愛する婚約者は、今日も王女様の手にキスをする。

古堂すいう

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覚悟

過程

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「……そうだ」

律儀に頷いてみせたガブリエルに、ロメリアは思わず微笑んでしまう。

誤魔化そうともしない彼の心根が眩しく、なにより愛おしいと思う。

そんな風に思ってしまうから、きっともう駄目なのだ。手遅れなのだ。心はどうしても傾いてしまう。

もし、彼がロメリアの言葉を信じてマリエンヌを選んだとしても。それでもきっと、彼のことを嫌いになんてなれない。

「……っ……」

言葉を詰まらせるロメリアに、ガブリエルは焦ったように口を開く。

「すまない。……こんな時だと言うのに、気の利いた言葉が思いつかない」

ガブリエルは、かなり焦っているようだった。

それはそうだ。

普通こういう時は嘘でも「だが、今は誰よりも君のことが可愛いと思う」と言って、機嫌を取るべきところだ。

だが、彼は素直に頷いた。自分でも気づいているのだ。こんな時、もっとかけるべき言葉があることを。

「気にしていないわ。あなたが、そういう人だってちゃんと分かってる。分かってなきゃ、こんなに長い間……あなたを好きでいられるわけないわ」

小さく紡いだ言葉でも、ガブリエルの耳にはよく響いたのだろう。彼は湖面の瞳を揺らして、ロメリアを抱く腕に力を込めた。

「……話を戻すけれど、いい?」

ロメリアが問うと、ガブリエルはすぐに頷いた。

「私は知っているのよ。あなたとマリエンヌ様が結ばれる運命にあることを……。変なことを言っている思うでしょうけれど、これは紛れもない事実。胡散臭い占いでも、超人的な能力である未来予知でもなんでもない。私はただ、その『事実』を知っている」
「……結ばれる運命というのは」
「最終的には、結婚するのよ。あなたは王配になって聡明な王女の治世を支える」
「なぜ、そうなる?」

ガブリエルの冷静な質問の意図をロメリアは察した。騎士であるガブリエルと王女であるマリエンヌには決定的な身分の差がある。

例え、ガブリエルが騎士団長の息子であり、尊い血を引く者を母としていたとしても、現状において彼はただの騎士。

今の段階では、身分差が邪魔をして、ふたりが結ばれるのは到底不可能な話となる。

だが……。

「あなたは、実力で騎士団長になるのよ。数々の困難がこの国に降りかかる。だけど、それをあなたが払い除けて……その功績によって国民から支持を受けて王配となる」

そう。2人が結ばれる前には国を巻き込んだ困難が待ち受けている。

物語的に、そのような困難を乗り越える過程がなければ、騎士であるガブリエルと王女であるマリエンヌが結ばれるのは非常に難しいからだろう。
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