愛する婚約者は、今日も王女様の手にキスをする。

古堂すいう

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赤面

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(そういえば……彼にはまだ話していないことがあったんだった)

なぜ、自分がこんなにやせ細ってしまったのか。その理由を信じてくれた今、他に何も話すことはないと思っていたけれど。まだ、彼に話せていないことはたくさんあるのである。

その中の1つでより重要なのは、ロメリアが本来はガブリエルとマリエンヌの仲を引き裂く役割を負う、いわば「悪役」であるということ。先の行動はおそらく無意識に「悪役になりたくない」という気持ちが出た結果だとも取れる。

しかしそれを、ガブリエルにどう説明したものか……。

(出来るだけ、自然な形で伝えられたら良いのだけど……)

ロメリアは僅かに考えたものの、あまり長く考え込んでも埒が明かないと気づき、ほとんどそのままを話すことにした。

「考えすぎなんかじゃないわ。私は……悪い女になりたくないんだもの」
「?」

「意味が分からない」と思い切り顔に出すガブリエルに対して、ロメリアは至って真面目な顔で言葉を続ける。

「あなたのことが……好きで、好きで堪らなくて……だからいつもあなたの傍にいられるマリエンヌ様に嫉妬して……悪い女になっちゃうかもしれないじゃない。その可能性が消えることは、残念だけれど、私があなたを好きでいる限りないわね。そうでしょう?」

顔を俯けながら、言い終えて。

しかし、ガブリエルから何の反応もないことに居心地の悪さを感じて顔を上げると、思いもよらない表情が目に入った。

大変珍しいことに、ガブリエルの頬がうっすらと赤く染まっているのである。

「……君は、どうして……そんな……簡単に……熱烈なことが言えるんだ」

目が合うと、彼は咄嗟に口元に手をあてて、顔を背ける。
何故かこちらまで恥ずかしくなって、ロメリアも視線を反らした。

(そ、そんな熱烈だったかしら……)

自分の言葉をそこまで意識していなかったから、分からない。
好きだと伝えたことは何度かあるはずだ。別に今更照れさせてしまうようなことを言った覚えはない。

だが確かに……よくよく思い返してみれば「あなたのことが好きすぎて、他の人に嫉妬して悪い女になる」なんて面と向かって言うのは淑女としてはあまりよろしくない言動であるように思う。

説明することに夢中になりすぎて、まったく言葉を選ばなかったことを後悔していると、ふいにガブリエルが席を立ち、ロメリアの座る椅子の傍に膝を落とした。

「……1つ、いいだろうか」

下から向けられる青い瞳を覗き込むような形で、ロメリアは緊張しながら頷く。

「君が……悪い人になるというのは、私には想像できない」
「……うん」
「だが、君がそうなってしまう不安に駆られた時には、すぐに私に言って欲しい」
「なんて言うの?」
「悪い人になりたくない、と」

ガブリエルの瞳に、凛とした光が唐突に浮かんだ。
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