいは同時期にそう何人も現れるものではない。だからこそお前を探しておったのだ。」
「……」
なんか言ってるわ。
めんどくさくなって怖さも薄れて、寒いし、ただ帰りたかったけど、まだ動けない。
養い親の「変なのに絡まれないように、彼から離れないように」と言われたことを思い出しため息をつく。
こーゆうこと?
確かにこれはめんどくさい。
なんか結婚詐欺、みたいなさ。
日本だったら結婚詐欺、って言葉で済むけど、こっちは種族とか文化の差とか激しいから共通ルールみたいなの多分ないし、話し合いで解決する感じじゃないんだろうな。同じ地域に住んでても違う外国のルールで生きてる、みたいな。
それはお前の国のルールだろ、的な。
無意識にはぁーーーーっとため息をつく。
あ、2回目だね。まだいけるよ。
彼氏さんが送ってくれれば良かったのよ、私のことを家まで。そしたら怖い思いもしなくて済んだし、川泳がなくて良かったし、変な考えの男の子に絡まれなかったし…。
「って!何!近いってば!」
「もう一度」
「は?」
「さっき、心地いい感じがした」
頭の後ろに腕を回される。
何言ってるんだこのマセガキボーイ?
「するわけ!」
!?
子供だからって油断しすぎた。
2回目のキスを奪われる。
あーもう!ばかばか!
ぐいっと肩を押そうとして気づく、あれ?意外と肩がしっかりしてる?
そして気づくとなぜか地面に横たえられていて、こちらを見下ろす少年と空を見上げるハメになる。
あれ?少年?
さっき13歳くらいって思ったような気がするんだけど、なんか今13歳には全然見えないんだけど?14歳とか………あれ?
「…もっと、欲しい」
そう言う少年の表情が色っぽくて、初めて彼が異性に見えて困った。目をそらす。
あ、だめだこれ真面目に逃げよう?
ずるずると少年の下から這い出す。
「どこへ行く?」
「…帰る」
思いっきり逃げたいけど、体の先が寒さのせいか運動のせいか痙攣するかのようなぷるぷると震えている。いや、太股も二の腕も、…全身だ。
「なぜ?」
「もう疲れたから。……あなたと、付き合う気もないし」
「嫌だ。ずっとお前だけを待っていたんだ」
こちらを真っ直ぐに見つめる瞳と目があって動揺した。
こんな風に一途に、彼も思ってくれたら、良かったのにな……。
頬に暖かい何かが伝う。
ボロボロと何度も流れ落ちて行く。
「…なぜ泣く?嬉しいのか?」
「ははは…」
悲しいからだよ。悲しい、寂しいって思ってるって再認識しちゃったからだよ。
無駄なポジティブ思考が羨ましい。
「ねぇ、やっぱり無理。私、好きな人いるし、彼も…いるし…」
「彼?」
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