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第5話 飼い犬との再会
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「リヴェ!」
「ワン!」
私が外に出たのと同時に、リヴェが馬車から勢いよく降りて駆け寄る。体力が戻っていない私と、大型犬のリヴェでは、その勢いを相殺することは、明らかに無理な話だった。
案の定、リヴェの重みでそのまま地面に背中が付く……と思ったら、何故か温かい感触に包まれた。
「え? ちょ、ちょっと待って、待ってってば、リヴェ!」
確認したいのに、リヴェはお構いなしに私の顔を舐める。すると、先ほどお父様と話していた御者が咳払いをした。
「ううん!」
「ダリヤお嬢様の衣服が乱れますので、自重してください」
メイド長らしき人にも注意され、リヴェは渋々、私の上からどいてくれた。
よく見ると、下に薄いマットレスのようなものが敷かれていた。部屋に入ってきたメイドたちが持っていた、あの大きな荷物の中にあったものだろうか。
正面に向き直ると、不満げな顔が目に入る。余程、注意を受けたのが嫌だったようだ。けれどその青い瞳に見つめられると、どんな姿でも愛おしさが募る。
頭を撫でると気持ち良さそうに目を閉じる姿。特に耳が弱いのか、そこに触れると、手に擦り寄ってくる。
あぁ、私の知るリヴェだ。
けれど、肌触りが違う。よく見ると艶のある毛並み。
「リヴェ?」
「ワン?」
まるで、どうしてそんな目で見るの? と言っているかのようだった。
「綺麗にしてもらったのね。ここを出て、良い方に拾ってもらえたのかしら」
「ワワン!?」
何故か慌てるリヴェ。こんなに喜怒哀楽が激しかったかしら、と今度は私が首を傾げた。
「ダリヤお嬢様。そろそろお立ちになられてはいかがですか?」
「あっ、そうですね」
私はメイド長らしき人の手を借りて起き上がる。すると、お父様とお母様が凄い顔で睨んできた。さらにその隣には、ベリンダお姉様が……ん?
「ベリンダお姉様?」
亜麻色の髪の女性が立っていたが、紫色の瞳とその顔立ちに、私は思わず声をかけてしまった。
何故、そのような格好を……。そういえば、さっき御者が何か言っていたような。
「そちらの令嬢を姉と呼んだ、ということは、こちらの女性もブベーニン伯爵家の令嬢と見て、よろしいですね」
「ち、違う。この家の娘はこの子のみだ」
「嘘はいけませんよ、ブベーニン伯爵。フォンス侯爵様から令嬢はお二人とお聞きしています。我が主を侮辱するつもりですか?」
お父様が御者相手にたじろいでいる。もしかして、この人は御者ではない?
「でもまぁ、今となっては些細なことです。飼い犬と一緒に来られる令嬢。つまり条件を満たしているのはあちらの方のみですから。構いませんね」
「か、金をくれるのならば」
「お父様っ!? 何を仰るんですか! 私は……」
「うるさい!」
何故か悲壮な声を上げるベリンダお姉様。お父様に怒鳴られて、さらに顔を青くする。
お金を貰えれば、私であろうが、ベリンダお姉様であろうが、お父様にとっては関係ないらしい。それだけは理解できた。が、他は何を言っているのか、理解できなかった。
そもそも婚姻相手はサンキーニ男爵ではなかったの? フォンス侯爵って?
それに、飼い犬と一緒って、どういうこと?
