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第1章 12歳:出会い
第17話 「そんなことで嫌いにならないよ」
しおりを挟む「そういえば、いつリュカと知り合ったの?」
エリアスをソファに座らせた後、私は今更な質問をした。気がつくと、すでに険悪な雰囲気だったから、聞けなかっただけで、疑問はずっと頭の中にあった。
「いつって、最初からだよ。年齢が近いから、周りが気を遣ってくれたんだ」
あぁ、と私は何となく悟った。周りは何も悪くない。エリアスもリュカも。ただ、タイミングが悪かっただけで。
「良かった」
しかし私は、別のことに安堵したため、つい口を滑らせた。案の定、エリアスが怪訝な顔を向ける。
「何が?」
「えっと……思ったよりも、皆に歓迎されていたってことにだよ。初めから、除け者にされていたんじゃないかって、実は心配だったの」
今のリュカではないが、孤児というだけで、嫌がらせをする者はいる。エリアスが優秀なら、尚更のことだ。
私やお父様の耳に届かないように。同じ使用人たちにも、バレないようにすることだって可能だ。古参やずる賢い使用人ならば、特に。
「あぁ、それは俺がマリアンヌを助けたからだよ。あ、助けたっていうのは、ちょっと違うか。……見つけたからだよ」
「ふふふ。見つけてお父様のところまで連れて行ってくれたんだから、“助けた”で合っているよ。エリアスが見つけてくれなかったら、危なかったんだから」
そうでしょう? と頭を傾けて、わざとらしく微笑んだ。ヒロイン補正で可愛らしく見せるように。
だって、そこはもっと自信を持ってほしかったから。
「まぁ、そんな理由で、初めから良くしてもらっていたんだ」
「リュカとも?」
私がリュカの名前を出した途端、照れていたエリアスの顔が、しかめっ面になった。
「あいつは別に……普通だったよ。多分、最初から俺のことが気に食わなかったんだと思うけど」
「私がエリアスを連れてきたから、だよね」
もう私も言葉を濁したり、隠したりしないことにした。ここまで二人の関係が悪くなっているのに、リュカの気持ちに気づかない、知らない、なんて無責任なことは言いたくなかったからだ。
まぁ、リュカとの関係は、転生前に出来上がっていたから、責任があるのかどうかは、怪しいところだけど。一応、ヒロインだからね。攻略対象者の面倒は見ないと。私が関わっているのなら、特に。
「俺がマリアンヌの護衛になるために雇われたことは、一部の人間にしか知らせていなかったみたいだけど」
「うん。リュカは私の乳母の子だから、知っていてもおかしくはないわ」
「でも表向きは、他の人たちの目があったから、露骨に攻撃できなかったんだよ。今なら、そう思える」
伯爵邸の使用人たちが、孤児院からやってきたエリアスに対して、すぐに馴染むように、リュカを紹介したくらいだ。何の理由もなしにエリアスを攻撃すれば、非難を浴びるのはリュカの方。
それくらいの理性はあったみたいね。
「つまり、リュカが嫌がらせを本格的にし始めたのは、エリアスが従者になってからなのね」
まぁ、リュカからすれば、鳶に油揚げをさらわれたようなものだ。いくら従者にする約束がなくても、そのつもりでいたのなら、尚更だ。
「マリアンヌだけじゃなくて、旦那様の反応を見ても、あいつの勘違いってことは一目瞭然なんだ。それなのにあいつは!」
エリアスはハッとなって、口を噤む。
「大丈夫だよ。我慢しなくても」
正直、今のエリアスに愚痴を吐ける相手がいるのか、分からなかった。もしいないのなら、ここで吐き出してほしい。
そこに私の悪口が入っていても、問題はないよ。全部私が悪いんだから。攻略対象者を一カ所に置いてしまった、私が。さぁ、どんと来い!
「いや、やめとくよ」
「どうして?」
「……嫌われたくない」
「そんなことで嫌いにならないよ」
「じゃ、好き?」
「え?」
なんで、そんな流れに?
「好きだよね、俺のこと」
「エ、エリアス?」
どうしたの、と聞く前に、扉の外から音がした。私は自然と扉の方に頭を向ける。が、すぐさまエリアスに頭を掴まれて、向き直された。
「マリアンヌ、答えて」
「……まだ答えなくていいって言ったじゃない」
「今、ほしいんだ」
なんだか怪しい。どうして今なの?
それに、いくら今は従者であっても、護衛も兼ねているエリアスが、扉の外の音に反応しないのはおかしい。
「エリアス。何を企んでいるの? 答えてくれなきゃ、私も答えない」
すると、エリアスは私の耳に囁いた。
「今だけでいいんだ。好きって言って」
「分かった」
私の言葉に、エリアスは嬉しそうな顔を向ける。だから、私は心を鬼にして言い放った。
「エリアスもリュカも大嫌い!!」
案の定、エリアスの顔は蒼白になった。もう一方、扉の外でも再び音が聞こえた。
私は立ち上がり、扉へ向かって歩き出す。エリアスに手を掴まれたが、思いっきり払った。触らないで、とばかりに。
後ろからエリアスの声が聞こえたような気がしたが、足を止めなかった。振り返ることもしない。
私は怒り心頭のまま、思いっきり部屋の扉を開けた。
「お、お嬢様……」
そこには予想通り、リュカがいた。
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