愛する婚約者は、今日も王女様の手にキスをする。

古堂すいう

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不安

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ガブリエルは、しばし考えた後に「美味しい」と答えた。全く「美味しい」とは思っていないように見える変わらずの無表情で。

「君はもう食べないのか?」
「食べるわよ。頑張って食べないと美しくなれないもの」
「……そうか」

頷くガブリエルの雰囲気がほんの僅かに柔らかくなったような気がして、ロメリアの心は温かくなる。

ガブリエルの目元は、ロメリアが威勢のよいことを言えば言うほど柔らかくなった。

(……安心しているのかしら?)

そんな風に時折会話をしながら、2人で食事を続けていると、メイド長が恭しく頭を下げながら食堂へと入ってきた。

その手には1枚の手紙が握られている。

「お食事中、失礼致します……」
「お手紙?」
「はい。 王宮よりのお手紙でございます」
「……それは、本当に私に宛てたものなの?」

王宮にもそれなりに知り合いはいる。

だが、そのほとんどは公爵である父や母の血縁関係者ばかりだ。
それ故に、王宮から手紙が届くにしても父母に宛てたものであることが常なのだが、一体どういうことだろう。

(悪い、予感がする……のは気のせいかしら)

「……王女殿下からお嬢様宛のお手紙でございます」
「……」

案の定であった。

あまりに予想の範疇すぎて、驚くこともない。ロメリアはメイド長から差し出された手紙を手にとって、慎重に封を切った。


──……親愛なるロメリアへ

ここ最近、体調を崩しているとお聞き致しました。見舞いの花でもと思ったのだけど、毎日公爵家にはたくさんのお花が届けられているらしいと聞いて、お手紙を送ることに致しました。力になれることがあったら、なんでも仰ってくださいとお伝えしたくて。

お役に立てることがあるのなら、何でも致します。

どうか、気を使わず、頼りになさってね。

元気になったらまた、いつでも王宮へ遊びにいらしてください。

お待ちしております。


綴られた美しい文字から、マリエンヌの心根の美しさが現れているようだった。内容も大国の王女が書くものとは思えないほど親しみの籠もった優しく慈愛に満ちたものである。

「……体調を心配してくださったみたい」

ロメリアはその手紙を、そっとガブリエルに渡す。

その行動に特別な意図などなかった。

ただ、ここで手紙を見せずにメイド長へ返したら、自分がひどく器の狭い人間になってしまうような気がして……。ほとんど無意識に渡してしまったのである。

案の定、ガブリエルは怪訝な顔をして「なぜ、私に渡す?」と問いかけてきた。


「見せないと……なんだか負けたみたいなんだもの」
「……負ける?」
「王女様の優しさをあなたに隠すみたいで」
「気にしすぎだ」

切り捨てるようではなく、心の底から心配するような声音で諭されても、ロメリアの不安は解消されなかった。

「そうかな」
「……なぜ、そんなに気にする」

ガブリエルの何気ない質問に、ロメリアは1つのことを思い出していた。
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