「ワン!」
誰も答えをくれない中、リヴェが私のスカートを引っ張る。
「リヴェ、やめて。これは借り物だから、破けたら困るの」
「いえ、大丈夫です。こちらはご主人様からダリヤお嬢様にと、用意された洋服ですので」
「えぇぇぇぇ! そ、それは益々、大変じゃないですか!」
さらに困る案件を言われてしまい、どうしていいのか分からなくなってしまった。けれど戸惑う私を他所に、リヴェとメイド長らしき人、御者に引かれて馬車の中へ。
その間、お父様の声が聞こえたような気がしたけれど、何を言っているのかまで聞き取れなかった。
「ワン!」
私が外に出たのと同時に、リヴェが馬車から勢いよく降りて駆け寄る。体力が戻っていない私と、大型犬のリヴェでは、その勢いを相殺することは、明らかに無理な話だった。
案の定、リヴェの重みでそのまま地面に背中が付く……と思ったら、何故か温かい感触に包まれた。
「え? ちょ、ちょっと待って、待ってってば、リヴェ!」
確認したいのに、リヴェはお構いなしに私の顔を舐める。すると、先ほどお父様と話していた御者が咳払いをした。
「ううん!」
「ダリヤお嬢様の衣服が乱れますので、自重してください」
メイド長らしき人にも注意され、リヴェは渋々、私の上からどいてくれた。
よく見ると、下に薄いマットレスのようなものが敷かれていた。部屋に入ってきたメイドたちが持っていた、あの大きな荷物の中にあったものだろうか。
正面に向き直ると、不満げな顔が目に入る。余程、注意を受けたのが嫌だったようだ。けれどその青い瞳に見つめられると、どんな姿でも愛おしさが募る。
頭を撫でると気持ち良さそうに目を閉じる姿。特に耳が弱いのか、そこに触れると、手に擦り寄ってくる。
あぁ、私の知るリヴェだ。
けれど、肌触りが違う。よく見ると艶のある毛並み。
「リヴェ?」
「ワン?」
まるで、どうしてそんな目で見るの? と言っているかのようだった。
「綺麗にしてもらったのね。ここを出て、良い方に拾ってもらえたのかしら」
「ワワン!?」
何故か慌てるリヴェ。こんなに喜怒哀楽が激しかったかしら、と今度は私が首を傾げた。
「ダリヤお嬢様。そろそろお立ちになられてはいかがですか?」
「あっ、そうですね」
私はメイド長らしき人の手を借りて起き上がる。すると、お父様とお母様が凄い顔で睨んできた。さらにその隣には、ベリンダお姉様が……ん?
「ベリンダお姉様?」
亜麻色の髪の女性が立っていたが、紫色の瞳とその顔立ちに、私は思わず声をかけてしまった。
何故、そのような格好を……。そういえば、さっき御者が何か言っていたような。
「そちらの令嬢を姉と呼んだ、ということは、こちらの女性もブベーニン伯爵家の令嬢と見て、よろしいですね」
「ち、違う。この家の娘はこの子のみだ」
「嘘はいけませんよ、ブベーニン伯爵。フォンス侯爵様から令嬢はお二人とお聞きしています。我が主を侮辱するつもりですか?」
お父様が御者相手にたじろいでいる。もしかして、この人は御者ではない?
「でもまぁ、今となっては些細なことです。飼い犬と一緒に来られる令嬢。つまり条件を満たしているのはあちらの方のみですから。構いませんね」
「か、金をくれるのならば」
「お父様っ!? 何を仰るんですか! 私は……」
「うるさい!」
何故か悲壮な声を上げるベリンダお姉様。お父様に怒鳴られて、さらに顔を青くする。
お金を貰えれば、私であろうが、ベリンダお姉様であろうが、お父様にとっては関係ないらしい。それだけは理解できた。が、他は何を言っているのか、理解できなかった。
そもそも婚姻相手はサンキーニ男爵ではなかったの? フォンス侯爵って?
それに、飼い犬と一緒って、どういうこと?
「ワン!」
誰も答えをくれない中、リヴェが私のスカートを引っ張る。
「リヴェ、やめて。これは借り物だから、破けたら困るの」
「いえ、大丈夫です。こちらはご主人様からダリヤお嬢様にと、用意された洋服ですので」
「えぇぇぇぇ! そ、それは益々、大変じゃないですか!」
さらに困る案件を言われてしまい、どうしていいのか分からなくなってしまった。けれど戸惑う私を他所に、リヴェとメイド長らしき人、御者に引かれて馬車の中へ。
その間、お父様の声が聞こえたような気がしたけれど、何を言っているのかまで聞き取れなかった。
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