愛する婚約者は、今日も王女様の手にキスをする。

古堂すいう

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吐露

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「……は……っ、離して……」

毛布を深く被ってジタバタと暴れるのだが、ガブリエルはそれでも離そうとはしない。

一体どうして離してくれないのか。あんなに一緒にいたかった時に傍にいてくれなかったのに。

見て欲しいと望まない時には離してくれない。

そんなのあんまりではないか。

ロメリアの悲しみに染まった心に、突如として憤怒が沸き起こった。それは海底から突如として湧き上がった大山のように雄々しく激しくロメリアの心を震わせる。

「離して、って言ってるじゃないの!何よ、会いに行った時はあんなに冷たかったのにどうして……どうしてこんな時に離してくれないの!?前みたいに早く立ち去ればいいじゃない!ほおって置けばいいじゃない!!……迷惑そうにすれば……いいじゃないの」

我が儘を聞き入れてもらえない幼子のように、ロメリアは暴れた。しかし、ガブリエルは騎士であるから、ロメリアの力など所詮は子猫程度のものとしか感じないのだろう。

どれだけ暴れられても、彼の体幹はぶれることなく、彼女を立てた膝の上にのせて支え続けている。

ひとしきり暴れて、結局はガブリエルの力には及ばないことを悟ると、一気に疲れが全身を回る。

操り人形の糸が切れたようにロメリアの身体は唐突にぐったりとした。

「……っ……こんな姿を見られたかったわけじゃないのに」

絞り出された声には痛切さが滲み出ていた。

ロメリアは一層小さくなった手で、ブローチを固く握りしめる。

「……暴れて、ごめんなさい」
 
震える声音で毛布を被り、縮こまりながら謝った。

それに対してガブリエルは、しばらく何も言わなかったが、ふいにロメリアの身体を膝に抱きこむと、その場に座り込んで静かな声で問いかけた。

「……私に姿を見せたくないのか」
「そう言っているじゃない」
「なぜ?」
「なぜって……今の私は美しくないからよ」

いささかつっけんどんに答えると、すぐ傍にあるであろうガブリエルの唇から、静かな吐息が溢れる。

「……私はてっきり、贈り物が気に入らないのかと……思っていた」

だから、急にブローチに変えたのか。とは聞かなかった。分かりきっている答えをわざわざ聞く必要はない。それに聞いたとして、もし「なんとなくだ」と言われるとそれはそれで悲しい気がして、聞けなかったのだ。

再び、2人の間に沈黙が落ちる。

しかし先とは違い、互いの距離はないに等しい。

ガブリエルは毛布を被り、巨大な羊おばけのようになっているロメリアの頭かどうかも分からない部分にそっと触れて、これ以上ないほど深く、穏やかな声で囁きかけた。


「私は……君の顔が見たかった」

たった一言。

告げられた言葉の意味が理解出来ず、ロメリアは硬直する。
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