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覚悟
ずるい人
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「……よく、分かったわ。……あなたって意外とずるい人ね」
ガブリエルはその言葉が意味することをよく分かっているのだろう。自嘲気味に睫毛を伏せる。
「死に際に悔いに思うだなんて言われて、私があなたと距離を取るような薄情な女じゃないって分かっていて、そんな言い方をするんだもの」
「……すまない」
「謝らなくてもいいわ。……本当のことだもの」
ロメリアは毛布を被るのをやめて、ガブリエルの身体に細い腕を回した。
大きな身体はとても冷たくなっていた。長い間、身体で風を受けていたせいだろう。
「細くなった」
耳元でガブリエルの声が響く。哀憐の滲む声音に、ロメリアは苦笑を零した。
「大丈夫よ、死んだりしないわ……」
囁くように告げた瞬間、ガブリエルの腕の力がふいに弱まる。
怯えるようなその動作に驚いて顔を上げると、ガブリエルは陰鬱とした面持ちのまま口を開いた。
「私が望むことは、君に無理を強いることになる」
ガブリエルの言うことは端的ではあるが、的を得ていた。
彼は言外に聞いているのだ。
共にいることを望んだ場合、ロメリアの不安がさらに大きくなって苦しむのではないかと。
正直に言えば、王女殿下と結ばれる運命にあったはずの男の傍にいて、心中穏やかでいられるはずはない。
だが、「悔いが残る」という彼の言葉に、ロメリアは改めて考えさせられたのだ。
自分にとって「悔いが残る」こととは何なのか。前世を思い出して以来、現状の苦しさから逃れることばかり考えていた。だから、この世界で自分が死ぬ時にあるはずの「心残り」など全く考えもしなかったのだ。
自分にとっての心残り……。
今この時をもって、ガブリエルと離れることを選んで「悔いはない」と言い切れるのか。
答えは決まっていた。
「……私もあなたと同じよ。あなたと離れたら悔いが残るわ」
もちろん、全く悔いの残らない人生などないことは分かっている。だが、その大小なら計れると思うのだ。大きな悔いか、小さな悔いか。
今、すべてを諦めてガブリエルと離れると決め、平穏無事な生活を送れたとして。
死ぬ間際に残るのは大きな悔いか、小さな悔いか。
きっと「あの時、望み通りにしていれば」「自分の願いを叶えるためにしがみついていれば」そんな風に悔し涙を流す己の姿が目に浮かぶ。
決して小さくはない悔いが残ることになるだろう。
「……ありがとう」
「またお礼を言うのね……。そんなの必要ないわ。私があなたといたいだけだもの。……でも、そうは言っても、やっぱりこんな姿だからしばらくは会いに来ないで欲しいわ。あなただって忙しいでしょうし、しばらく待っていて頂戴」
ロメリアの言葉に、何故かガブリエルは硬直した。
ガブリエルはその言葉が意味することをよく分かっているのだろう。自嘲気味に睫毛を伏せる。
「死に際に悔いに思うだなんて言われて、私があなたと距離を取るような薄情な女じゃないって分かっていて、そんな言い方をするんだもの」
「……すまない」
「謝らなくてもいいわ。……本当のことだもの」
ロメリアは毛布を被るのをやめて、ガブリエルの身体に細い腕を回した。
大きな身体はとても冷たくなっていた。長い間、身体で風を受けていたせいだろう。
「細くなった」
耳元でガブリエルの声が響く。哀憐の滲む声音に、ロメリアは苦笑を零した。
「大丈夫よ、死んだりしないわ……」
囁くように告げた瞬間、ガブリエルの腕の力がふいに弱まる。
怯えるようなその動作に驚いて顔を上げると、ガブリエルは陰鬱とした面持ちのまま口を開いた。
「私が望むことは、君に無理を強いることになる」
ガブリエルの言うことは端的ではあるが、的を得ていた。
彼は言外に聞いているのだ。
共にいることを望んだ場合、ロメリアの不安がさらに大きくなって苦しむのではないかと。
正直に言えば、王女殿下と結ばれる運命にあったはずの男の傍にいて、心中穏やかでいられるはずはない。
だが、「悔いが残る」という彼の言葉に、ロメリアは改めて考えさせられたのだ。
自分にとって「悔いが残る」こととは何なのか。前世を思い出して以来、現状の苦しさから逃れることばかり考えていた。だから、この世界で自分が死ぬ時にあるはずの「心残り」など全く考えもしなかったのだ。
自分にとっての心残り……。
今この時をもって、ガブリエルと離れることを選んで「悔いはない」と言い切れるのか。
答えは決まっていた。
「……私もあなたと同じよ。あなたと離れたら悔いが残るわ」
もちろん、全く悔いの残らない人生などないことは分かっている。だが、その大小なら計れると思うのだ。大きな悔いか、小さな悔いか。
今、すべてを諦めてガブリエルと離れると決め、平穏無事な生活を送れたとして。
死ぬ間際に残るのは大きな悔いか、小さな悔いか。
きっと「あの時、望み通りにしていれば」「自分の願いを叶えるためにしがみついていれば」そんな風に悔し涙を流す己の姿が目に浮かぶ。
決して小さくはない悔いが残ることになるだろう。
「……ありがとう」
「またお礼を言うのね……。そんなの必要ないわ。私があなたといたいだけだもの。……でも、そうは言っても、やっぱりこんな姿だからしばらくは会いに来ないで欲しいわ。あなただって忙しいでしょうし、しばらく待っていて頂戴」
ロメリアの言葉に、何故かガブリエルは硬直した。
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