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2人
過去の宣言
しおりを挟む(どうして……)
今までのガブリエルであれば、何も言わず立ち去っていっただろうに。
一体、どうして……この場に留まるのか。
困惑しながらも、ロメリアには何も聞くことが出来なかった。ふわふわと暖かい毛布が身体全部を覆っているはずなのに、まるで心一つだけが、この場に晒されているようで心許ない。
そんなロメリアの不安を感じ取ったのか。ガブリエルは気配を消すように、ただ何も言わずにその場に留まるだけだった。
(……なんで、何も聞かないのかしら)
聞かれても、答えられやしないけれど。
黙っていられると、彼が何を考えているのかも分からない。その声音から何かを察することも容易ではないだろうけれど、小さな物音にさえ不安を感じるような耳で聞けば、何か分かることがあるかもしれないのに。
(……変なの)
そう思う一方で、こうしてまた身近にいられることがなによりも嬉しいと思う。
「……」
2人の間に落ちた沈黙。風が通り過ぎる音と、舞い落ちる藤色の花弁だけが時間の経過を知らせるだけの空間。運命すらも逃げ出したくなるような静謐で穏やかな場所。
そんな空間にあってどんなに時が経とうとも、ロメリアは決して顔をあげなかったし、声もあげなかった。
「……すまなかった」
ふと、永遠に続くかと思われた静寂の中に、澄んだ声が落ちた。
まるで、池に投げ込まれた石のようにそれ自体は酷く無機質なのに、ロメリアの心に容赦のない波紋を広げていく。
(どうして、あなたが謝るの……?)
ガブリエルは何も悪いことなどしていない。悪いのは、自分なのだ。
たくさん、贈り物をしてくれたのにお礼の言伝をするばかりで直接礼も言えていない上に、こうして呼びかけてくれているのに無視をする始末。
(本当は……こんな風に再会したいわけじゃなかったのに)
ロメリアの瞳にまたじんわりと涙が滲んだ。
ガブリエルの顔を最後に見たのは騎士任命式の時だ。話したのはもっと前で、ロメリアがガブリエルに会いに王宮に行った時。
あの時、確かに自分は宣言したではないか。
『今度会うまでに、ちゃんと「ごめんなさい」って言える立派なレディになるから……だから……だから、それまでわたくしのこと忘れちゃ駄目よ』
それなのに。
立派なレディどころではない。
(ちゃんと謝ると言ったのに、ガブリエルに謝らせてどうするのよ……)
惨めで愚かで、自慢だった美貌ですらも、今や見る影もない自分。
それなのにどうして、忘れないでと言えるだろう。
むしろ、忘れてくれていたほうが良かったのかもしれない。このまま忘れてくれていたら、ここで会うこともなかった。
だが、何がどうしたことか。
ガブリエルは忘れるどころか、ロメリアの横にいて、何故か「すまない」と言う。
意味が分からず、結局どう答えていいのかも分からず、ロメリアはただ沈黙を守るしかなかった。
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