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第一章 家族編
1話 お庭探検たのしみだなあ!
しおりを挟むさて、僕は今日で3歳になった。ハッピーバースデー! でもお祝いなんてないよ。
それに侍女も変わらず1人。でもいいもんね! 僕は生まれたときからそばにいてくれるこの人のことを信用してるから!
「マリー! あそぼー?」
「リュカ様。ええ、いいですよ。何をして遊びましょうか?」
ソファーに座っている僕ににっこり笑顔を向けて、優しく聞いてくれる茶色の髪の若い女性。毛先はふわふわと跳ねているけどストレートな髪質をしている。
茶色だから土属性なのかなー?って思って聞いたら、僕の予想通り土属性だって教えてくれた! でもたまたま土属性なだけで、茶色の髪色はありふれているみたい!
やっぱり僕の黒髪は珍しいんだなぁ……。
そんなことを改めて考えていると、いつのまにか不安になって自然と顔を下に向けてしまっていたみたい。
マリーは心配そうに僕の顔を覗いて、ふんわりとした優しい声で話しかけてくれた。
「リュカ様、なにかありましたか? マリーはいつでも遊びますよ!」
「だいじょーぶ! んーっとね、じゃあパズルしよ!」
「はい、それではパズルを持ってきますね! 少々お待ちください」
「うん!」
ずーっと付きっきりでお世話をしてくれる大好きなマリーを心配させたくないから、僕はにっこり笑顔でお返事した! 今日はどんなパズルを持ってきてくれるのかな?
まだ前世のように指先を器用に動かせないし、パズルで指を使う特訓だー!
特訓兼暇つぶしとしてパズルができることにうきうきしていると、強い風が急に部屋に吹き込んできた。ぶわっという音がするほど強い風が、僕の部屋のカーテンをなびかせる。あまりにも強すぎる風に驚いた僕は、このまま開けておくとマリーが持ってきてくれるパズルのピースが飛ばされちゃうかもと思って、窓を閉めようと立ち上がった。
その瞬間、カーテンの隙間から庭の風景が見えた。
「うわー! きれいー!」
感心して窓に駆け寄ると、2階の僕の部屋からでも庭一面に咲き誇る赤色のバラがくっきり見えた。水やりをしたばかりなのか、バラの花に残った水滴が太陽の光を反射しているから、前世で見たことがあるバラよりもさらにキラキラしているように感じた。
一見すると、赤と緑で彩られた絨毯のように思えてしまうほどきれいなバラ庭をそのまま眺めていると、前世でプレイしていたBLゲームのエンディングシーンが頭の中に流れてきた。
それは、クラウス兄さまを攻略した主人公がバラ庭で告白されるというシーンだった。ゲーム内ではどこのバラ庭なのか記述がなかったから全然わからなかったんだけど、今見ているバラ園がそのシーンのバラの配置と全く一緒だから、この家の庭で告白が行われたんだとようやく知ることができた。
ちなみに僕は全キャラ同じくらい好きだったから、全ての攻略対象者を攻略したよ。えっへん!
前世でプレイしたBLゲームを思い出しながらきれいなバラをぼーっと眺めていると、コンコンと誰かがドアをノックする音がした。うーん、もうマリーが帰ってきたのかな?
「はい、どうぞ!」
「失礼しますリュカ様。まだ1度もしたことがないパズルを持ってきましたよ! ……お庭を見ていたのですか?」
「うん! おそときれいだねー!」
「そうですね……今日は天気もいいことですし、お庭にでるのもいいですね!」
素晴らしい提案を聞いた僕は、「告白シーンに使われたバラ庭に行けるのって最高じゃん! 行きたーい!」とすぐに思った。生まれてから一度もお庭に出たことがないから、思わずぴょんぴょんと跳ねてよろこんでしまう。
なんで3歳になっても家のお庭に1度も行ったことがないのかというと、急に部屋の中に入ってきた父さまに「外に出るな」と言いつけられたから。それも僕の拒否権は無しにね!
