病弱な公爵令嬢(?)の家庭教師~その正体は?~

有木珠乃

文字の大きさ
上 下
28 / 35
第1章 ディアス公爵邸編

第28話 身の振り方(ザカリー視点)

しおりを挟む
 
 その後、アニタが渋っていたコルテス男爵の成り上がり話や、養女の件などを聞いた。
 アニタを家庭教師に選んだ、父上の意図も。

 色々としゃくに障ることはあったが、結果として、その采配は正しかった。父上の思惑通りではないが。

 それでも父上がアニタを呼んでくれたのは、幸いだった。
 こ、この状況に、けして喜んでいるわけではない、とだけ言い訳しておこう。

 俺は横になったまま、頭上にいるアニタに向かって質問を投げかけた。

「アニタはアカデミーを卒業したら、どうするんだ?」

 ルシアの治療が済めば、アカデミーに。
 普通の貴族令嬢ならば卒業後、結婚相手を探す。だが、アニタは魔女だ。
 貴族の常識に当てはめていいのだろうか。

 しかし、養父であるコルテス男爵は貴族になったばかりだ。これから手広くするならば、アニタを結婚市場に売り込む可能性もあるのではないだろうか。

「教授になりたいと思っています」
「教授?」

 思わずアニタの方に顔を向けた。何故か困った表情をしている。

 そんなおかしな質問をしただろうか。

「はい。実は今回の件が上手くいったら、その後押しをしてくれる約束を養父と取り交わしていたんです」

 なるほど、と俺は手を伸ばした。
 初めて触るルシア以外の女性の頬。

「それならば、間違いなく教授になれるだろう。我がディアス公爵家も後押しするのだから」
「え? それは在学中というお話では……」
「卒業前にするのだから、在学中だろう」
「でも、それはサポートというか、フォローの範囲を越えていませんか?」

 俺としては越えていないと思うのだが、過多かただっただろうか。

「アニタがキッカケで、我が家の在り方が元に戻るんだ。そのくらいしても、父上は何も言わない」
「しかし……」
「好意……いや、善意が過ぎるというのなら、本当に家庭教師をしてみないか?」
「え?」

 俺は起き上がり、アニタの横に座り直した。

「ルシアの家庭教師として、だ。今いる家庭教師たちは、俺が“ザカリー”に戻るためのものだが、ルシアにはいない。俺が戻った時、ルシアに教養が備わっていないと怪しまれる。だから」

 ルシアが懐いているアニタが適任だと感じた。授業中に何かがあっても、病状を一番把握しているアニタが傍にいるのは心強い。

 何よりその分、アニタはここにいられる。

「完治するまでと言ったが、その、引き延ばせないだろうか」
「無理ではありません。ルシア様は病の説明や薬のことまで、きちんと理解できるほど聡明な方ですから。短期間でも、問題はないと思います」

 つまり、完治するまでにルシアの教育課程は終える、と言っているのだろうか。
 侮っていたわけではないが、さすがアカデミーの首席と言うべきか。

「……そういう意味ではないのだが」
「え? けれどこの方が、都合がいいと思うんです。ザカリー様もルシア様も、そろそろ学校に通われる年齢にもなりますし。あっ、公爵家ともなると、必要ないのでしょうか?」
「……いや、それは自由だ。行きたくなければ家庭教師で済ませることもできるし。周りとの交流を深めたければ、通学も……」

 通学? そうか、その手もあったか。

「アニタ。俺の今の成績で、アカデミーに入学することは可能か?」
「アカデミーですか!? その、ザカリー様の成績を知らないので、お答えするのは」
「そう、だったな。済まない。気が急いでしまった」

 これは、今いる家庭教師たちに聞くしかないか。

「アカデミーへの入学を希望されているのですか?」
「元々、どこかの学校に通うつもりだったんだ。ルシアの振りが長かったからな。友人と呼べる者がいないのは、これから社交界で生きていく上では都合が悪い」
「そうでしたか。でしたら、アカデミーは最適な場所だと思います。他の学校は社交界の縮図のような場所ですが、アカデミーはその要素が薄いですから。ザカリー様にはよろしいかと」
「……アニタは嫌ではないのか?」

 水を差したくはなかったが、聞いておかなければならない案件だった。

「むしろ大歓迎ですよ。その頃になれば、私も教授になっていると思うので、今度は私がサポート致します!」
「そ、そうか」
「はい。楽しみにしています」

 嬉しそうに笑うアニタに両手を取られ、俺は俯いた。
 顔が熱くて堪らなかったからだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

不埒に溺惑

藤川巴/智江千佳子
恋愛
「××もらってくれませんか」 小宮明菜は玉砕前提の、一世一代の告白をしたつもりだった。 「小宮さんの誘惑に耐えられなくなったら、抱きます」 「ゆ、うわく……?」 ――それがどうして、こんなに難しい恋愛ごっこになってしまった? 「誘惑はお休み?」 「八城さんに誘惑されすぎて、それどころじゃない」 「恋愛初心者には見えないんだけどな」 本当に初心者なので、手加減してください、八城さん。 「俺以外のやつにフラフラしたら」 「し、たら?」 「遠慮なくめちゃくちゃにする」 恋愛初心者OL×営業部エースの『誘惑』ラブゲーム開幕?

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

城内別居中の国王夫妻の話

小野
恋愛
タイトル通りです。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

ここは貴方の国ではありませんよ

水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。 厄介ごとが多いですね。 裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。 ※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。

【完結】この胸が痛むのは

Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」 彼がそう言ったので。 私は縁組をお受けすることにしました。 そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。 亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。 殿下と出会ったのは私が先でしたのに。 幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです…… 姉が亡くなって7年。 政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが 『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。 亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……  ***** サイドストーリー 『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。 こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。 読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです * 他サイトで公開しています。 どうぞよろしくお願い致します。

勘違い令嬢の心の声

にのまえ
恋愛
僕の婚約者 シンシアの心の声が聞こえた。 シア、それは君の勘違いだ。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

処理中です...