むむ、こんなことを考えているとなんだか会話を思い出してしまう。
『リュカ』
『はい、とうさま。……なんでしょうか?』
『いいか、お前は黒髪黒目だ。それは異常なことなのだから、決して外にでるな。少なくともこの家の外に出るなど馬鹿なことをするな』
『でも……ぼくもおそとにでたいです……』
『……庭くらいなら許してやる』
返事もせずにぽつりとこぼした僕の言葉を聞いて、すでに背を向けていた父さまはこっちを見ずに一言だけ残して立ち去って行った。
改めて思い出してみたけれど、僕の「おそとにいきたい」というわがままに対して妥協してくれたのにはおどろいた!
でもこれくらいのわがままは誰でも聞いてくれるよね!うんうん! よし、パズルはいったん机に置いといて、先にマリーとお外に行こう!
「マリー、いこー?」
「それじゃあフードのある服に着替えましょうね」
「うん!!」
たとえ僕が公爵家の生まれであっても、黒髪黒目という嫌われても仕方ない見た目の持ち主だということは変わらない。だから嫌われる原因となるものを隠すために、僕は家の中でもフードを被って廊下に出るようにしている。
それに実は、僕は新しい服を持っていなくて、全て兄さまのおさがりを着ている。
行商人が服や装飾品を売りに来ても、僕はお母さまに「恥さらしだから人前に出るな」と言いつけられているから何も買えない。……そしたら兄さまが「僕がこっそり買ってきてあげようか? 僕の分として買うこともできるよ」って言ってくれた。だけど僕は、「3歳と8歳では服のサイズが全く違うから、この家のお金の管理をしているお母さまに商品を見られたらバレちゃうよ!バレたら兄さまが怒られる!そんなのやだ、だめー!」って止めた。
でも僕のために新しい服を買おうと一度でも検討してくれた兄さま大好き!
ここまで心の中ではかなり語っていたが、実際には黙々とマリーに手伝ってもらいながらお外用の服に着替えている。そうしていたら、マリーが悲し気に、だけど感心した声で話しだした。
「リュカ様は本当にわがままを言わないいい子ですね……私はリュカ様が黒髪黒目というだけで蔑ろにされるのはとても悲しいです。属性というのもまだ確定ではないのに……」
そう、実はまだ僕の魔法属性は確定していない。魔法属性の検査は5歳になったときに行うと決められていて、その検査はこの世界における1種の通過儀礼のようなもの。
平民は町の教会で、貴族は各家庭に教会の司祭さんがわざわざお家に来て魔法属性を検査してくれる。魔法属性の検査についてはゲームで詳しく描写されていなかったからあまりよくわからないけど、司祭さんが水晶玉のようなものを出すから、僕はそれに手をかざしたらいいらしい。
僕のぽんこつな頭では仕組みが理解できないけれど、その水晶玉には対象の体内魔力が水晶玉の中に入るように促す力があるみたい。
だからゲームの世界とこの世界の設定が同じなら、僕が闇属性というのは5歳になったらわかるはず。それにゲームでは攻略対象者のお話がメインだから、弟の僕の魔法属性検査の描写はさすがになかった。
というわけで僕は魔法属性検査をするのがちょっと楽しみ。まあ、闇属性だと確定したせいでお母様に嵌められてぽいっとされるんだけどね!
とりあえず、僕の代わりに悲しんでくれているマリーに対する返事はこれに決まってる!
「マリー! ぼく、だいじょうぶだよ? 僕にはマリーがいるし、あと、みんなにないしょで兄さまもあいにきてくれるもん!」
マリーは僕の外見ではなくて、内面をみて接してくれているからもちろん大好き。
ただ、それと同じくらい僕のことを心配して、お部屋を覗きに来てくれる兄さまも大好き!!
よーし、そんなこんなでお返事していたらお着替えもばっちり終わったし、パズルは帰ってきてからのお楽しみにしてお庭にしゅっぱーつ!
応援ありがとうございます!
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